教育現場から見える日米の新たな一面

ウォルト・ウィットマン・ハイ・スクール
金城 翔太

州の一般事情と日本語教育制度

メリーランド州はMid-Atlanticを構成する州のひとつです。面積は約15,621km2で全米のわずか0.2%しか占めない小さな州ですが、国勢調査によると人口は年々増加傾向にあります。capitalと呼ばれる首都に近い地域に人口が集中しており、州民の多くは豊かで安定した生活を送っています。メリーランド州は民主党の指示が圧倒的に強い州で、全体的に自由主義の色が濃い雰囲気の州です。

日本語は選択科目の中の外国語という位置づけで、必須科目ではありません。そのため、州の統一学力テストなどの科目には含まれていません。基本的に外国語のスタンダードはACTFLに基づいていますが、外国語学習者の学年やレベルの絞り込みが難しいことから、州のカリキュラムは大まかな枠組みが設けられてあるのみです。特に規模の小さい日本語は、スペイン語やフランス語ほどカリキュラムのサポートが行き届いておらず、各学校の教師が独自に考案したカリキュラムに沿って授業が行われています。ワシントンD.C.では、日系の企業やイベントも多いのですが、州だけでは日本語を使う環境は限りなく限定されています。日本語のニーズは学生によって異なりますが、動機はやはりアニメや漫画、ゲームなどが大半を占めています。

Walt Whitmanという高校

受け入れ機関であるWalt Whitman High SchoolはワシントンD.C.の郊外に位置し、上流階級の人が多く住むベセスダという街にあります。公立高校としては全米でもトップクラスで学問以外にディベートや演劇などでも有名です。学生数約2,000人に対して職員は約120名、どちらも白人が大半を占めています。Walt Whitman High Schoolには、外交官、外資系企業、弁護士、医者、大企業社員の子どもが多く通っており、裕福でエリート思考を持った学生も少なくありません。そんな背景を持つWalt Whitman High Schoolの日本語クラスは、45年以上の古い歴史があります。現在は勤務歴20余年のベテラン教師がオリジナルで作ったパケットを使い、毎年同じトピックを繰り返すスパイラル方式で教えています。生徒は全体で約80名、レベル1~5、そしてAPクラスに分かれて勉強していますが、見込みのある学生は飛び級し、そうでない学生でも進級すればレベルが上がるので、1つのレベルでも習熟度にばらつきがあります。また、日本語はマイナー言語であることから、与えられるコマが少ないため、複数のレベルが1つのコマで学習するということがあります。

授業外一大プロジェクト

  1. 1. Panther Program (毎週水曜日放課後 1時間)
    Walt Whitman High Schoolから一番近いMiddle Schoolでの放課後プログラム。無料で参加できるアクティビティとして、日本のカルチャーレッスンを提供。
    • 営業: 担当者との連絡、生徒の呼び込み、showcase
    • スケジュール作成: カリキュラム
    • レッスンプラン: 時間配分、アクティビティの創作
    • 教材の準備: PowerPointのスライドの製作、プリントや配布物の作成、マテリアルの購入
    • 授業: 出席確認、カルチャーレッスン、アクティビティ、片付け
  2. 2. 姉妹校訪問研修旅行の引率 (2012年6月23日-2012年7月24日)
    1年おきの夏に敢行される旅行で、今年は16名(男子11・女子5)の学生を引率。沖縄-関西-京都-神奈川-東京を1ヶ月の日程で旅行。
    • 企画書の作成: 初めて訪問する高校への企画・提案書
    • リサーチ: 料金、日程、場所、フライト
    • ホストファミリーの振り分け: プロフィールの取り込み、担当者連絡、受け入れ先の通知
    • スケジューリング: 主に沖縄の滞在期間担当
    • 保護者説明会: PowerPointスライド作成、配布物/プリントの作成、肖像権使用同意書の作成
    • サバイバルブック作成: 旅程表、単位変換表、ワンフレーズ日本語、お小遣い帳、訪問先情報
    • 引率: 土地案内、呼びかけ/指示、通訳、写真/ビデオ撮影、学生の後片付けの確認/指導
    • 写真/ビデオ編集: YouTubeビデオアップロード

1年を振り返って…

私の派遣先が州境であることから、州内のみならずバージニア州やワシントンD.C.まで足を延ばし活動してきました。その活動を通して、日本大使館の藤崎大使、国際通貨基金の職員、日系会社の社長、さくら祭りで三味線や太鼓を披露してくださったパフォーマーの方々など米国で活躍されている日本人にたくさんお会いする機会がありました。それらの出会いは、政治や外交に関する私の意識を高めただけではなく、同じ日本人として私を鼓舞する動機付けとなりました。自分の立場を改めて考え、一日本語教師として私にできることは何か考えさせられた1年でした。

メリーランド州では、日本語を導入している学校の数が少ない上に、規模が小さく、細々と存在しているイメージがあります。また、州内では日本語教師同士の連携がないため、情報を交換せず、独自のマテリアルと教授法で教え続けている教師もいるようです。それは結果的に、自分の教え方が一番正しいと思い込む教師を育てることに繋がり、やがては言葉や文化の流動性についていけなくなった古い教育概念を生みます。これからは、若手の米国日本語教師の育成と、他の日本語教師との連携作りが急務であると考えます。

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