世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カイロ大学 文学部日本語・日本文学科(2003)


カイロ大学
石田美保

カイロ大学の写真
カイロ大学

 世界各地で多くの人々が日本語を学んでいる現在、エジプトという日本から遠く離れた地にもまた、明るく、そしてひたむきに日本語を学ぶ若者たちがいる。1学年20数名という少人数ではあるが、大学の専攻科目として、日々、日本語を学び、また日本や日本文化について知ろうとする熱心な学生たち、その彼らを、自らの日本留学経験を踏まえて見守り指導するエジプト人講師陣が集うところ。それがカイロ大学文学部日本語・日本文学科である。

 学科創立からいよいよ30年を迎えようとしているが、かつて日本語学科で学んだ卒業生たちが日本へ留学し、博士号を取得した後、学科の講師として次々と戻ってきており、エジプト人講師は10名とこれまでになく充実している。今後も現在留学中の若手研究者たちが戻ってくる予定であり、将来は明るい。こうした背景から、日本人の日本語教育専門家派遣はかつての複数派遣から現在では1名のみの派遣となっている。このような現在のカイロ大学に派遣された筆者の専門家としての主な役割は、日本語ネイティブスピーカーとして日本語講義を担当し、現地講師とともに学科の運営や行事に携わり、また、現地講師への助言、指導にあたることである。

 カイロ大学日本語・日本文学科では、文学部に所属する学科として、日本語の語学習得のみならず、日本文学、日本の歴史、文明、思想など、日本に関する幅広い知識を身につけられるよう、各講義が開かれている。筆者は、この中の語学の講義の主な部分(日本語文法、会話、講読、作文、漢字など)を他講師と協力し、担当している。

日本語学科の学生たちの写真
日本語学科の学生たち

 日本語学科の学生たちは非常に明るく、積極的で、「話すこと」を重要なコミュニケーション手段と考えるお国柄からか、会話を最も得意としている。授業への取り組みは熱心で、教師としては教える楽しさを実感できるありがたい環境である。入学時は日本語については全く分からず、「ひらがな」から学習していくが、1年目にして、早くも持ち前のコミュニケーション力を発揮し、冗談も交えて話せるようになってしまう。授業が終わった後に筆者の周りに集まってきては、それぞれが話したいことを一生懸命話そうとする様子は実に微笑ましい。また、日本語が話せることがうれしくて仕方がない学生たちにとって、カイロ大学内にいる日本人留学生は貴重な存在であり、その結果、大学構内で、日本人の学生が、日本語学科の学生たちに囲まれて質問攻めにあっている光景も見られる。しかしそんな彼らも日本語の複雑な文法や漢字などと取り組む時には、打って変わって真剣な表情となる。

 このような学生たちにとって学科行事である弁論大会は、身につけた日本語を発表できる絶好の機会である。この大会の実施にあたっては、専門家と他講師とで協力し、なるべく多くの学生がこの機会に参加できるよう、また多くの日本人の方に見ていただけるよう心を配りつつ、毎年この弁論大会を開催してきている。大会では学生代表者による日本語スピーチコンテストだけではなく、学生が自ら考え、作り上げた日本語による劇、日本語の歌の発表などが行なわれ、エジプト人学生にとっては、願ってもない活躍の場として、皆生き生きと参加している。

 学生たちは、将来、大学院進学や、観光業への就職などをはじめ、何らかの形で日本語や、日本と関わりたいと希望している。彼らの日本への関心や日本との関わりを大切に育んでいきたい。

 さらに専門家の役割としては、日本語教育、教授法、教材、また日本研究に関する最新の情報を、常に学科内に提供していく必要を感じている。また、エジプト人講師によるアラブ人向けの日本語教材開発や各種勉強会など、今後、日本語学科を担っていく講師陣の活躍を具体的に支援していくことがこれからの目標である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カイロ大学日本語・日本文学科の日本語講座は、2002年に創設28年目を迎えたが大学主専攻コースとして2000年に新たにアインシャムス大学に日本語学科が設立されるまでは同国唯一主専攻の講座であった。同大学は現地教師も育ってきており、うち8名が博士号を取得しているなど、中近東・アフリカ地域の日本語教育・日本研究拠点としての役割を担っている。
 専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 カイロ大学
Cairo University
ハ.所在地 Giza Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名、他日本研究客員教授短期派遣1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カイロ大学文学部日本語・日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   専攻:1974年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1974年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤12名(うち邦人1名)、非常勤1名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年22名程度
(2) 学習の主な動機 観光業への就職、
日本への興味
(3) 卒業後の主な進路 観光業への就職、
修士予備課程進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
成績上位者で日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 7名程度

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