世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) メキシコと中米カリブの日本語教育

メキシコ日本文化センター
蟻末 淳・阿部康子・松田涼子

メキシコの日本語教育機関で勉強する学習者の数は9240人(国際交流基金2015年調べ)。依然世界23位ですが、前回の2012年調査の6841人から35% も伸びています。 この数字はスペイン語圏一位です。近年の日本の自動車産業のメキシコ進出の影響で企業で通訳などとして働くメキシコ人も増加していますが、メキシコ人の主要な日本語学習の理由はポップカルチャー。メキシコと言えば、タコス、サボテン、マリアッチぐらいしか知らない日本人も多い中、メキシコ人はとても親日でアニメ・マンガなどを通じて日本文化に親しむ人も多くいます。

日本語クイズ大会Japan Bowl en Méxicoの初開催

メキシコではこれまで日本語教育シンポジウムや日本語弁論大会という日本語に関する大きなイベントが行われてきましたが、そこに新しいイベントが仲間入りしました。Japan Bowl en Méxicoです。米国で行われている日本語クイズ大会National Japan Bowlを範とし、2017年2月に記念すべき第一回が開催されました。有志による実行委員会を中心に、メキシコ日本文化センターが協力し、初めてのイベントにもかかわらず、在外公館、商工会議所や航空会社等多数のスポンサーの協力に恵まれました。

一般部門と高校部門に計45チームが参加。機関対抗で日本文化や日本語のクイズを競います。特に一般部門では日本語の知識があまり問われないこともあり、これまで日本語教育関係のイベントに参加しにくかった初級の学習者も多数参加してくれました。

まずは筆記形式の予選が行われます。画面に表示される全60問をチーム3名で協力しながら解いて行きます。そして高校部門上位3チーム、一般部門上位6チームが決勝トーナメントに進出します。決勝トーナメントは早押しのクイズ大会で、高校部門は3チームでの決勝戦、一般部門はその後準決勝2試合、更には敗者復活戦を経て決勝戦に至ります。

Japan Bowl en México・開会前の一コマの画像
Japan Bowl en México・開会前の一コマ

一般部門の決勝戦では在メキシコ日本国大使による特別問題などもありました。高校部門、一般部門共に決勝戦は逆転に次ぐ逆転で大変盛り上がりました。イベント実行に関わった者として、参加者のみならず、観客、スポンサーを初めとする来賓の方々が終了後に楽しかった、と口々に言ってくださったことに、長期の準備の努力が報われた気がしました。

これまでのメキシコでの日本語教育関係のイベントとは多少毛色が違うエンターテイメント性が高いクイズ大会Japan Bowl en México。日本語普及のための重要なイベントとして、日本語学習者、スポンサー企業や関連団体、日本語教師を中心とした実行委員会が協力していくことによって、定着、発展していくことが期待されています。

サイトでは大会のビデオや参加者紹介ビデオ、当日の写真などが見られます。ぜひご覧ください。
https://www.facebook.com/japanbowlmexico

 

点から線、そして面に

国際交流基金メキシコ日本文化センターの管轄はメキシコのみならず、中米カリブ諸国全体に及びます。中米カリブ地域で日本語教育が確認されているのは、ホンジュラス、コスタリカ、グアテマラ、エルサルバドル、キューバ、ジャマイカ、ニカラグア、パナマ、トリニダード・トバゴ、ドミニカ共和国(学習者数順・2015年国際交流基金調べ)。中米カリブ担当の日本語専門家(以下専門家)は3年間でこれらの国全てに出張し、調査や授業見学、セミナーなどを行いました。また、その他、ブラジル、米国、ペルーにも要請に応じて出張し、セミナーや会議等に参加しています。

中米各国でも、日本語母語話者教師がほとんどの国もあれば、治安などの問題があり日本語母語話者があまりいない国もあります。授業で学生と少し話したら、初めて日本人と話した! と目をきらきらさせて喜んでくれたりすることもあります。そういった国でも最近はインターネットを使い日本人と気軽にコミュニケーションをすることができるようになりました。変化に対応しながら、中米カリブの日本語教育の形を現地教師と一緒に模索していきます。

Japan Bowl en México 一般部門決勝戦・在メキシコ日本国大使出題の特別問題の画像
Japan Bowl en México
一般部門決勝戦・
在メキシコ日本国大使出題の特別問題 

中米カリブ諸国は中米カリブ日本語教育ネットワークを作っており、年に一度中米カリブ日本語教育セミナーで代表者が集まります。専門家はメキシコ日本語教師会の代表者と共に出張し、教師同士の広域ネットワーク作りのお手伝いをしています。その成果として、国際交流基金助成による中米カリブ諸国からのメキシコ日本語教育シンポジウム、Japan Bowl en Méxicoへの参加が実現しました。また、メキシコの団体が主催のラテンアメリカ・カリブプレゼンテーションビデオコンテストへの中米からの参加などもあり、インターネット上での交流も盛んになってきています。

そして、中米カリブのみに留まらず、南米ペルーの南米スペイン語圏日本語教育連絡会議にも同じくメキシコ日本語教師会代表者と出張し、南米の代表者と様々な話し合いをしました。将来的には中米カリブと南米のスペイン語圏のネットワークが繋がり、日本語教育の情報共有、共同でのイベント開催などをしていけることを望んでいます。

点と点を結び、様々な国を繋げる線を作り、活動の場となる面を作ること。そして、日本語教育関連活動の立ち上げ、運営を支援していく……それが専門家の魅力的な仕事の一つです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Mexico
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
メキシコ日本文化センターの主たる日本語教育事業として、JF講座の運営と日本語教育支援が挙げられる。JF講座は、一般学習者を対象とした事務所内での講座に加え、『まるごと』を使用する講座としては世界唯一の、中等教育機関との共催講座を行っている。日本語教育支援事業としては、メキシコ日本語教師会と協力しアウトリーチ型教師研修会等を実施するほか、中米・カリブ諸国でも研修会を行い、メキシコと周辺国間及びスペイン語圏諸国のネットワーク強化を図っている。
所在地 The Japan Foundation, Mexico
Ejército Nacional #418 - 2º piso
Colonia Chapultepec Morales
CP. 11570 México, D.F., México
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名  専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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