世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) メキシコの日本語教育を発信する

国際交流基金メキシコ日本文化センター
髙﨑 三千代・伊藤 亜紀

メキシコと聞くと、まだサボテン、タコス、コロナビールというステレオタイプが一般的かもしれません。まして、この国の人たちがどうして、どんなふうに日本語を学んでいるか想像することは難しいでしょう。これからお伝えする記事で、現場の活気とメキシコならではの風景をイメージしてくださったらと思います。

JF『まるごと』日本語講座から

伊藤 亜紀

中等教育機関でのJF『まるごと』日本語講座

国際交流基金(以下、基金)との共催で”JF『まるごと』日本語講座”を行っている日本メキシコ学院(以下、リセオ)はメキシコ、日本両政府によって創立された初中等教育機関です。同じキャンパス内にメキシコのカリキュラムで運営されるメキシココースと日本の文部科学省のカリキュラムで運営される日本コースがあり、メキシコ人と日本人がともに学ぶユニークな学校です。

T6「外で食べる」後のピクニックの様子の写真
T6「外で食べる」後のピクニックの様子

中等教育向け教科書を探していたリセオの先生方に「『まるごと 日本のことばと文化』(以下『まるごと』)なら、高校生も楽しんで学習できる!」とのお声をいただいたのがきっかけで、2012年夏リセオ日本語教員と基金日本語専門家による講座が始まりました。

『まるごと』の対象が成人日本語学習者のため、「高校生対象に使えるのだろうか?」「異文化を理解するためのディスカッションができるのだろうか?」「教科書の内容をどのくらい高校生向けに修正しなければならないだろうか?」と最初は心配事ばかりでしたが、教師も生徒も『まるごと』やその教え方、学び方に慣れてきた2年目からは、最初の心配事は消え去り、驚くほどスムーズで活発な意見交換ができる授業が行われています。

コース開始時には、斜に構えたり、恥ずかしがったりして、日本語を口にすることに抵抗を示していた子もいましたが、子供から大人になっていく生徒の心身の成長とともに、学習意欲、集中力が高まってきているように感じます。何より「日本語で話せるようになってきた」というそれぞれの自信が活気あるクラス展開につながっている様子が見て取れます。

メキシコ日本文化センター(以下、JFMC)で『まるごと』講座開始

日本語専門家赴任時より様々な機関と共催でJF『まるごと』日本語講座を行ってきましたが、成人学習者対象のA2レベルのクラスがなかなか開けない状態が続きました。学習者のコース継続を希望する声と『まるごと』の授業を見てみたいという先生方のご意見に押され、2014年5月から日本語専門家を講師に、JFMC内で2クラス開講することとなりました。JF日本語教育スタンダードに準拠し、かつ、できるだけシンプルに、学習環境が変わっても再現しやすい授業を行います。『まるごと』の良さやその効果的な使用方法を、実践を通して理解する場を設けることで、多くの方に『まるごと』を知っていただく機会を作りたいと考えています。

メキシコの日本語教育トリヴィア

髙﨑 三千代

地方で日本語学習ブーム

メキシコ中部高原地帯の町の高校から、日本紹介のデモンストレーションを依頼されました。ここには生徒有志による日本語クラブがあって、メンバーはあいさつや少々の単語を知っているそうです。当日は140人以上が集まって、B級グルメの名前を覚えてその絵カードで神経衰弱をしたり、象形文字当てクイズをしたり、アニメの登場人物の『亀』の字を書いたりするうちに、3時間のワークショップがあっという間に終わりました。  この地帯では、過去2年間で自動車関連産業を中心とした企業が約300社も進出しました。日本を身近に思う人が増えて学習者も急増。先生は全然足りません。

教師研修会での先生方による発表から

①メキシコ人は体で学ぶ

日本祭、カラオケ大会といったイベント準備に学生が熱心な学校や、書道、折り紙、お弁当など日本文化の活動を定期的に実施する学校では、エネルギーがみなぎっていて学習者をひきつけるようです。授業では、手拍子で日本語の拍を教えたり、アニメソングを聴きながら切り分けられた歌詞の短冊をみんなで並べたり、昔ばなし『かさじぞう』のあらすじ作りの課題で寸劇を演じたり…。メキシコ人は体で学ぶのが大好きです。

②メキシコ人と文字学習

教師研修会の写真
教師研修会

ある地方の研修会でのこと。経験2年目のメキシコ人の先生は、ひらがなとカタカナを同時に、つまり「あいうえお」と「アイウエオ」を並行して教える授業を披露してくれました。教えた後に特訓が用意してあるそうですが、ベテラン先生は目を白黒。この若い先生は、学習経験があるだけでなくメキシコ人の気質も分かっているので、自分が編み出したこの方法に自信を持っているようです。「日本語を習ったら、その初日からみんなが知らない字が書ける。すごいでしょうと、特別感を感じさせて、引っぱっていく」のだそうです。

一人で学ぶことと、クラスで学ぶこと

2013年度の日本語能力試験受験者を分析しました。受験者総数は例年並み。しかし、学校に属さない受験者が増えました。『学校で学ぶ』から『一人、またはプライベート授業』へと受験勉強のスタイルが変わったようです。メキシコのような広い国土を持った国では、良質のインターネット学習サイトが増えたことも助けになっているでしょう。

一方で、メキシコ人の学習観についての調査では「日本語で会話したい」が動機の1位です。【PDF:1,076KB】クラスメートと日本語で話すことにも、他国に比べて肯定的です。つまり、メキシコ人は教室で友だちと学ぶことの効果も知っているのです。2012年にJFMCが始めた日本語教師向けのオンライン日本語講座’Ja. Pro en línea (Japones en linea para profesores de Mexico, Centroamerica y el Caribe’は、両方の特性を生かそうという試みでした。さらにメキシコを理解するよう心を砕きながら、この地の日本語教育を世界に向けて発信していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Mexico
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
メキシコ日本文化センターの主たる日本語教育事業として、JF講座の運営と日本語教育支援が挙げられる。JF講座は、事務所内での一般語学学校との共催講座や、中等教育機関との共催講座を行うことで、『まるごと』を使用する講座として様々な新しい試みを行っている。日本語教育支援事業としては、メキシコ日本語教師会と協力しアウトリーチ型教師研修会等を実施するほか、中米・カリブ諸国の教師も対象にしたオンライン日本語講座を開講し、メキシコと周辺国間のネットワーク強化を図っている。
所在地 The Japan Foundation, Mexico
Ejército Nacional #418 - 2º piso
Colonia Chapultepec Morales
CP. 11570 México, D.F., México
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名  専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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