平成30(2018)年度 日本語指導助手レポート 南インドの日本語教育支援

ニューデリー日本文化センター(南インド)
中屋 佳苗

日本語指導助手(以下、指導助手)としてニューデリー日本文化センターに派遣されて1年が経ちました。といっても、私がいるのはニューデリーではなく、インド第四の都市、南インドのチェンナイです。南インド担当の日本語専門家のオフィスは、ここチェンナイの日本語学校であるABK-AOTS同窓会の一室にあり、日本語上級専門家(以下、上級専門家)と指導助手の二人が駐在しています。チェンナイは、インドの中でも特に日本語教育が盛んな都市で、IT企業をはじめとした日本関連企業への就職を目指す人や、日本のアニメやドラマへの興味から勉強を始めた人など、多様な学習者がいます。
これまで上級専門家が一人で活動していた南インドに、初めて指導助手が派遣されるようになりました。ここでは、主にチェンナイで指導助手が行っている業務をご紹介します。

「教えない教師」を目指して

チェンナイの日本語教師のほとんどが、主婦や会社員であり、ボランティアとして日本語を教えています。日本語教師が職業として確立されていない環境のため、教師が育ちにくい状況ではありますが、現地の先生方の日本語運用能力が向上するようにサポートをするのが指導助手の使命の一つです。
私は、「ブラッシュアップコース」という現地日本語教師に対する日本語の授業を担当しています。以前は『みんなの日本語』を使っていた同コースで、国際交流基金が作成した『まるごと-日本のことばと文化-』(以下、『まるごと』)のテキストを使用するようになりました。
保守的な雰囲気の強いチェンナイでは、「知識」を多く持つ教師を理想とする傾向があります。『まるごと』のような、あえて「教えない」で学習者の「気づき」を促すような授業のやり方にはなかなか慣れないようで、初めは『まるごと』を使うことにも抵抗があるように感じました。
しかし、最近ではこれまでの上級専門家の活動の成果もあり、『まるごと』を積極的に使おうとする動きが見えてきました。従来の教授観を見直したり、新しい日本語教授法を提案するのは、教師の日本語運用能力を向上させる以上に重要なことだと思います。私は授業を通して、実際に新しい教授法を体験してもらったり、『まるごと』関連の勉強会などをして、日本語運用能力だけではなく、教師の考え方や授業が変わっていく姿を見るのが一番楽しいです。

ワークショップの写真
『まるごと』の使い方を学ぶワークショップで

「日本語教育支援」とは

南インドでは、指導助手のポジションとしては珍しく、上級専門家の指導の下で日本語アドバイザーとしての仕事内容を学ぶことができます。教室で学習者を前に授業を行うだけではなく、日本語教育機関を訪問して授業見学や情報収集、アドバイスをしたり、日本関係のイベントでスピーチをしたり、色々な人と関わることができます。
今まで日本語教師として教室で目の前の学習者相手に日本語を教えることしか考えてきませんでしたが、インターネットを使った遠隔セミナーや、動画編集、広報の仕方などを学び、これまでとは違った形で日本語教育支援の経験を積んでいます。
チェンナイ以外にもバンガロールやハイデラバードなどの出張にも同行させていただき、ワークショップや実践報告をしたり、『まるごと』のPRをしたり、色々な形で日本語教育支援を行っています。このような経験を通して、教室の中だけでは知らなかった世界が見え、より大きな視点で日本語教育を捉えることができるようになってきたと思います。
これまでの1年間は、上級専門家の指導の下、様々な技術や手段を使って、多角的に日本語教育の支援を行ってきました。すべてが新しいことで、うまくいくこともあれば、失敗することも多い日々ですが、少しずつ南インドの日本語教育の変化を感じています。
南インドは少ない人数での運営ですが、現地の先生方や学習者の皆さん、チェンナイに住む日本人の方々などに協力してもらいながら、さらに大きなことができる可能性の溢れた場所だと思います。周りの人に支えられながら、今後は直接日本語を教えるということだけではなく、様々な仕組みづくりに挑戦して日本語教育を盛り上げていきたいと思います。

セミナーの様子の写真
チェンナイで行ったセミナーの様子

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