日本語教育論集 世界の日本語教育 第18号 要旨

アジアにおける母語話者日本語教師の新たな役割
―母語話者性と日本人性の視点から―
【PDF:577KB】
平畑奈美(早稲田大学大学院生/東京大学非常勤講師)

日本と日本語教育にとって、アジア地域の重要性はますます高まりつつあるが、この地域では、非母語話者教師による高いレベルの日本語教育が行なわれていることが特徴である。本稿の狙いは、そうしたアジア地域において、母語話者教師は今後どのような役割を果たすべきかを検討することにあり、そのために中国・韓国・台湾・ウズベキスタン・ロシアの中心的な日本語教育機関の有識者に半構造化インタビューを行ない、記述資料にグラウンデッド・セオリーを応用して分析を行なった。その結果、当該地域において母語話者教師には、教育能力、人間性、国際性が、ほぼ等価に期待されていることが判明したが、その背景には「母語話者性(nativeness)」と「日本人性(Japaneseness)」の存在が考えられる。「母語話者性」は、言語規範の象徴として、一般的には肯定的価値を伴うものである。「日本人性」は、「白人性」、すなわち特定マジョリティグループの構造的優位性を表す概念を、転用して使われ始めた用語である。どちらの性質も、母語話者教師が選択的に身につけたものではないが、日本との関係が複雑なアジアでは、絶対的正当性を伴いがちな「母語話者性」が、「日本人性」と結びつき、非母語話者教師に圧迫感を与える場合がある。記述資料の中には、「現地への理解・適応」「謙虚さ」「現地における日本語教育の意義づけ」を求めるものが多かったが、それは発展したアジアの日本語教育が、母語話者に依存し、指導的役割を期待する(森田1983)ものから、母語話者と共存し、母語話者にパートナーシップを期待するものへと変化しつつあることへの表れであろう。従ってアジアにおける母語話者日本語教師の新たな役割とは、「母語話者性」と「日本人性」のもたらす葛藤を越え、しかし、その価値は失うことなく、国際社会の一員として、日本と現地を結び付けていくことだと結論づけられる。

ベトナム語母語話者にとって漢越語知識は日本語学習にどの程度有利に働くか
―日越漢字語の一致度に基づく分析―

【PDF:599KB】
松田真希子 (長岡技術科学大学講師)
タン・ティ・キム・テュエン (ハノイ国家大学外国語大学講師)
ゴ・ミン・トゥイ (ハノイ国家大学外国語大学講師)
金村久美 (名古屋大学講師)
中平勝子 (長岡技術科学大学助教)
三上喜貴 (長岡技術科学大学教授)

本研究は、ベトナム人日本語学習者のための日本語の漢語とベトナム語の漢越語の対照分析である。現代ベトナム語は漢字を使用しないが、語彙には漢語からの借用語(漢越語)が多いため、韓国語・日本語と同様に漢字文化圏に属する。そのため、ベトナム語母語話者は、日本語を学ぶ際に学習ストラテジーとして漢越語知識を活性化させていることが明らかになっている(Tuyen 2003)。しかし、実際に漢越語知識がどの程度日本語学習に効果があるかはまだ明らかにされていない。そこで本研究では、ベトナム人学習者が日本語を学ぶ際、漢越語の知識がどの程度日本語学習に役立つかを明らかにすることを目的に、日本語能力試験出題語彙全約8,000語に占める二字漢字語約4,000語における漢越語との意味の一致状況を調査した。その結果、
(1)二字漢字語においては全体の5割が一致語や類似語である。
(2)1級と2級の二字漢字語については日越漢語の一致や類似が6割近くに達し、更に語彙全体に占める二字漢字語の比率も1級56%、2級46%と高くなっている。
(3)4級語彙については日越の漢字語彙の一致度は多くとも2割以下である。3級も同様に
一致度は低い。
(4)和製漢語と漢越語の一致率は6割以上であり、学術専門用語であれば更に一致する可能性がある。
ということを明らかにした。これにより、漢越語知識は日本語の習得に役に立つが、特に効果が発揮されるのは中級以降であること、また学術専門用語の学習には漢越語知識が役に立つ可能性が高いことが明らかになった。
ただし日本語学習における漢越語の効果については個々の意味の対応の調査だけでなく、書字や音との関係性も踏まえて漢字語彙の認知処理の状況を調べる必要がある。今後の課題である。

日本語学習者の日本人イメージにみられる特徴とその形成要因
―韓国の大学における学習者と非学習者の比較―

【PDF:1,118KB】
呉正培(東北大学大学院文学研究科博士後期課程)

本稿は、日本人という集団に対するイメージが日本人との対人コミュニケーションを阻害しうるという社会心理学の知見に注目し、日本語学習者の日本人イメージの実態とその形成メカニズムに迫るものである。具体的には、学習者と非学習者の比較を通して 1)両者の日本人イメージにおける違いと 2)両者の違いを生み出す要因を検討し、日本語学習の日本人イメージへの影響を探ることを目的とする。韓国のソウル、釜山、大田にある3大学で質問紙調査を行ない、527名(学習者368 名、非学習者159 名)の回答を分析の対象としている。日本人イメージの全体像を詳細に把握するために、従来検討されてこなかった新しいイメージを考慮し、自由記述式の質問紙法を用いた。回答者の日本人に対する記述は3名の判定に基づいて23カテゴリーに分類された。
学習者と非学習者の日本人イメージを比較した結果、学習者は日本人の対人関係のあり方に関するイメージをもちやすく、逆に国家イメージから派生した日本人イメージをもちにくいことを明らかにした。また、学習者と非学習者のイメージ全般の形成要因および対日情報源を分析した結果、両者の違いを生み出す背景要因として、日本語および日本関連の授業から得る知識、日本人との対人コミュニケーション経験、対日情報源の多様性を見出した。
以上の検討より、日本語学習が日本人イメージに与える影響には、日本語の授業による直接的な影響と、日本語の上達に伴う環境の変化(日本人との対人接触の増加、対日情報源の多様化)がもたらす間接的な影響があることが示唆された。

日本人学生とトルコ人学生の依頼行動の分析
―相手配慮の視点から―

【PDF:515KB】
アクドーアン・プナル(広島大学大学院教育学研究科博士後期課程)
大浜るい子(広島大学大学院教育学研究科教員)

本稿は、日本人学生とトルコ人学生による依頼のロールプレイ会話を用いて、日本語とトルコ語の依頼行動を相手配慮という視点から分析し、その共通点と相違点を明らかにしたものである。
本分析から明らかになったことは以下の点である。(1)日本語はトルコ語に比べ同じことの繰り返しが多く、実質的な内容に乏しい。(2)被依頼者の行動は日トで大差はなかったが、依頼者の方に大きな違いが見られた。日本語は直接的な依頼が多く、トルコ語は状況確認や事情説明による間接的な依頼が多かった。(3)日本語では「受け入れに対して障害になる事情」が述べられた後も、直接依頼が行なわれたが、トルコ語では同じ状況で直接依頼はなされなかった。(4)依頼の表現形式としては、日本語では直接形が、トルコ語では間接形が多く使用された。(5)トルコ語に多かった状況確認や事情説明は、数量のみならず内容的にも日本語とは異なり開示情報が豊かであった。(6)「受け入れ後の感謝とその返答」については、トルコ語では定型の挨拶が行なわれたが、日本語ではそれは少なく、一見依頼のやり直しのようなやりとりが見られた。
本分析によって明らかになったことは、トルコ人日本語学習者と日本語母語話者の間でどのような誤解が生じ得、またどのような点に注意すればスムーズなコミュニケーションができるかについて、日本語教育に示唆するところがあるものと思われる。ただし、ここで明らかになったことは、従来日本人の行動として指摘されてきた「相手への配慮重視」とは矛盾するような結果でもあった。日本人の言語行動としてどちらの行動がより事実に近いのか、あるいはどちらも日本人の言語行動の一面を表しているのか、興味深いところである。もし後者であれば、今後これらを互いに関連付け、矛盾なく両方の傾向を説明できる枠組みが求められなければならないだろう。

小集団討論場面における話者交替の日中対照研究
【PDF:1,608KB】
jia qi (九州大学大学院比較社会文化学府国際社会文化専攻博士後期課程)

本研究は、日本語母語話者と中国語母語話者の小集団討論における話者交替について考察したものである。まず、先行研究で見られたターンの定義と実際の考察内容の不一致という問題を解決し、日本語と中国語における話者交替の実態を反映できる話者交替システムを提示した。そして、その分類に従い、量的および質的分析を通して、日中両言語における会話の共通点と相違点を見出し、それを生み出す要因を分析した。
分析の結果、新しい話者交替システムについて、まず、次の話し手を誰が選択するかにより、自己選択と他者選択に分けた。また、自己選択の中に、ターンを始める時点によってTRP(話者交替適確箇所)である場合とTRPでない場合に分類した。更に、TRPである場合では、一人発話と同時発話を取り上げた。そして、TRPでない、即ち、割り込みが生じた場合、参加者の発話の展開により、「ターン奪取」「ターン取得失敗」「ターン並列」と「ターン挿入」の4つに分けた。「ターン並列」は本研究で新しく提示しているものであり、中国語データにしか見当たらなかった。「ターン並列」も「ターン取得失敗」も日本語データより高いため、中国語母語話者の方は割り込まれても、簡単には発話権を譲らず、他人の話し手としての話す権利より自分の方の権利を重んじると考えられる。日本語母語話者の方は、話し手の発話の関連する短い発話を挿入する「ターン挿入」を多用することにより、協力的な姿勢が示されている。また、他者選択の言語形式から見れば、中国語母語話者の方は参加者の発話内容に焦点を当てる「内容重視型」であるのに対して、日本語母語話者は参加者全員の意見を表明する発話を確保しようとしているように見えるため、「人間関係重視型」と推測できる。

どのような母語保持努力が
母語・日本語の認知面の発達を促すか
―中国語を母語とする子どもの場合―

【PDF:540KB】
穆紅 (お茶の水女子大学大学院生)

本研究は、日本の公立小中学校に在籍している中国語を母語とする子どもの会話力の認知面に焦点を当てて、様々な母語保持努力の中で、どのような母語保持努力が母語と日本語の会話力の認知面の発達を促すかを検討した。具体的には、中国語を母語とする子ども52名を対象に二言語によるOBC会話テストを実施し、子どもの保護者に質問紙調査を行なった上で、母語保持努力と二言語会話力の認知面の関係を小学生と中学生に分けて分析した。その結果、小中学生のどちらにおいても、母語による教科学習が、二言語会話力の認知面の発達を促す最も重要な母語保持努力であることがわかった。小学生の場合は、母語による教科学習以外に母語の勉強を行なうことも重要であるが、中学生の場合は、母語の勉強だけでは二言語の認知面の発達を促す役割が十分に果たされず、母語で教科学習を行なうことが最も重要だと示された。また、幼児期に母語の基礎作りを行なうことが、二言語会話力の認知面の発達を促す可能性があると予測された。以上のことから、子どもを取り巻く親や教師、支援者がそれぞれの年齢層の子どもに柔軟に対応して、母語と日本語の認知面の発達を配慮した上で母語による学習機会を作り出すことが重要だと示唆された。

グループワークの経験が中国人学習者の
言語学習観に及ぼす影響
―日本語専攻主幹科目の受講生を対象とする実証的研究―

【PDF:1,112KB】
楊峻 (北京語言大学講師/お茶の水女子大学大学院生)

「精読」は中国の日本語専攻の主幹科目であり、カリキュラム上で重要な位置づけとなっている。精読の授業は教師主導の下に文法学習を中心に据え、進められていることに特徴がある。最近、このような授業のあり方に対して、学習者の能動性が軽視されている、文法知識には詳しいが運用力が十分養成されないなどといった問題点が指摘され、授業の改善の必要性が指摘されるようになった。その改善策の一つとして、グループワーク学習活動を精読授業に導入することが考えられる。しかし、新たな活動を教室に導入する際に、学習者の持つ言語学習観が大きな鍵となる。本研究では、精読授業におけるグループワークの効果検証を目指し、その前段階として、グループワークの経験が精読受講生の言語学習観に及ぼす影響を探ることを目的とし、2つの研究課題を設定した。
課題1では精読受講生はどんな言語学習観を持っているかを検討した。言語学習観に関する質問紙調査の結果を項目ごとに分析した上、各領域間の関連性を検討した結果、受講生の言語学習観には、伝統的側面と非伝統的側面が共存していることが分かった。
課題2では翻訳活動と会話活動のグループワークを経験して、彼らの言語学習観にどんな変化が見られるかを検討した。グループワーク実施前と実施後の質問紙調査の結果をt検定にかけ、変化を調べた。その結果、27の質問項目の中で4項目に変化が見られた。4項目の変化方向を調べたところ、2項目は期待している方向に変化し、2項目は期待に反した変化が起った。
変化の見られた項目はグループワークの学習形態及び活動デザインの違いによる影響だと考えられる。
本研究の結果から、精読授業にグループワークを導入するには、学習者の持つ言語学習観を十分考慮に入れながら、活動をデザインする必要があると考えられる。

可能表現の対象格標示
【PDF:491KB】
青木ひろみ (神田外語大学外国語学部准教授)

日本語における可能表現の対象格標示には、「英語が話せる」「英語を話せる」のように「ガ」と「ヲ」2つの用法がある。日本語学習者用のテキストでは、可能表現の対象格について「ガ」で標示されているものが多い。しかし、実際の言語使用や書かれた資料では両方共用いられる一方で、このような対象格の交替が自由に起きるという訳ではないのも事実である。これまでの研究では、状態述語文の意味的な制約について、[±状態的]、「自発性」と「使役性」、また“spontaneous”と“controlled”という用語で説明されているが、いずれも対象格表示の一側面を捉えたものである。
本稿では、Hopper & Thompson(1980)をはじめとする「他動性(transitivity)」の研究から、特に、主体と対象という「参与者(participants)」の特徴として、「動作主性(agency)」と「被作用性(affectedness of object)」に関わる要因から考察した。結果、可能表現に対象格「ヲ」が「ガ」に変わるという説明だけでは十分とは言えない。また、日本語学習者用のテキストにおいても、対象格の提示の仕方や、それに付随した練習問題の取り扱い方にも検討が求められるのではないかと考える。

「対話的問題提起学習」が母語話者参加者の
積極的共生態度に及ぼす影響
PAC 分析を用いた事例検証―
【PDF:614KB】
半原芳子 (海外技術者研修協会横浜研修センター非常勤講師)

近年、日本に定住する外国籍住民の増加を背景に、日本語母語話者住民(NS)と非母語話者住民(NNS)が共に集う地域日本語教育の現場で、両者の共生に向けた相互学習の試みがなされている。本稿では、共生の促進を目指した「対話的問題提起学習」(岡崎・西川1993)の実践が、文化交流志向の強いNSの積極的共生態度にどのような影響を及ぼすかを調べるため、対話的問題提起学習参加前後のNSのNNSとの共生に対する態度を、PAC分析を用いて比較・検証した。
その結果、参加前には、共生について「交流」「個を見る」「共生を難しくすること」として構造化されていた態度が、参加後には「相手への理解」「NS・NNS両者の歩み寄る勇気」「NSの周囲への配慮」という構造に変化し、共生に向けてNSが主体的に自己の役割を見出していることが示され、積極的共生態度への転換が示唆された。
本稿では、この転換をもたらしたものとして、対話的問題提起学習における、(1)NSも学習者であること、(2)取り上げる話題が生活上の問題であること、(3)NSとNNSの対話を目指したものであること、の3つの特徴をその要因として提示した。

第二言語及び外国語としての日本語学習者における
非現場指示の習得
―台湾人の日本語学習者を対象に―

【PDF:603KB】
孫愛維 (お茶の水女子大学博士後期課程)

本研究では、第二言語及び外国語として日本語を学ぶ台湾人学習者における非現場指示の習得を検討した。調査資料として、宋(1991)の枠組みに基づき作成した三肢選択質問紙による学習者の回答を集計し、学習環境が非現場指示の習得に及ぼす影響を探った。その結果、学習環境が非現場指示の習得に与える影響を日本語能力別に探ったところ、下位レベルの学習者においては、JSLJFLの間に有意差が見られなかったが、上位レベルの学習者においては、JSLJFLより指示詞の習得が進んでいた。また、誤用については、中国語による負の転移である「誤用のコ」は、全体的にJFLよりJSLの方が少ない一方、「独立的話題指示のア」において、誤用のソ」は下位レベルの学習者ではJSLJFL より多く見られた。これについては、母語話者のインプットによる影響の可能性が考えられる。また、日本語能力が非現場指示の習得に与える影響を学習環境別に検討した結果、JSLにおいては、日本語能力が高くなるにつれて、非現場指示の習得が進むものの、JFLにおいては、日本語能力による変化が少ないという結果が得られた。

日本語とアムド・チベット語における
使役表現の意味について
―日本語教育の視点から―

【PDF:363KB】
札西才譲(タシツリン) (青海民族学院助教授)

アムド・チベット人学習者が日本語を話す際に「keu jeug」の代わりに「~させる」を使用してしまうのが一般的である。本稿では、この二つの形態が付く両言語の使役表現を「直接関与型使役表現」、「間接関与型使役表現」、「非関与型」という三つのタイプに分け、それぞれの語用論的な意味をさらに下位分類しながら考察した。
その結果、両言語の三つのタイプの使役表現の語用論的な意味のうち、完全に共通しているのは「誘導」と「許可」、「放任」場合のみであり、ほかの場合は次のような違いがあることが明らかになった。
第一に「強制」と「供給」の場合、両言語の語用論的な意味は基本的に共通しているものの、形態的には「keu jeug」は「~させる」に対応すると同時に、「~させられる」と「~させてあげる」にも対応している。第二に「供給」の場合、チベット語では目上を被使役者の位置に据えることができるが、日本語ではできない。第三に「依頼」と「譲歩」の場合、チベット語では「keu jeug」で表現できるが、日本語ではできない。チベット語では「依頼」を表すにも「keu jeug」を使うのに、日本語では「~てもらう」を使うのが一般的である。第四として「責任」と「非難」の場合、日本語では「死ぬ」という動詞が述語になる場合を除いて、「~させる」だけではこの意味を表せないが、チベット語ではほかの動詞が述語となる場合も「keu jeug」の形態だけでこの意味を表すことができる。
こうした両言語の違いから分かるのは、チベット語の「keu jeug」の形態が付く使役表現は語用論的な意味から言っても、また述語となる動詞との関係から言っても日本語の「~させる」の形態が付く使役表現よりはるかに広い範囲で使われているということである。

マレー人日本語学習者の作文にみられた漢字の書き誤り
【PDF:744KB】
佐々木良造 (マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース日本語科常勤講師)

本研究は、非漢字圏日本語学習者の作文にみられた漢字の書き誤りを収集し、Hatta et al(1997)に従い、分類を試みたものである。分類の結果、Hatta et al(1997、1998)、大北(2001)と同様、非漢字で代用」の書き誤りが最も多かった。「非漢字」の書き誤りの要因で最も多かったのは「非漢字で代用」の書き誤りが最も多かった。「非漢字」の書き誤りの要因で最も多かったのは「異なる部品の使用」による書き誤りであった。これは、本調査の対象となった学習者が「非漢字圏日本語学習者は覚えやすい部分を切り取り、他の形を継ぎ足す」(伊藤2006)という漢字の記憶方略をとっていることを示唆する結果である。つまり、学習者が書き誤りやすい部分とは「継ぎ足し」の部分であり「継ぎ足し」となる小部品に注意を促す指導の必要性が示された。そして、「非漢字」の書き誤りの要因で次に多かったのは「1画多いまたは少ない」であった。特に、横線が1画少ない書き誤りが多く見られた。
よく言われる「細かいところが間違えやすい」の「細かいところ」とは、具体的には「継ぎ足された部品」あるいは「1画多いまたは少ない」という2 つの点であることがわかった。
一方、書き誤りの要因で少なかったのは「部品の配置の誤り」および「部品の付加または脱落」であった。書き誤りの少ない要因と多い要因を比較すると、前者は漢字の全体的な形の把握に関わる書き誤りであり、後者は漢字の細部の書き誤りであると言えよう。「漢字の学習過程は全体的構造から部品の細部へと習得が進む」と言われている(大北2001)ことから、調査の対象となった学習者は部品の細部への習得」が進んでいるところであることをうかがわせる。


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