米国若手日本語教員(J-LEAP) 7期生 年間報告書
日本語でつながるアラスカと日本

ロバート・サービス・ハイ・スクール
阪本 麻子

アンカレッジという街

私の派遣先であるアンカレッジはアメリカ合衆国最北の州、アラスカ州の南部に位置します。州都はジュノーですが、人口のおよそ半分はアンカレッジに集中しており、アラスカ州最大の都市であると言えます。アラスカと聞くと、豊かな自然を連想する方が多いと思いますが、アンカレッジもまさに自然のただ中にあります。市内を流れる川にはサーモンが泳ぎ、道路ではムース(ヘラジカ)が堂々と横切り、水辺にはビーバーの巣が並んでいます。車で2,3時間南へ下り海に出ると、野生のラッコやシャチ、クジラなどに出会うことができ、北へ向かえば北アメリカの最高峰、デナリ山を望むことができます。まさに自然の宝庫と呼べる環境がここにはあります。しかし、そんなアンカレッジで、日本語教育が非常に盛んに行われていることは、あまり知られていないのではないでしょうか。詳しくは後述しますが、この美しい自然の中、いくつもの学校が日本語のクラスを持ち、小学校から大学まで、大勢の人が日本語を学んでいる街、それがアンカレッジなのです。

サービス高校の日本語クラス

私の派遣先であるRobert Service High School(以下サービス高校)もそんな高校の一つです。全校生徒1700人程度のこの学校で、およそ100人の生徒たちが日本語を勉強しています。サービス高校は、アメリカにある多くの高校がそうであるように、生徒たちが自分の将来や卒業に必要な単位を考慮して、自分で受講するクラスを選ぶことができます。国語や数学といった必須科目もありますが、日本語のクラスは選択科目の一つで、日本文化や日本語に興味のある生徒たちが進んでこのクラスを受講しています。生徒たちの動機として多いのは、やはりアニメやゲームなどのポップカルチャーですが、中には武士道や日本旅行に興味を持って勉強している人もいます。そんな生徒たちに向けて授業をするにあたっての、リードティーチャーと私のこだわりの一つは、できるだけ生の日本語を見せるということでした。テレビで身近に日本の様子を見られたり、気軽に日本に旅行に行けるアジア圏の国々と異なり、サービス高校には日本の風景さえ目にする機会が少ない生徒がほとんどです。ひらがなの練習に、街の看板を読む、食料品のパッケージを読む、といった小さな工夫を取り入れるだけで、生徒たちはアメリカとの違いを見つけ、その違いに興奮して目を光らせてくれました。これまで身近に日本文化が溢れるアジアの国で教えてきた私が生教材の力を思い知った瞬間でした。

アンカレッジにおける日本語教育

日本から遠く離れたアンカレッジですが、前述した通り、日本語教育は非常に盛んに行われています。その中心となるのが、ダイモンド高校を中心とする日本語イマージョンプログラムです。日本語イマージョンプログラムとは、全ての教科を日本語で教えるプログラムです。日本で言うと、全教科の授業が英語で行われるインターナショナルスクールのようなものでしょうか。アンカレッジには、小学校から高校まで日本語で授業を受けてきたアメリカ人の子どもたちがたくさんいるのです。また、アラスカ大学の日本語学科もアンカレッジに位置し、イマージョンプログラムと共に数多くの日本文化に関わる行事を行っています。例えば、大学の大きなホールを借り切って行われる日本語コンテストでは、日本の詩の暗唱や日本の歌、演劇、J-POPダンス、自作の俳句の発表まで、日本語を使った様々なパフォーマンスが行われ、アラスカにこれほど多くの日本語学習者がいたのかと驚かされます。アンカレッジはアラスカ最大の都市とは言え、人口20万人ほどの小さな街です。そんな小さな街で、日本語コミュニティは確かな存在感を示しています。

日本語でつながるアラスカと日本

このように、アンカレッジではたくさんの人が様々な理由で日本語を勉強しており、日本文化に触れています。これほど遠く離れた国に親しみや興味を持ち続けてくれていることは、日本人として本当に嬉しく感じます。それと同時に、日本人がアラスカという場所のことをどのくらい知っているかを考えると、少し申し訳ないような気持ちになります。遠く離れたアラスカで、日本語を勉強している人たちがこんなにたくさんいるということが、日本ではほとんど知られていません。今後、日本でアラスカでの体験を話すことを通じて、日本の人にもアラスカに親しみを持ってもらうきっかけが作れたらと思います。

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