ウクライナ(2016年度)

日本語教育 国・地域別情報

2015年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数
初等教育 中等教育 高等教育 その他
教育機関
合計
18 97 60 163 974 326 1,523
3.9% 10.7% 64.0% 21.4% 100.0%

(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 ウクライナで日本語教育が始まったのはソ連時代の1940年代キエフ国立大学においてであるが、基盤は弱く、消滅と再開を繰り返した。しかし、1991年の独立の頃より、現在中心的役割を果たしている大学数校で本格的な日本語教育が始まり、その後約10年のうちに大学から初等・中等教育機関へと急速に広がった。1996年のNIS諸国派遣日本語教育事業が開始されて以降、教育内容も充実し、全体的な学習レベルは飛躍的に伸びた。
 2008年度よりキエフ国立大学に三菱商事株式会社からの支援が入り、いくつかの日本語講座の開講及び教具・教材の拡充が図られた。また、2007年度よりウクライナ日本センターのプロジェクトとして進められていた『みんなの日本語初級Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』が完成した。

背景

 ウクライナは日本から遠く、組織的な文化交流は盛んとは言えないが、日本及び日本文化に対する一般的関心や日本語教育熱は高まっている。特に2004年のオレンジ革命及び2005年7月のユーシェンコ前大統領訪日以後、経済をはじめとして様々なレベルにおいて日本と関係を深めつつあり、トップクラスの通訳者の需要等、今後の日本語教育のあり方に影響を与えると考えられる。
 2006年5月よりウクライナ日本センターが一般向けの日本語講座・日本関連のイベントを実施し、図書室を開放し、図書の貸出しを行っている。その結果、特にキエフ市内では日本関連の情報入手が容易になった。また、2008年1月より在ウクライナ日本国大使館によるボランティア日本人日本語教師の募集があり、2008年度新学期からいくつかの大学でボランティア日本人日本語教師を受け入れた。
 教育省のガイドラインの中には特に日本語コースの設置基準やカリキュラムはない。英語等の外国語のガイドラインに準じて、各学校または大学が日本語コースをデザインするようである。ロシアの大学の講座内容も参考にしている。

特徴

 ウクライナにおける外国語教育は、英語、ドイツ語などの欧州言語に人気があり、日本語はそれほど重視されていない。東洋言語の1つとして教育が行われている。大学ではトルコ語、中国語、韓国語と同じ学科に組み込まれている場合が多い。また、理工、国際関係専攻の大学で選択科目として日本語教育が行われている大学があるのも特徴と言える。2015年度日本語教育機関調査(以下、2015年度調査)によると、学習者数は1,500人余りであるが、その半数以上は高等教育機関で学習している。
 学習動機としては、日本文化(伝統文化、アニメ、文学など)や経済への関心、「東洋語」への語学的な興味等であるが、大学では、留学や就職を目的に日本語を学んでいる学生も多い。
 学習者の数を考慮すると、日本人及び日本人日本語教師の数は極めて少ないため、学習者が日本語に触れる機会が極めて限られている。首都キエフ以外でも日本語教育実施機関が存在し、日本語能力試験はキエフのほかリヴィウ、ハリコフ、ドニプロ、オデッサ、ミコライフで団体出願が行われている(2016年度現在)。これら地方都市において、日本人及び日本人日本語教師の数は、より一層少ない。

最新動向

 日本語能力試験(2016年度現在、同国内では12月の第2回のみ実施)の2013年度出願者数は過去最高(714名)であった。その後、2014年度は681名、2015年度は670名と推移したが、これはウクライナ情勢のためクリミア、ルガンスクからの団体出願が行われなくなったこと、モルドバ、ベラルーシの国外からウクライナへの出願もなくなったことが影響していると考えられる。国内全体での学習者数に着目すると、2015年度調査では2012年度調査に比べて増加している。
 高等教育機関で日本語を専攻する学生も、初中等教育機関や学校教育以外の機関等、家庭教師やインターネットを活用した独学など入学前に学習経験がある学生が一部存在し、学習環境の多様化が見られる。
 また、2015年度に第20回目を迎えた「ウクライナ日本語弁論大会」は、2016年度に初めて首都キエフ以外の都市(リヴィウ国立大学)で開催された。

教育段階別の状況

初等教育

 2013年10月現在、キエフ市内では公立、私立のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関、小学校1年から第一外国語として日本語を取り入れている第一東洋語学校が1校。その他一般には第二外国語または課外講座)の数校で継続的、もしくは断続的に日本語教育が行われている模様。学習者数は全体で300名程度と思われる。キエフ以外では、キエフ近郊の中小都市、イルピン、チェルカシ、またハリコフ等の地方都市で日本語教育及び日本文化の教育を行うシュコーラがある。キエフ市内のシュコーラにはキエフ国立言語大学やキエフ国立大学とネットワークを持つ学校もあり、大学院生を非常勤講師として迎えたり、4、5年生の教育実習を受け入れたりしている。ただし、キエフの初等・中等教育機関の教育の主眼は、数校を除き日本文化の理解である。卒業後、大学日本語学科に進学する学生はあまり多くない。

中等教育

 ウクライナの教育制度では初等・中等教育がほぼ一貫教育となっているため、日本語教育を行っている機関では、中等教育段階においても初等教育機関から継続的に日本語教育が行われている。そのため、概要は上記初等教育に同じである。

高等教育

 日本語教育の中心は首都キエフのキエフ国立大学及びキエフ国立言語大学(英語とのダブルメジャー)であるが、選択科目としての日本語講座が開講されている大学もある。また、地方都市では、リヴィウ、ハリコフ、ドニプロにも日本語主専攻を設置した大学があり、日本語講座(選択科目あるいは社会人を含めた学外からの受講も可能な講座)を開講している大学はリヴィウ、ハリコフ、ドニプロ、オデッサ、ミコライフにある。
 国費留学制度、大学間の交換留学プログラム、及び私費留学等による訪日歴のある学生が増加し、卒業時の平均到達レベルは伸びている。留学経験のある教師や日本で教師研修を受けた教師の増加も、高等教育機関での日本語教育のレベルを押し上げている。また、2010年代に入り、地方都市学習者のレベルの向上も顕著である。しかし、大学の教育システムが毎年変更されるなど流動的で、かつボローニャ・プロセスへの移行も進んでおらず、教育課程の改善が進んでいない、卒業後、習得した日本語を活かせる職に限りがある等、課題は残っている。ザポリージャ、ドニェツク、クリミアで選択科目としての日本語講座が設置されたとの情報があったが、これらの講座の多くは既に閉講されている。

その他教育機関

 2006年10月にウクライナ日本センターの日本語講座が開講し、キエフにおける一般学習希望者のための日本語教育を実施している。2016年度の長期コース受講者は296名で、全受講者の過半数は教育機関で日本語を学習したことのない社会人である。また、2015年度には8年ぶりに子供クラスが開講され、2016年度も開講されるなど、低年齢層からのニーズも確認されている。その他、社会人や大学入学前の学習者を対象とした日本センターを開講する大学、希望に応じてクラスを開講する民間の語学学校がキエフ、リヴィウ、ハリコフ、オデッサ、ミコライフ等に存在する。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 4-5-2(3)制。
 初等教育が4年間(6または7~10歳)、前期中等教育が5年間(10~15歳。ここまでの9年間が義務教育)、後期中等教育が2~3年間(15~17歳)。「シュコーラ」「ギムナジウム」と呼ばれる11年ないし12年の一貫教育校が多いが、専門性のある後期中等教育機関「リツェ」もある。高等教育は大学(5年間)と、シュコーラ9年生修了後に入学できる高等教育機関として技術・芸術系の専門を勉強する「ウチーリッシェ」(2~4年間)、職業専門学校の「テフニコム」(3~4年間)等がある。
 高等教育では、これまでロシア型の学位システムを採用していたため、日本やヨーロッパの大学と対応させることが困難であった。「ボローニャ・プロセス」と呼ばれるヨーロッパ型の単位認定システムを導入しつつあるが、教育制度はいまだ移行途中にあり、統一されていない。

教育行政

 初等、中等、高等教育機関のほとんどが教育省の管轄下にある。

言語事情

 公用語はウクライナ語であるが、ロシア語も広く使用されており、首都キエフに住む者の多くはバイリンガルである。しかし、ウクライナ全土では地域性が見られ、大まかに見ると東部・南部は主にロシア語、西部はウクライナ語が優勢である。近年は「ウクライナ語」化政策が採られ、教育面ではウクライナ語の使用が義務付けられている教育機関が多い。

外国語教育

 ソ連時代から引き続き外国語教育が盛んである。第一外国語は英語、ドイツ語、フランス語などヨーロッパ言語が主流であるが、アラビア語、トルコ語のほか、日本語、中国語、韓国語等の極東語も人気があり、少しずつ学ばれるようになっている。
 外国語教育が必修になるのは前期中等教育(5年生)から。しかし、大都市では初等教育(1年生)から外国語教育を始める学校も多くなっている。教育機関によって、外国語教育の開始時期及び外国語の種類・数(第2、3言語を開講しているかどうか)も異なる。

外国語の中での日本語の人気

 人気が高いのは英語、ドイツ語、フランス語の順。次にスペイン語、アラビア語と続く。2番目、3番目に習得する外国語として、日本語をはじめ極東語と呼ばれる中国語・韓国語等も人気があるが、中でも日本文化に対して一般的に印象がいいことから、日本語への関心も高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 ウクライナ語による教育省の認定を受けた教材も開発されたが、日本語教育が正規の科目として行われているキエフ市内の学校では使用率は高くない。多くは日本で出版された教科書をベースに教師が独自に作成した教材を利用している。

中等教育

 中等教育機関でも、上記初等教育機関同様の状況である。主に教師が独自に作成した教材を利用している。

高等教育

 ほとんどの教育機関が日本で出版された教材の寄贈を受けて使用しているが、キエフ、リヴィウ、ハリコフ、オデッサ等の数か所の大学では独自の日本語教材の作成も進められており、既に作成されたものに関してはその使用が見られる地域もある。また、副教材としてウクライナ日本センターで作成された『みんなの日本語Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』も、キエフ市内の一部の大学では活用されている。

その他教育機関

 学校教育以外の機関で使用されている教材についての確実な資料はほとんどない。キエフの語学センター及び個人によるクラス等では、日本で出版された教科書を使用している場合が多い。ウクライナ日本センターでは2012年入門クラスより『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)を使用している。

マルチメディア・コンピューター

 授業中DVD、コンピューター、タブレット等を使用する教師も増えているが、学生にコンピューターを利用させる日本語の授業はほとんど行われていない。

教師

資格要件

初等教育

 原則として日本語学士号(バチェラー、大学4年修了時に取得)を持っていることが条件。ただしパートタイムとして、大学在学中の学生が教師を務めることもよくある。

中等教育

 初等・中等一貫教育のため、上記初等教育に同じ。

高等教育

 日本とは学位システムが違うが、大学常勤講師は 日本語・日本文学か文化(つまり人文科学系)に関する修士号(マギストル、大学5年を修了時に取得)を取得していること、また助教授以上は、Ph.D相当学位である博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格を持っていることが条件。キエフ国立大学の例では、講師でも通常、博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格が必要であり、博士候補生学位非保持者に関しては、学位を一定期限年内に取得することが望まれている。日本人などの外国人講師の場合は、外国(出身国を含む、ウクライナ以外の国)で取得した学位でも認められるが、ウクライナ人の場合、ウクライナあるいはロシアなどのウクライナの学位システムと似ている国で取得した学位でないと認められないケースが多い。

その他教育機関

 特に資格要件はない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。またキエフ国立大学には6年制(修士課程)まで日本語・日本文学研究課程があり、かつ博士課程の研究が可能である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 2013~14年度、キエフではキエフ国立大学で3名(内1名は国際交流基金派遣日本語専門家)、キエフ国立言語大学で1名(同派遣日本語指導助手)、ウクライナ大学で1名、キエフ国立経済貿易大学で1名の日本人教師が雇用されている。キエフ以外の都市では、留学生が日本語教師を兼ねる大学や不定期でボランティアの短期教師を受け入れている大学もある。以上のように、キエフはもちろん、それ以外の都市の大学及び初等・中等教育機関で日本人教師が不足している。日本人教師に期待されている役割は、会話など口頭表現、文章表現といったノンネイティブ教師が不得手な分野の指導が主なものである。また、ウクライナ日本センターで専任講師1名(国際交流基金派遣日本語専門家)、非常勤の日本人講師2名が教鞭をとっている。

教師研修

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。
 現職教師は、日本で行われている国際交流基金の日本語教師研修に参加する教師が多い。また、2007年夏に日本語教師の短期研修がウクライナ日本センターで行われた。近年は短期研修は行われないものの、毎年3月に行われる「ウクライナ日本語教育セミナー」で、現地日本語教師に対して国際交流基金派遣専門家が中心となって、主に最新の日本語教育に関する情報提供を行っている。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 高等教育機関の日本語教師を中心的な会員とする「ウクライナ日本語教師会」がある。キエフで行事開催等の必要時に会議を開催し、日本語・日本文化に関する情報の交換や行事の準備等を行っている。キエフでの教師会議で話し合った行事に関わる情報は、教師会で議事録を作成し全国の会員にメールで送っている。
 教師会の目的は、教師間のネットワーク構築、日本語・日本語教授能力の向上であり、具体的な活動には9月の日本語弁論大会、12月の日本語能力試験、3月の日本語教育セミナー等の行事の運営がある。2013年からは日本語キャンプ(キエフ国立言語大学主催事業、教師会は共催として関与)にも協力している。

最新動向

 毎年開催しているウクライナ日本語教師会主催の「日本語弁論大会」や「日本語教育セミナー」等の行事や、「日本語能力試験」の実施により、ウクライナ全国の教師ネットワークは高等教育機関を中心に徐々にまとまりつつある。2007年の「日本語教育セミナー」は、ウクライナ日本センターと共催で行い、協力関係を強化した。また2009年3月にはウクライナ全土の日本語教育機関に呼び掛け、キエフ国立大学が主催となって「第1回ウクライナ国際公開シンポジウム」を「日本語教育セミナー」と共同開催した。シンポジウム、日本語教育セミナーの共同開催に関しては、2015年まで継続的に実施された。シンポジウムの発展に伴い、2016年度は個別の開催を予定している。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2016年10月現在)

日本語専門家

 キエフ国立大学 1名

日本語指導助手

 キエフ国立言語大学 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 義務教育における外国語教育全般についてのスタンダードが教育省から発行されている。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語では既に教育省が定めたカリキュラムがあるが、日本語にはまだなく、既存のカリキュラムに合わせて開発することが期待されている(これに関しては現在、教育省からの指示で日本語コースに関するスタンダードを一部大学教員を中心として開発中)。
 ただし、このスタンダードは正規の授業に適用されるもので、課外授業等で日本語教育が行われている学校では各教師が独自のシラバスを作成し、授業を行っている。

評価・試験

 客観的な到達度を測る全国共通の公的試験は実施されていないが、2005年12月よりキエフで日本語能力試験が実施されており、この試験が唯一の客観的な試験である。教育機関の資格認定としての効力はないが、就職等で日本語力の判断基準として使用されている。

日本語教育略史

1940年代 キエフ国立大学で日本語教育が始まるが中断。その後も開始と中断を繰り返す
1990年 キエフ国立言語大学附属東洋語大学で日本語教育(主専攻)開始
(他地方を含む主要大学でも日本語教育開始)
1996年 キエフ国立大学で日本語が主専攻となり、NIS諸国派遣日本語教育事業として日本からの教師の派遣が開始(この時期、他大学及び初等中等教育機関にも日本語教育が広まる)
1996年 ウクライナ日本語教師会の前身であるキエフ日本語教師会が活動を開始。第1回日本語弁論大会開催
2002年 第1回ウクライナ日本語教育セミナー開催(以降、毎年開催)
2005年 キエフで第1回日本語能力試験実施(以降、毎年12月に実施)
2006年 ウクライナ日本センターが活動開始
2009年 第1回全ウクライナ国際公開学術シンポジウム開催(以降、ウクライナ日本語教育セミナーと共同で毎年開催)
2009年9月 第14回ウクライナ日本語弁論大会開催(毎年開催)
2012年9月 東洋世界大学(キエフ)が閉校、日本語科目が所属する文学部は(私立)ウクライナ大学へ編入される
2012年11月 キエフ国立大学言語学院ボンダレンコ・イヴァン教授(日本語学科長)に旭日中綬章、リヴィウ国立工科大学フェドリシン・ミロン准教授(日本語講座長)に旭日小綬章が授与される
2013年4月 第1回GUAM諸国合同日本語弁論大会開催
2013年7月 第1回ウクライナ日本語キャンプ開催
2013年9月 キエフ国際大学の東洋語選択科目廃止により、日本語講座が消滅
2015年8月 キエフ国立言語大学・元講師でウクライナ日本語教師会初代会長の鄭信一(てん・しんいち)氏に平成27年度外務大臣表彰が授与される

参考文献一覧

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