ブルガリア(2016年度)

日本語教育 国・地域別情報

2015年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数
初等教育 中等教育 高等教育 その他
教育機関
合計
7 33 467 504 207 67 1,245
37.5% 40.5% 16.6% 5.4% 100.0%

(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 ブルガリアの日本語教育は1968年ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学(以下、「ソフィア大学」)東洋言語文化センターに日本語夜間公開講座が開設されたことにより始まった。1990年、ソフィア大学古典および現代言語文学部東アジア言語文化学科日本専攻が設立されたのを皮切りに、ソフィア「ウィリアム・グラッドストーン」第18総合学校(1992年)、ヴェリコ・タルノヴォ「聖キリルと聖メトディ」大学(1993年)、ルセ「ヴァシル・レフスキー」総合学校(2005年)等でも日本語が専攻できるようになった。最近では、ソフィア「Prof.ヴァシル・ズラタルスキー」第138総合学校(2012年)でも正規課程として日本語教育が導入された他、ブラゴエフグラッド「ネオフィト・リルスキ」南西大学(2015年)などでも日本語のクラスが行われている。
 スヴィシュトフ「ツェノフ」経済大学でも以前は日本語が専攻できたが、外務省の「日本文化発信プログラム」ボランティア(以下、文化発信ボランティア)撤退後は日本語専攻は廃止された。文化発信ボランティア撤退後、日本人教師が不足しており、今後も継続して日本語教育が行えるのか不透明な機関もある。
 学校教育以外では、ブルガリアでの日本語能力試験実施を担当している「キリルとメトディ基金」の日本語講座、民間の日本語学校等でも日本語教育が行われている。
 2006年10月、ブルガリアで最初に開設された日本語教育機関であり、1968年より続いてきたソフィア大学東洋言語文化センター日本語夜間講座は改組され、大学独自の運営により、2007年3月、大学生以上の学習者を対象とする一般公開講座(ノンディグリー・プログラム)となった。この講座では日本語だけでなく、日本文化や歴史などの授業も行われている。それまでの夜間講座と異なる点は、4つのセメスターを修めた者にソフィア大学の修了証(ディプロマ)が授与されることである。なお、ソフィア大学東洋言語センター日本専攻とは別機関である。
 大学の学部以上のレベルの日本語教育という点では、ソフィア大学東アジア言語文化学科に2005~2006年度に修士課程が設置され、大学院でも日本学の研究が継続できるようになったことが挙げられる。また、2013年からは日本学専攻自体の修士課程も開始されている。

背景

 1989年以降の東欧革命以前から日本の映画がテレビで放映されていたこともあり、日本の伝統文化やアジア的思想に対する関心は高かった。1990年以降、特に若者を中心に日本の経済やマンガ・アニメ・音楽などの新しい文化への関心、日本語・日本学というブルガリアでは比較的新しい学問分野への知的好奇心が日本語教育の普及に影響を与えていると考えられる。

特徴

 高等教育機関や一般公開講座における学習動機として、日本文化、日本の政治経済、日本語に対する純粋な知的好奇心を挙げる学習者が多いことが特徴である。学習を継続する段階で、観光ガイドや日本語を日常的に使用する仕事に就くことを希望するケースは少なくないが、最近はアニメや漫画をきっかけとして日本語の学習を始めた人が非常に多く、就職などへ結びつけるというよりはポップカルチャーを含む日本の文化を理解したいという目的を持つ学習者が多い。

最新動向

 文化発信プログラムによるボランティア撤退後、日本語・日本文化の講義を取りやめるといった機関も出ているが、大使館の文化行事や各教育機関による日本文化祭などには大勢の人々が訪れており、一定の人気を保っているように思われる。

教育段階別の状況

初等教育

 (下記【中等教育】を参照のこと)

中等教育

《ソフィア「ウィリアム・グラットストーン」第18総合学校日本語学科》

 (日本語教育開始年:1992年)
 ブルガリアで日本語教育を正規に取り入れた最初の初等・中等教育機関。1992年に日本語教育が始まったときは、8年生から12年生までの中等教育のみであったが、2005~2006年度より初等教育でも日本語が始まり、現在は1年生から12年生までの全学年で日本語教育が行われている。また、他学科の学生も選択履修として日本語を学習でき、それら他学科の8年生~11年生の学生を含めると、学習者総数は約600名。これはブルガリアの日本語教育機関の中で最も多い。

《ルセ「ヴァシル・レフスキー」総合学校》

 (日本語教育開始年:2006年)
 ドナウ川沿いの主要地方都市ルセ市において日本語教育を行っている初等・中等教育機関で、150年の歴史を持つ、ブルガリアでは最大級の初等・中等教育機関。上記ソフィア第18総合学校をモデルに2005~2006年から日本語教育が導入され、1~7年生までは選択必修として、8~12年生は主専攻として、文化理解、異文化体験を目的に日本語と日本文化が教えられている。日本語学習者数は約300名で、そのうち約70名が主専攻として学んでいる。

《ソフィア「Prof.ヴァシル・ズラタルスキー」第138総合学校》

 2009年に同校に「平山郁夫学校」が開校されたことを受け、2012年から日本語教育を開始した。現在は、日本の教育制度の中学校2年生に当たる8年生から高校3年生相当の12年生までが日本語を勉強している。2016年度から、8年生から卒業学年の12年生まで日本語が学ばれるようになった。。授業は日本語(文法、語彙、漢字、会話、作文など)が中心だが、文化にも触れており、選択科目として現代日本文化も学習できる。教師は現地教師が3名。学習者数は135名。

高等教育

《ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学古典および現代言語文学部東アジア言語文化学科日本専攻》

 (日本語教育開始年:1990年)
 日本学主専攻。日本語の授業以外に日本学、日本語学(入門、文字論、音声論、語彙論、形態論、統語論)、日本文学(入門、古典、近代、現代)、文語(中世資料)、言語学(入門、社会言語学)、翻訳論・翻訳実践、日本史(中世、近代、現代)、日本文化(宗教、言語、現代文化)、日本国家・政治論、日本民俗学などの授業も行われている。また、同修士課程では、日本語、日本文化、芸能・演劇、社会・経済、神道、現代日本研究、禅、建築、民俗誌などについての講義がある。修士課程は1年で、修士論文の審査が行われる。

《ヴェリコ・タルノヴォ「聖キリルと聖メトディ」大学文献学部古典・東洋言語文化学科 応用言語専攻》

(以下、「ヴェリコ・タルノヴォ大学」)
 (日本語教育開始年:1993年)
 日本語は第二外国語のひとつ(英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語、中国語の中から、受験言語であった言語が必修となり、さらに、受験言語ではない言語の中から第二外国語を選択。学習時間は後者の方が多くなっている)。通訳・翻訳者の養成を目的とし、日本語の授業以外に日本文学、歴史・文化、翻訳・通訳、構文論・形態論などの授業も行われている。2004-2005年度に導入されたECTS(European Credits Transfer System)の影響で、日本語科目の学習時間数が大幅に削減された。学習者数は約51名。

《ヴェリコ・タルノヴォ「聖キリルと聖メトディ」大学文献学部古典・東洋言語文化学科 ブルガリア語・日本語専攻》

 (日本語教育開始年:2012年)
 上記の応用言語専攻とは別のコースで、ブルガリア語と日本語を専門とする。4年間の課程を修了することで、ブルガリア語と日本語の講師になる資格を取ることができる。日本語以外に日本文明・歴史・宗教(あるいは神話)・構文論・形態論・翻訳・通訳・文学・教授法などの授業も行われている。2016年の時点では、3年生と4年生のみで17名が在籍。

その他教育機関

《ソフィア大学東洋言語文化センター「日本語・日本文化」講座(ノンディグリ―・プログラム)

 (日本語教育開始年:1968年。2006年10月に閉鎖されたが、日本語夜間公開講座の後身としてソフィア大学主導により2007年3月より再開している。)》
 ブルガリアで最初に開設された日本語教育機関であるソフィア大学夜間公開講座の後身としての一般公開講座。大学生以上の学習者を対象とした2年間のノンディグリ―・プログラムであり、既定の科目を履修し、合格すれば修了証(ディプロマ)が授与される。2013年度には「日本語」、「日本文化−歴史・伝統・現代−」、「禅と伝統芸能」などの講義が行われていた。

《シュメン「コンスタンティン・プレスラフスキー」大学》

 ICEA(International Cross-cultural Exchange Association)から日本人教師が派遣され、一般講座として日本語の授業が行われている。対象者は大学生、社会人、同大学教師等だが、年によっては卒業単位になっている。日本語や日本文化(書道・寿司など)が教えられている。

《キリルとメトディ国際基金》

 (日本語教育開始年:2009年)
 ブルガリアの日本語教育を支援する機関。日本語能力試験の実施運営・窓口、在ブルガリア大使館と共催で日本語弁論大会の実施、日本留学の支援などを行っている。日本語講座もあり、現在はN5~N3 レベルの6コースで42名が受講している。

《アゴラソフィア》

 民間の日本語学校。2009年に日本語教育を開始。学習者数は約150名。児童向けから上級者までのコースを設置している。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 4-3-5制。
 今般、学校教育制度が見直され、「就学前教育・学校教育法」が施行(2015年10月13日可決、2016年8月1日施行)。初等教育(4年)、前期中等教育(3年)、後期中等教育(5年)、高等教育(4年)に分類される。中等教育機関への進学率は教育・科学省の資料(2015/2016)によると、81.5%、高等教育機関への進学率は42%である。
 義務教育は、5歳からの就学前教育を含め,16歳(10年生)まで。

教育行政

 初等・中等・高等教育機関のほとんどが教育・科学省の管轄下にある。

言語事情

 国民の大部分はブルガリア語を話す。トルコ系住民(総人口の約10%)の間ではトルコ語が話されている。ロマ系住民の間では家庭内でロマ語が話されているが、国語としてはブルガリア語しか使われていない。若い世代は英語を解する者が多くなっている。

外国語教育

 2016年8月の新法施行までは、初等教育の2年生(8~9歳)から第一外国語の学習が必修となり、中等教育(9年生)から第二外国語の学習が必修、第二外国語は本人の希望により初等教育の5年生から選択科目として履修することができる、という状況であった。なお、第一外国語としては英語を学ぶ者が最も多く、その他の外国語ではフランス語、ドイツ語、ロシア語を学習する者が多い。

外国語の中での日本語の人気

 日本語は第二外国語のひとつとして扱われ、他の外国語(特に英語、フランス語、ドイツ語)と比較すると学習者の数は少ないが、一定数を維持している。学生のみならず一般市民の間でも日本語・日本文化に対する関心は高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で受験科目として日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 低学年時は、ひらがな教材やカタカナ教材、自作教材などが使用され、『Japanese for Young People』国際日本語普及協会(講談社USA)なども使用されている。

中等教育

 主教材として『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が使用されている。上の学年では『日本語中級J301』土岐哲ほか(スリーエーネットワーク)を使用している機関もある。

高等教育

 日本語教育の位置づけが異なるため、使用教材は機関により異なっている。初級段階の主教材としては『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』(前出)、『げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)などが使用されている。中級以上では、『中級へ行こう』平井悦子ほか(スリーエーネットワーク)、『中級を学ぼう中級前期』平井悦子ほか(スリーエーネットワーク)、『日本語中級J301』、『日本語中級J501』(前出)、『みんなの日本語 中級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『上級へのとびら』岡まゆみほか(くろしお出版)、『生きた素材で学ぶ中級から上級への日本語』鎌田修ほか(ジャパンタイムズ)などが使用されている。副教材は日本で出版されたものや教師が独自に作成したものが使用されている。

その他教育機関

 『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』(前出)、『にほんごかんたん』坂起世ほか(研究社)などが使用されている。

マルチメディア・コンピューター

 各日本語教育機関とも財政難により日本語教育のためのコンピュータの導入は進んでいない。

教師

資格要件

初等教育

 明確な資格はないが、学士号取得を条件としているところもある。

中等教育

 明確な資格はないが、学士号取得を条件としているところもある。

高等教育

 明確な資格はないが、修士号取得を条件としているところもある。日本人では、国際交流基金派遣の日本語専門家と日本語指導助手(日本語教師派遣情報参照)のほか、ICEAからの派遣により当国の日本語教育機関と個別に雇用契約を交わし教授活動を行う教員が4名存在する。

その他教育機関

 明確な資格はない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成を直接の目的とした機関はないが、ソフィア大学とヴェリコ・タルノヴォ大学がその役割を果たしている。また、2012年からはヴェリコ・タルノヴォ大学に「日本語・ブルガリア語」専攻が開設され、ここでは卒業後に日本語講師の資格を与えることになっている。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 初等・中等教育への日本語教育の拡大により、日本人教師が切望されている。しかしEU加盟後、長期査証取得手続の複雑化と審査の厳格化により、日本人教師が継続して勤務するための法的地位の獲得が更に難しくなっている。特に教育機関が教員に給与等を支払う能力を持たない等の理由でボランティアによる教授活動を希望する場合、ブルガリアの法制度上ボランティア労働は労働査証発給対象となる「労働」とみなされないため査証の取得は困難を極める。しかし、過去にはルセ総合学校ヴァシル・レフスキーのように日本人教師と正規に労働契約を結ぶことで長期継続勤務可能なネイティブ教師を獲得した例もある。
 初等教育では、日本語教育は異文化理解の要素も高く、折り紙、習字、日本の唱歌などを通じて生徒に日本文化を伝えることも期待されている。中等教育では、一般にブルガリア人教師が文法解説を行い、日本人教師は会話・発音等の指導にあたっている。大学組織等では、業務分担は特になく、ブルガリア人教師とチームティーチングによって初級から上級までの日本語の授業を担当している。

教師研修

 研修という形では行われていないが、これまで不定期で国際交流基金派遣の日本語専門家による勉強会などが実施されていた。2016年4月にソフィア大学で行われた「ブルガリア日本語日本文化教育セミナー2016」での日本語教育関係者間の話し合いで、今後定期的に国際交流基金派遣日本語専門家が中心に勉強会を実施することが話し合われた。

現職教師研修プログラム(一覧)

 特になし

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2002年11月、「『キリル・ラデフ』ブルガリア日本語教師会」が設立、2003年7月正式に非営利団体法人として登録されたが、2012年1月に解散した。2016年4月以降はSNSのグループで教師間の連携を図っている。今後、ソフィア大学が中心となってセミナーを開催するなどが話し合われている。

最新動向

 2016年夏に上述の教育関連の新たな法律が施行となったため、今後、教育機関によっては授業時間数の変更などが行われる可能性がある。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2016年10月現在)

日本語専門家

 ソフィア大学 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 ICEA(International Cross-cultural Exchange Association)が、2002年よりブルガリアへの日本語教師派遣を開始し、これまでソフィア第31総合学校、ブルガス「聖キリル・メトディ」総合学校、スヴォゲ「オテッツ・パイシィ」総合学校、ブルガス「ブラディア・ミラデノヴァ」総合学校、シュメン「コンスタンティン・プレスラフスキー」大学などへの派遣を行い、課外活動的に日本語の授業を実施していた。現在は、ヴェリコ・タルノヴォ大学に講師として2名、シュメン「コンスタンティン・プレスラフスキー大学」の講座に1名が派遣されているほか、ルセ「ヴァシル・レフスキー」総合学校にも1名派遣が行われている(同校は長期的なボランティアの派遣を希望)。

評価・試験

 2016年募集文部科学省国費外国人留学生の採用実績:研究留学生9名、日本語日本文化研究留学生3名、学部留学生5名。
 1998年より日本語能力試験を実施。これはブルガリアで唯一の全国統一日本語試験となっている(実施はキリルとメトディ国際基金)。その他1995年より当地の大使館とキリルとメトディ国際基金により日本語弁論大会も実施されている。

日本語教育略史

1968年 ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学東洋言語文化センターにて日本語夜間講座開設
1990年 ソフィア大学古典および現代言語文学部東アジア言語文化学科日本専攻設立
1992年 ソフィア「ウィリアム・グラッドストーン」第18総合学校日本語学科設立
1993年 ヴェリコ・タルノヴォ「聖キリルと聖メトディ」大学文献学部古典・東洋言語文化学科応用言語専攻にて日本語教育開始
1995年 スヴィシュトフ「ツェノフ」経済大学選択科目教育課外国語センターにて日本語教育開始
1996年 スヴィシュトフ経済大学選択科目教育課外国語センターにて日本語教育が正規科目となる
スヴィシュトフ経済大学(1995年)でも外国語科目のひとつとなる
(いずれも現在は行われていない)
2006年
9月
ルセ「ヴァシル・レフスキー」総合学校及び「ヘンリー・フォード」交通・エネルギー学校にて日本語が専攻できるようになる
2009年 ソフィア第18総合学校日本語一般市民講座にて日本語教育開始
「アゴラソフィア」日本語学校設立
2012年 ソフィア「Prof.ヴァシル・ズラタルスキー」第138総合学校で日本語が専攻できるようになる
2013年 ヴェリコ・タルノヴォ「聖キリルと聖メトディ」大学文献学部古典・東洋言語文化学科に「日本語・ブルガリア語」専攻が増設される
2015年 ブラゴエフグラッド「ネオフィト・リルスキ」南西大学言語学部で一般講座日本語開始

参考文献一覧

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