英国(2013年度)

日本語教育 国・地域別情報

1.調査目的

 本件調査は、1998年に英国における外国語に堪能な人材の状況が、英国経済の将来にとって適正な状況にあるか否か、不足がある場合、どのような方策をもって改善すべきかを調査することを目的としている。具体的には、次の3点となっている。

  1. (1)向こう20年間の経済、外交、社会、文化の諸分野において英国が照準を合わせている目標と果たすべき責任を満たすためには、また英国市民の要請に応えるためには、英国民はどの程度、外国語に通じるべきか。
  2. (2)上述のニーズを満たすには、現行政策をどのように発展、改善すべきか。
  3. (3)現状を踏まえた上で求められる戦略的な実行計画、促進策はいかなるものか。
     よって、13名からなる委員会は、言語教育界と実業界から同数程度の委員を受け入れている。委員長はトレバー・マクドナルド氏と、ジョン・ボイド卿の並立制となっている(なお、ボイド卿は駐日大使経験者であることから、本件報告書は日本語にとって不利益のないものとなっている)。

2.報告書:調査結果と提言

 報告書は、広範な利害関係機関、個人に対する調査結果を根拠とするのみならず、専門家の助言をも等しく取り入れている。加えて、公的機関、私的機関の別なく、現場の個々の雇用者へのインタビューも行なわれ、1000名程度の個人からE-mailで送られた意見をも反映したものとなっている。

2-1.調査結果

  1. (1)幸運にも英語は国際語として流通しているが、今日の油断ならない競争社会において、排他的に英語のみを信奉することは、他者の語学力と善意に依存することとなり熾烈な競争を勝ち抜くには不十分であること。
  2. (2)英国民は、国家レベルでの外国語能力向上のためのリーダーシップを求めている。近年、外国語学習に対する英国人の姿勢は目に見えて前向きなものとなってきておりその重要性が理解されてきている。特に若年労働者層ではこれが著しい。
  3. (3)英国の若年層は、雇用市場で不利益を蒙っている。仕事での使用に堪えるだけの外国語能力を有する人材があらゆる意味で長年にわたって不足しているため、雇用に悪影響が出ていること。徐々に、企業は職業専門知識に加えて外国語能力をも有する人材を必要とするようになり、英語に堪能な外国語母語話者(例えば、英語に堪能なドイツ人を雇用して、ドイツ語に堪能な英国人を雇用するのと同等の結果を得る)を採用するほか選択肢がなくなっている。このままでは、英国における雇用機会が非英国人に専有されるおそれがある。
  4. (4)英国は、フランス語のみならず様々な言語への理解力を必要としているが、教育制度は、これを達成するのに適していない。中等教育機関、高等教育機関における言語教育は、選択できる言語の幅、能力・適性に応じた選択肢のどちらの面でも、将来の英国のために、こうあるべきという合格ラインに達していない。われわれがより広範な外国語学習に取り組むべきときであるのに、不適当なカリキュラム、財政逼迫、人材確保の困難により、依然、限られた言語のみしか教えられていない。
  5. (5)政府の言語問題に対するアプローチは首尾一貫していない。教育をはじめ多くの政府が関与する分野では、言語問題について多くの積極的な改善がなされてはいるが、連繋のない個々の主導者による改善策のツギハギとなっている。初等教育から高等教育、更には成人教育までを貫く原則もなければ、ある分野での開発結果が他に転用、活用されることもない。
  6. (6)保護者層の要求にもかかわらず、外国語の早期教育に関する国家的な議論がなされていない。学術研究の成果にも裏付けられた一般大衆の理解は、次世代の英国民がより高い水準に達するには、外国語教育の早期化が必要だということである。早い時期から英語以外の言語を学ぶことは、言語能力そのものの向上させ、英国における公民権への理解を深め、異文化を許容する心を育むものでもある。
  7. (7)中等教育段階にある生徒は、外国語学習への意欲が欠け進むべき方向を見失っている。16歳になるまでは多くの生徒が外国語を学んでいるのに、卒業時に満足に外国語を使えるようになっている者は稀である。現在の言語教育の在り方は、生徒の意欲をそぐものであり、やる気を起こさせるような社会的なメッセージもなく、生徒たちには、外国語学習は「割に合わない」とみなされている。
  8. (8)9割がたの生徒は、16歳になると外国語学習を止めてしまう。現在、後期中等教育段階(16歳から19歳)における外国語教育は、個人的必要も国家的ニーズも満たすものではない。現状では、16歳以降も外国語学習を継続するか否かは、外国語の専門家を目指すか全く諦めてしまうかという苛酷な選択を迫られることとなっている。16歳以降でも外国語学習を続けられるようカリキュラムの幅を拡げることは歓迎すべきことではあるが、もっと過激な変革が必要であろう。
  9. (9)高等教育機関における言語教育部門の多くが閉鎖し、破滅の危機に陥っている。21世紀に向けた高邁な言語教育プログラムの提供を目指しているものの、研究の専門性と伝統ばかりを称揚する旧弊な財政、経営構造により行き詰まっている。高等教育段階においては、長期的な成果への配慮を欠いた国家的統一のない外国語教育しかなされていない。
  10. (10)社会人の間でも外国語学習熱が高いのに、成人教育における外国語教育制度は貧相なものである。生涯学習の重要性に関する昨今の政府の認識はタイムリーなものではある。近年の成人教育における外国語学習に関する一貫性の欠如と、厳しい財政は、基幹となるべき成人教育機関の減少を招いている。
  11. (11)外国語教師の不足は絶望的なほどである。非常な教師不足は教育機関での外国語教育の質にダメージを与えるとともに、教師不足そのものが改善されないという悪循環をも産み出している。教師養成を行なっている大学学部が閉鎖の危機に脅かされているのである。
【補足】
  • (1)に関わる象徴的事例として、報告書は旅行産業界に厳しい目を向けている。
    毎年、英国を訪れる約2,500万人の旅行者のうち3分の2の旅行者が英語を母語としない。それにも拘らず、また旅行産業は旅行者へのサービス提供で利益を得ているのであるから、他国の(通常、英語に不自由はなく、その他の言語をも操る)旅行業者との競争に英語一本で対抗するのが不利であることが明白なのに、英国旅行産業関係者は顧客である旅行者側に英語を話す努力を期待しており、これは由々しき問題であると指摘している。
  • (7)、(8)の背景として、6th Formと呼ばれる大学進学準備課程の2年間において、英国人生徒は、A-level試験対策に追われ、またA-level受験科目として外国語が人気がないことがある。わが国では大学入学選考において外国語試験が必須のものとなっているのと異なり、英国では一斉入学試験のようなものはなく、16歳で受験するGCSE(中等教育一般修了証)の成績をもとに、中等教育最終学年次になるや各大学に願書を提出し、面接等の中間選考を通過した後、A-levelの成績により最終入学可否が決まることとなっている(例えば、GCSE9科目とも評価Aという優秀な成績をおさめ、ケンブリッジ大学に願書を出し、面接にもパスしたとき、大学側から入学条件として、例えばA-level試験で、4科目でA取得のこともしくは、3科目でA、2科目でB取得のことといった条件が課される)。従って、生徒は自分にとってより少ない学習時間で優秀な成績を修めることができる科目を探しており、必ずしも外国語科目を受験しなくてもよい。
  • (4)において、「フランス語のみならず」との語句が挿入されていることは興味深いことである。現在、英国人が学習する外国語としてはフランス語が支配的であるが、将来の外国語学習の世界での「一人勝ち」を予め牽制する趣旨があるといえよう。

2-2.提言

  1. (1)外国語を必要不可欠なスキルに指定すること。経済競争、知的に寛容であること、社会調和の促進等について、外国語教育は直接的な貢献を成し得るものであるから、現在、政府が教育改革において、英国の将来にとって必要不可欠なスキルとして、数理解析能力、自国語運用力、情報通信知識を指定しているが、これに外国語を追加指定すること。
  2. (2)政府は外国語学習について国家的戦略とこれを支援するシステムを早急に樹立すべきであること。
  3. (3)内閣に語学政策責任者を任命すること。外国語学習の国家戦略を成功裡に実施することは、立法行政府、企業、そして一般大衆が大所高所に立って協力作業を行なわなくてはかなわない課題であるので、これを効果的に実施するには、首相へ直接に提言することができるような語学政策責任者を内閣に設けるべきである。
  4. (4)外国語学習への関心を高めること。政府は、外国語学習に対する国民の肯定的な姿勢を促し、また外国語学習の将来性についての知識を高め、他言語文化をはぐくむことが大衆の到達目標とされるよう、継続的なキャンペーンを行なうべきである。
  5. (5)早期学習の実施。政府は、早期教育の実現に断固とりくむことを公約し、全ての生徒が7歳で外国語学習を開始するために必要な長期政策への投資を行なうべきである。この公約の先鞭として、インターナショナル・プライマリー・スクールを創設し、言語認知に関する知識を教育政策に導入すべきである。
  6. (6)中等教育機関における外国語学習環境の改善。より多くの言語を学べるよう、また個別のニーズ、能力、関心に対応できる柔軟な選択肢を提供できるよう、また情報通信技術を一層、言語教育に活用できるよう、中等教育機関における外国語学習はアップデートされるべきである。中等教育修了時には、全ての生徒が、基礎となる技能、正確な文法理解、卒業後の継続学習のためのスキルを身に付けているべきである。
  7. (7)外国語学習の後期中等教育(16歳から19歳)課程における必修科目化。外国語能力を、大学入学の条件とし、職能資格としても指定すべきである。外国語の専門家となることを望んでいない多数派の生徒にとっても魅力があり、既に身に付けた外国語運用力を伸ばし、第2、第3の外国語を習得できるようなコースを用意すべきである。
  8. (8)高等教育機関における組織改編と外国語教育のための財源確保を行なうこと。高等教育における外国語教育についての国家的検討課題は、まずは早急に外国語専門家が全国津々浦々の大学に充分にいきわたるようにすることであり、次いで外国語を全ての学位取得のための必修単位とすることである。これら改善策は、英国が必要としている外国語ニーズに対して配慮怠りない方法で計画され処理されなければならない。
  9. (9)成人教育における外国語学習は大変な発展可能性を秘めているので、これを増進すること。各界の要望に応え投資活動、協同研究、諸々の交渉を堅固なものとし、その水準を高めるために、政府は責任をもって外国語の生涯学習の促進に取り組むべきである。
  10. (10)外国語教師不足による悪循環(教師不足→コース不足→外国語学習の沈滞化→外国語に堪能な人材の不足→教師不足)を断ちきること。雇用教育担当大臣は、より多くの人材を外国語教師の職に引き付けるべく、短期集中的に一連のラディカルな方策を講ずるべきである。並行して、外国語教師不足の長期的解決策として、前述した外国語学習の後期中等教育課程必修化と大学入学条件化をまず行ない、その上で外国語教師養成に着手すべきである。
  11. (11)外国語能力について詳細に説明し、一般に容認されるナショナルスタンダードの枠組みを制定すること。この枠組みは、英国の教育・雇用分野の現在の資格制度と欧州評議会の枠組みを包含した内容でなくてはならない。また明確で透明性が高く、専門家以外の人々が理解できる言葉で述べられたものでなくてはならない。
  12. (12)情報通信技術教育と外国語教育の連繋した促進。外国語教育振興策は、現存の先駆的な情報通信技術教育振興策を支援し協調するものでなくてはならず、また外国語教育には最新技術が不足なく利用されるべきである。

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