世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) メキシコの日本語教育と専門家


国際交流基金メキシコ日本文化センター
髙﨑 三千代

訪問先の大学生たちとの写真
訪問先の大学生たちと

国際交流基金(以下、基金)は、1972年から1997年まで、メキシコの主要な教育機関に日本語専門家(以下、専門家)を派遣していました。1999年からはメキシコ全体から中米まで広範囲の日本語教育をカバーするために、メキシコ日本文化センターに派遣を移行し、その後2003年に中断しました。国際協力機構(以下、JICA)も1990年から地方や日系の日本語学校を中心にボランティアを派遣してきましたが、2006年から取り止めています。

アニメやJポップの人気もあって、基金やJICAの派遣が中止されてからも着実に日本語学習者は増えています。地方では日本語教師不足が深刻で、本来まだ学ぶべき身と知りつつ教壇に立つ若い教師も現れました。一方で、メキシコの日本語教育を牽引してきた第一世代の交代が、数年後に控えています。今、メキシコの日本語教育はターニングポイントに差し掛かっているといえるかもしれません。

専門家派遣の再開

2003年以降、メキシコ日本文化センターは、主に情報提供や機関訪問等で側面から日本語教育を支援してきましたが、2009年、2010年と専門家が数ヶ月滞在し、今後の具体的な支援策を調査・探索しました。アメリカ国境の綿花と外資企業誘致の町で大学学部長の拡大構想を聞いたり、夜にはラ・バンバの楽曲が広場に鳴り響く街で勉強会を行ったりしました。200名以上の日本語学習者にアンケート調査も実施しました。それらが布石となり、2011年度から教師対象の研修「地方巡回サイクル指導」、学習者向けに「JF日本語講座」を開始することが決まりました。

教師研修「地方巡回サイクル指導」

メキシコ首都圏での教師研修会の写真
メキシコ首都圏での教師研修会

 2010年度、中部と北西部で、授業見学とフィードバックの研修会を試みました。実際の授業を見学した後、先ず授業を行った本人が振り返り、次に見学者の参加教師が意見を述べ、最後に専門家がまとめるという進行でしたが、専門家は発言者に水を向ける必要もないほど、みんなこのフィードバックセッションに入りこんでいました。北西部で授業を行った二人はメキシコ人教師でした。片や英語教育専攻、片や翻訳専攻の二人、どちらも日本語力そのものはまだ充分ではありませんが、教師の資質を確かに持って意見を戦わせていました。他方、中部では日本人教師ばかりでしたが、「日本人は実に振り返るのが好きな人種だ」と痛感させられました。自分で発見をした後に見学者から長所を見つけてもらい、その表情は柔らかくなっていました。振り返りの機会を設定してあげることが先生方には必要だったようです。

 この会では、見学者も頭の中で自分の授業を思い浮かべながら見ています。自分の課題を明確化して会は終わります。授業実施者はビデオ録画をお土産にもらい、自宅でじっくり見ながら課題シートの質問に答えて専門家に返送します。

 サイクルすることがこの研修全体の狙いなので、2011年度からは数ヵ月後にまた研修会が廻ってきます。前回、明確になった自分の課題にどう取り組んだかを報告する「plan-do-see」型の研修を想定しています。もちろん、授業見学できるよう学校に頼んだり参加者の都合を合わせるなどの難関もあるでしょうが、目の前で授業を見て得られるものは大きいと期待しています。

JF日本語講座の開講

 メキシコでは、「日本が好き、日本語が話せたら」と気軽に始めたものの、予想外に時間がかかって初級段階で力尽きる学習者が増えているようです。熟練教師が築いたメキシコの日本語教育の基礎の上に、この新手の学習者も意欲を持続するようなカリキュラムを検討するときかもしれません。メキシコ日本文化センターはこれまで直接に学習者を教える場を持っていませんでした。けれども、JFのノウハウを生かした講座を開くことができれば、メキシコや近隣諸国における日本語コースのショーケースとしての役割を果たすことも期待できるでしょう。2011年度から当センターは、学習者をよく知っている現地協力校との共催で、一般日本語講座を開講する予定です。

 JF日本語講座では、日本語能力試験体験講座も実施する予定です。これも地方と首都圏の機関と共催します。講座を一緒に運営しながら、お互いのやり方に学ぶことも多いでしょう。メキシコ日本文化センターは小規模な海外拠点ですが、だからこそ現場と手を組みやすく、迅速に具体化できる長所があると考えます。2011年度以降も、教師研修やJF日本語講座の改善・充実が図られるでしょう。そこでも、JFメキシコ・関係者・専門家のタイアップを堅持していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Mexico
派遣先機関の位置付け メキシコ日本文化センターは、メキシコ国内の日本語教育について主に情報収集・提供や調査を通して支援・普及活動を行ってきたが、2009年の専門家再派遣によってそれが本格化した。教師対象の事業としては、機関訪問やアドバイス業務に加え、メキシコ日本語教師会の勉強会への出講やJF日本語教育スタンダードの研修会が挙げられる。2011年度からさらに1名が派遣され、協力校との共催でJF講座を開講し、学習者対象の事業にも着手する予定である。講座の開設によって、メキシコ、あるいは中米・カリブ地域における日本語コースのショーケース的効果も期待されている。
所在地 The Japan Foundation, Mexico
Av. Ejército Nacional # 418 2 Piso Col. Chapultepec Morales, C.P. 11570 Mexico, D.F., Mexico
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年

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