平成29(2017)年度 日本語指導助手レポート みんな「一年生」 

トルクメニスタン国立ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学/
トルクメニスタン教育省国民教育大学
 上原龍彦

アザディ大学外観の画像
アザディ大学外観

トルクメニスタンは、北はウズベキスタンとカザフスタン、東はアフガニスタン、南はイラン、そして西はカスピ海に面する中央アジアの国です。2016年9月から5つの高等教育機関、12の中等教育機関、1つの初等教育機関で新たに日本語教育が開始されることになりました。2016年8月まではトルクメニスタン国立ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学(以下、アザディ大学)が唯一の日本語教育機関であったため、急激に日本語教育が広まったということがお分かりになるかと思います。それに伴い、2016年9月から国際交流基金より日本語上級専門家(以下、専門家)1名、日本語指導助手(以下、助手)1名が新たに派遣されることになりました(ただし、2017年2月から本稿執筆時まで専門家は未派遣)。

専門家及び助手の主な業務は、現地教師の支援、及び、日本語教育カリキュラム・日本語教材の作成です。具体的には、(1) 日本語教育が開始した教育機関へ訪問、授業見学をし現地教員に対しアドバイスを行う、(2) 年に数回実施される教員研修の計画を立て実施する、(3) 唯一の日本語学科があるアザディ大学の日本語教員に対し、日本語学科のコース設計支援や授業支援を行う、(4) 将来の日本語教員を育成するために、アザディ大学の学生に対し日本語教授法関連科目及び日本語学系科目の一部をアザディ大学教員と協力して担当する、(5) 初等中等教育向けのカリキュラム及び教材作成を行う、です。

ですが、アザディ大学以外の日本語の先生方は、もちろん日本語教育の経験はありません。多くの学生や生徒にとっても日本語は初めて。専門家も助手もトルクメニスタン派遣は一年目。受入機関であるアザディ大学の先生方にとっても、初めて専門家や助手と協力して仕事を行います。「教える」か「学ぶ」かなどの内容は異なりますが、ここトルクメニスタンでは日本語教育に関わるすべての人間が「一年生」なのです。

そのため、現地の先生方にとっては「戸惑い」の連続のようです。突然、国から日本語関連のイベントを行うように指示が出たり(トルクメニスタンは国家イベントがよく開催されます)、どうやって教えればいいか分からなかったり、日本語学習についていけない学生や生徒の対応について悩んだりと、現場の先生方が直面する困難を挙げればきりがありません。

1年生と5年生の日本語教科書の画像
1年生と5年生の日本語教科書

それは、専門家や助手にとっても同様です。急激に日本語教育が拡大したので、日本語教員をどのように確保していくか、日本語教育経験や日本語教授法を体系的に学んだことがない先生方に対しどのように教師支援をしていくか、なかなか訪問の機会が取れない地方の先生方をどのように支援していくか。専門家や助手が直面している課題も数多くあります。

しかしそのような中でも、「日本語を教えることができてうれしい」とおっしゃってくれる先生、「日本語を勉強していない生徒のために日本を知ってもらうイベントを開きたい」と働きかけてくださる先生など、それぞれの先生方が「日本語を教える」ことに対し「楽しさ」や「やりがい」を感じているようで、それが私にとっての一番の励みになっています。

私も日本語教育の経験が浅いので、日本語の授業を行う中でもいろいろな「初めて」に出会います。カリキュラム作成や教材作成、そして教師支援も「初めて」の経験です。もちろん、国際交流基金の人間として働くことも「初めて」です。このように、「初めて」だらけの日々を過ごす中で一番感じるのは、私自身も「一年生」ということを意識し、トルクメニスタンで日本語教育に関わるみなさんと一緒に大きくなっていければいいな、ということです。「国際交流基金の人間だから」と肩肘張ることなく、先生方や学生・生徒達と様々な楽しさや喜び、そして悩みを共有すること、様々な状況に振り回されることなく自分自身の「足」で立ち、自分自身の「目」で現状を把握し周囲に働きかけていくことが大事だと強く感じます。まず、そのような姿を自分自身が見せることで、周囲で何らかの変化が起きるかもしれませんし、その小さな変化がトルクメニスタンの日本語教育のこれからに繋がっていくのだと思います。あまり特別なことをしようとせず、目の前にある一つ一つのこと、当たり前のことに対し、丁寧に取り組んでいきたいと思います。

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