平成29(2017)年度 日本語指導助手レポート 日本語教育の力でウクライナを笑顔に

キエフ国立言語大学
 斉藤知花

派遣先について

キエフ国立言語大学(以下、言語大学)は、ウクライナの首都キエフにある主要な日本語教育機関の一つです。通訳・翻訳コース、文学コースがあり、現在約230名が日本語を学習しています。私は国際交流基金から日本語指導助手(以下、指導助手)として、言語大学に派遣されています。

会話クラスと今の課題について

授業風景の画像
授業風景

私は、言語大学で唯一の日本語母語話者教師として、1年生~3年生のクラスで会話を教えています。現在、インターネットを通じて、日本についての情報取得や日本人との交流も可能ですし、また日本へ留学した経験がある教師も何人かいますので、学生たちは日本について様々な知識や興味を持っています。しかし、実際キエフで日本人と接したり、日本語を使ったりする機会はほとんどありません。多くの学生にとって、この会話クラスが普段、日本語母語話者と直接日本語で話せる唯一の機会です。学生自身が持っている総合的な日本語力を最大限に使って話せる機会を与えるようにしています。また、ただ会話をするだけではなく、日本事情も取り入れ、考え、理解を深めてもらうようにしています。

しかし、ウクライナでは大学で4年間日本語を学んでも、日本留学や日本語を活かした仕事が出来る人は、ほんの一握りです。そのため、途中で諦めてしまい、モチベーションが下がってしまう学生が多いことが、言語大学での大きな問題です。どんな学生でも、日本語学習を通して今後、多方面に成長していくきっかけになる「日本語+α」の授業作りを常にしていくことが、私の今の課題です。

「日本語クラブ」について

「日本語クラブ」でのグループ会話風景の画像
「日本語クラブ」でのグループ会話風景

もっと日本語を使って話したいという意欲的な学生のために「日本語クラブ」を立ち上げ、毎月1回行っています。言語大学に留学している日本人学生と話したり、日本の歌を歌ったり、日本語を使ったゲームをしたりして交流しています。1~5年生までが一緒に参加することで、お互い良い刺激になっているようです。最初は恥ずかしがっていましたが、回を重ねるごとに積極的に話している学生たちを見て、非常に嬉しく思います。「本当に楽しい日本語クラブでした」と言って帰って行く学生、「次はこんなことがしたい」とアイディアを出してくれる学生、「次の日本語クラブはいつですか」と楽しみにしている学生たちが増えるようになりました。『学生たちのために何かできることを…』と一番に考え、立ち上げ、運営していくことに心からやりがいを感じています。

「ウクライナ日本語弁論大会」について

2016年9月に行われた「第21回ウクライナ日本語弁論大会」では、言語大学の代表として3名出場し、見事優勝、3位と4位入賞を果たしました。大会まで、現地教師と一緒に弁論指導に携わりましたが、熱心に練習し、日々努力している学生の姿を見て、私も多くの事を学ばせてもらいました。良い結果が得られた時の3名の笑顔は、今でも忘れられません。

現地教師のサポートと今後の課題について

言語大学の現地教師のサポートもしています。授業内容や教材についてアドバイスを求められたり、教授経験が浅い教師からも、教授経験が豊富な教師からも日本語について色々な質問を受けたりすることもあります。それから、言語大学主催のイベントの準備や運営、日本語能力試験対策クラスの担当も一緒にしています。様々な場面で現地教師の協力が必要ですが、忙しいという理由等で協力してくれる教師が非常に少ないという残念な現状です。

そんな中、数少ない協力的な教師の一人の方が、イベントの準備をしている時、急に「先生、言語大学に来てくれて、ありがとうございます。先生で本当に良かったです。」と言ってくれました。着任してまだ数か月目で、信頼関係が築けているものなのかと毎日不安だったので、その言葉に本当に救われたものです。これからも日々のコミュニケーションを大切にし、より多くの教師が少しでも協力的になり、現地教師だけで様々なイベント等を自立して行っていけるよう、残りの任期で指導助手として出来ることをしていきたいと思います。

日本語普及事業について

指導助手としての任務は、言語大学の業務だけではなく、ウクライナ日本語教師会の定例会議への参加、年に1度行われる日本語能力試験や日本語教育セミナーの運営サポートもしています。また、今年(2017年)は日本とウクライナ外交樹立25周年「ウクライナにおける日本年」ということで、美術館や図書館で、子供や大人向けの日本語講座を担当しました。実際に参加してくれた人達が、覚えたての「ありがとう」を嬉しそうに言ってくれたり、カタカナで自分の名前が書けて満足そうにしていたりと、「日本語は人を笑顔にさせる力がある」ということを強く感じた貴重な経験でした。

一人でも多くのウクライナ人の方々に日本語の魅力を感じ、笑顔になってもらえるよう、今後もウクライナの日本語普及事業に携わっていきたいと思います。

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