イマージョンプログラムと年少者日本語教育を経験して

バデューゴ ウッドランズ エレメンタリースクール
奥田 多恵

カリフォルニア州の日本語教育事情

ロサンゼルスやサンフランシスコなど観光でおなじみの人気都市があるカリフォルニア州は、人口は全米で一番多く、面積はアラスカ、テキサスに続き3番目の広さで、日本の面積より少し大きい州です。また州の住民の40%近くが家庭で英語以外の言語を話しており、中でもヒスパニック系(スペイン語話者)の人口が多い州です。アメリカは、公教育の中でマイノリティー言語を母語とする子どものためのプログラムが多いと言われていますが、特にカリフォルニアは英語学習者が150万人(州の人口の25%を占める)と全米の中で1番多く、そのため、英語学習者への教育プログラムも多数あります。また、他の州と比べて日系人も多く、土曜日に開かれている補習校や日本語学校など、年少者に日本語を教える継承語教育機関も複数あります。筆者(以下アシスタント)の勤務校でも、特に日系の保護者がいる家庭では、子どもを土曜学校に通わせていることが多いように思います。また、特に日系の家庭でなくても、子どもの第2言語習得に関しての意識が高く、勤務校の保護者が日本語イマージョンプログラムを選択した主な理由は、継承語としての日本語習得ということだけでなく、2つの言語を幼少期から学習することの利点を意識して、イマージョンプログラムを選択するということも多いと感じます。TJSC(南カリフォルニア日本語教師会)、CAJLT(California Association of Japanese Language Teachers), 加州日本語学園協会研究会などの日本語教師向けの研修会も定期的に行われているので、日本語教師同士の情報交換が盛んです。日本語教師向けの研修だけでなく、外国語教師向けの研修もあり、他言語の教師との交流や、アメリカで発展している教授法も知る事ができたりと、カリフォルニアは、言語教育に携わる者にとって、とても刺激的な州であると思います。

日本語イマージョンプログラム

勤務先のVerdugo Woodlands Elementary School は、地図上ではロサンゼルス郡ロサンゼル市の真北にあるロサンゼルス郡グレンデール市の公立の小学校です。グレンデールは、アルメニア人の人口が多く、地域では、アルメニア関連の行事も多く行われ、勤務校では、放課後のアルメニア人のためのクラスがあります。グレンデール市は、ロサンゼルスのベットタウンであり、比較的裕福な家庭の子どもたちが多いように思います。グレンデール市にはFLAG(Foreign languages Academies of Glendale)の名のもとに、7つの言語のイマージョンプログラムをもつ公立の小学校がそれぞれ存在し、50/50モデルを採用しているアルメニア語、韓国語、日本語プログラム、90/10のモデルを採用しているフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語プログラムがあります。勤務校の場合は公立の小学校の中に、日本語イマージョンプログラムが併設されており、100%授業が英語で行われる学級と、英語と日本語両方(50%ずつ)で授業が行われる日本語イマージョンプログラムの学級があります。両学級ともカリキュラムは、カリフォルニアスタンダードを使用し、英語で行われる授業はそれをもとに作られた教科書などを使って行われています。日本語イマージョンプログラムのカリキュラムは、カリフォルニアスタンダード(英語で書かれているもの)をもとに、教師が日本語の授業のために作り替えて、授業を計画、実行しています。勤務校の日本語イマージョンプログラムは2010年にはじまった新しいプログラムで、1年間日本語クラスのアシスタントとして担当した3年生が1年生のときに始まったプログラムです。来年度はその3年生が4年生になり、毎年1学年ずつ新設される予定です。勤務校の学校全体の生徒数は約700人で、教師数は約30人ですが、そのうち日本語イマージョンプログラムは、生徒数約150人(幼稚園から第3学年まで)、教師数7人、日本語学級アシスタント数4人(筆者含む)(2012年度)でした。勤務校の日本語イマージョンプログラムは50/50モデルを採用しているため、子どもたちは教科を学ぶ際に、英語と日本語を同時間数使って学習するシステム(ただし学習内容は重複しない)になっています。英語の時間の担当教師と日本語の時間の担当教師がそれぞれおり、(第3学年のみ一人の教師が、英語の時間も日本語の時間も担当)、1日の前半部を英語または日本語ナ行い、後半部をもう一つの言語で行い、それに合わせてそれぞれの言語の教室に移動します(第3学年は移動なし)。4週間ごとに前半と後半の言語をスイッチし、両言語のバランスをとるように工夫されています。アシスタントとして1年目に行った業務は、主に日本語学級の担任教師のサポート、新しい漢字の指導、読み聞かせ、週1回のホームワーククラブ補助です。日本語の時間では、授業はすべて日本語で行われるため、教室内では生徒の理解を助けるため、多くの工夫がされます。それでも、学習する内容が難しいと言語の理解不足の為に、授業についていけない子どもたちがでてしまいます。その子どもたちのサポートが主なアシスタントの役目であり、日本語でいかにスキャフォールディングできるのかがためされるので、とてもやりがいのあるものでした。その他にも、エネルギーと環境という単元の授業で、エネルギーや地球温暖化といった内容を担任の先生と相談しながら授業を計画、実施したり、東日本大震災の被災者の方へ3年生と一緒に日本語で手紙を書いたり、漢字辞典の使い方を3年生に紹介する機会も持つことができました。

授業時間以外での活動

授業時間以外で行った活動は、週1回、学校外、勤務時間外で行った保護者向けの日本語クラスと、夏休みに日本語環境にない家族のための日本語サマーキャンプです。保護者向けの日本語クラスは、子供が日本語イマージョンプログラムで学習している保護者向けに、週1回、授業案の作成から授業実施までを行いました。クラスでは、日本語の基礎を身につけると同時に、子供とのコミュニケーション能力をつけることを意識して、家で子どもと使える会話や、子どもが学校で学んでいるものから扱うように工夫しました。もう一つの活動は、夏休みの間、日本語環境にない親子(家で日本語を使わない親子)向けの日本語サマーキャンプです。こちらは保護者と協力して、ひらがなキャンプ、かたかなキャンプ、漢字キャンプを3日間ずつ2週にわけて、授業計画からキャンプ実施まで計6日間行いました。日本語でできる会話を家族間で少しでも増やすことと、家族で一緒に日本語を使って楽しく遊ぶ経験をして、共通の楽しい日本語体験を持ってもらうことを目的として行いました。初めて自分で企画し、実行したキャンプだったので、思った通りにいかなかった点もたくさんありましたが、予想以上に多くの家族の参加があり、想像以上にたくさんの親子が楽しんでくれていたように思います。普段家で日本語を話さない親と、日本語イマージョンプログラムで日本語を勉強している子どもがキャンプの中で一緒に日本語で会話をしながら作業をしたり、ゲームを楽しんだり、時には子どもが大人の日本語を手伝ったりしている姿も見ることができ、準備は大変でしたが、やってみて本当によかったと思えるキャンプでした。また、保護者を日本語学習に巻き込むことは、日本語に対する理解を深めてもらうだけでなく、子どもの日本語学習や学習態度に大きく影響するということを実感できたキャンプでした。

1年目を終えて

1年目は、イマージョン教育という特殊な学習環境の中で、自分が日本語教授法などで学んだ成人向けの日本語教育をどのように年少者向けに応用できるのか、またどういった知識やスキルが不足しているのかということを認識することができた1年でした。また、保護者のための日本語クラスや、夏休みの日本語親子キャンプを行った事で気付いたことは、親子で日本語を使ってコミュニケーションをしたり、家庭で一緒に宿題をしたりすることができれば、子どもの第2言語学習への肯定感を強めるだけでなく、親子で共有できる文化的体験が増え、また、その機会を継続して学校やコミュニティーが作る事ができれば、子どもの第2言語学習にとって、かなり有益なことであると思いました。

2年目の目標は、引き続き、親子の日本語学習のサポートをしていくことと、担任教師と一緒に、日本語教育と教科内容の統合を行い、日本語イマージョンプログラムにおける年少者に対しての日本語教育の基本をしっかり身につけたいと思います。また、1年目は日本語プログラムにある日本語の本の所蔵リストという、J-LEAPの2年間のプログラムが終わったあとでも使用してもらえるものが残せたので、2年目は日本語教育に関係した、学校に残せる教材(例えば、日本語チャートなどの壁面に飾れるもの、日本語のすごろくなど)を多く作っていきたいと思います。アメリカで日本語を学んでいる子どもや保護者に、日本語を勉強することはとても楽しいと思ってもらえるような授業を毎回心がけて、一人でも多くの日本語ファンを増やしていけるように、1日1日を大切に、残りの1年を過ごしていきたいと思います。

  • イマージョンプログラムと年少者日本語教育を経験して様子の写真1
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  • イマージョンプログラムと年少者日本語教育を経験して様子の写真3

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