世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カイロ大学日本語日本文学科に赴任して -日本語教育専門家の視点-


カイロ大学
渡邊由美

1日本語教育派遣専門家の役割 ―「唯一の日本人」として―

カイロ大学では、74年に日本語教育専門家(以下専門家)の派遣が開始されて以来、初代専門家を除いては99年まで常に2~3名の専門家が派遣されてきた。歴代専門家の報告書等を見ても共通に言えるであろう専門家の役割として、ネイティブスピーカーあるいは経験のある日本語教師としての役割、カリキュラム・シラバスの作成、現地スタッフの採用や育成への協力などがあげられる。さらに私見では、単なる言葉のネイティブとしてでなく、日本に関する情報(できるだけ最新・生の素材)を公開・提供していくこと、教室内外を問わず学習者が多くの日本人と実際に話し、意見交換する場を設け、学習の動機づけを高めること等も要求されるのではと考える。

カイロ大学日本語日本文学科(以下日本語学科)に赴任したのは1999年8月。翌年の2000年8月から、カイロ大学への専門家ポストは1名のみとなった。そのためこの時点から、専門家は「唯一の日本人スタッフ」という立場でもあった。

2日本語教育専門家の成果 ―「留学目的」ではないカリキュラムへ―

どのエジプト人学習者も同様であろうが、直接日本人と接するのは旅行者ぐらい、という環境の中で、「日本人・日本をもっと知りたい」と日本語学習を始める。私の知る限り、エジプト人は大変積極的で人なつこく、ものおじしない。「日本人と話してみたい、習った日本語を使いたい」という動機は非常に高い。できるだけこうした学習者の高い動機づけを活用したカリキュラムにしたい、と赴任当初から考え始めた。

カイロ大学日本語学科では、3年生の1年間数名が日本へ留学(派遣先基本情報4)-5参照)することになり、いわゆる「留学候補者」は2年生後期までの成績で決められる。赴任当初(99年)の印象では、2年生まではクラス全体のまとまりもよく、全体が頑張っているのに対し、3年生以降になると一般的に「中級」の問題点とされるような語彙・文法運用力の差以上に、クラスが「留学組」とそうでない学生とに二分された感があり、動機づけが下がってしまっているように感じた。

そこで、特に99-01年度新入生以下に対し「留学だけが日本語を勉強する目的ではない」という意識改革をしたいと考えた。そのためには「エジプト国内で学んでも、日本への留学と同等あるいはそれ以上に意義のある」カリキュラムが必要であった。こうした経緯から、学習者が教室で習った日本語をより実践的に使っていく場をと考え、1~3年生の授業で日本人ビジターとのセッションをおこなってきたのである。01-02年度3年生(99-01の新入生)の例でいえば、テキストの1つのトピックを5回(10時間)の授業で終えるが、このうち1回分(2時間)を日本人とのセッションにあてた。単に授業で日本語のネイティヴと話す、ではなく四技能を有機的に結びつけられるよう配慮した。

まず学習者は準備のためテキストなどの情報を読み(インプット)、それについて日本人と話したり聞いたりする(セッション)。セッションはグループごとのインタビューや意見交換後、さらに日本人ビジターの前で結果を報告するという流れである。

そして、その後の授業でセッションで得た情報を使って文章を書く(アウトプット)。このようにして読む、話す聞く、書くを連結させた実践的な教室活動を展開させた。

さらに「教室活動」を教室内で終えず、学習者をできるだけ在カイロ「日本人社会」に参加させる形がとれればと考え、2000年の弁論大会以降はカイロ日本人会会報誌「パピルス(月刊)」)への投稿を申し出、学年を問わず希望者に記事を投稿するよう呼びかけた(これまで述べ10名程が記事を投稿、全て掲載)。この「パピルス」誌への投稿が、ビジターセッションとその後のアウトプットへの動機づけともなった。すなわち「日本人と話し合って良い文章が書ければ、記事をカイロの日本人が読む雑誌に載せることができる」となると、良い記事を書くため張りきって日本人とのセッションのテーマを考えたり、自主的に追加インタビューをする学生もでてきたのである。最終的には01-02年度3年生の中から「自分達で『パピルス』のような雑誌を作りたい」という声があがり、01-02年度前期終了時(02 年1月)「みんな」と称する文集の第一号、後期終了(同6月)に第二号を発行予定である。

3今後の課題 ―「改革」の実現性―

カイロ大学に限ったことではないかもしれないが、学外から訪問者を招く等、小さなことでも授業に通常外の要素が入ると、許可が必要になる。そして許可の申請先・方法等のシステムもその時々で変わる。結局授業に新規要素が入る場合は、長期的に緻密に計画を立てたり、他の授業と連携させることが大変困難である。こうした事情から、若手講師等とはなるべく連携・協力するよう試みたが、新規要素をカリキュラム全体に組みこむなどということは、至難の技に思える。日本語教育専門家としては学生の日本語力向上と学習に対する動機継続のため、授業作りに最大限の努力をするのだが、学科全体となると外部からの働きかけで短期的に容易に変容するというものではないようだ。

派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
及び業務内容
カイロ大学日本語・日本文学科の日本語講座は、2002年に創設28年目を迎えたが大学主専攻コースとして2000年に新たにアインシャムス大学に日本語学科が設立されるまでは同国唯一主専攻の講座であった。同大学は現地教師も育ってきており、うち6名が博士号を取得しているなど、中近東・アフリカ地域の日本語教育・日本研究拠点としての役割を担っている。
専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 カイロ大学
Cairo University
ハ.所在地 Giza Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名、他日本研究客員教授短期派遣2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カイロ大学文学部日本語・日本文学科
ヘ.日本語講座の概要

(イ)沿革

(1)講座(業務)開始年
専攻:1974年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年
1974年

(ロ)コース種別

専攻

(ハ)現地教授スタッフ

常勤8名(うち邦人0名)、非常勤2名(うち邦人1名)

(ニ)学生の履修状況

(1)履修者の内訳
各学年22名程度
(2)学習の主な動機
観光業への就職、
日本への興味
(3)卒業後の主な進路
観光業への就職、
修士予備課程進学
(4)卒業時の平均的な日本語能力レベル
成績上位者で日本語能力試験2級程度
(5)日本への留学人数
6名程度

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