世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) エジプトと中東の日本語教育を支援する ―国際交流基金カイロ日本文化センター日本語教育アドバイザーの活動―

国際交流基金カイロ日本文化センター
尾崎裕子

日本語教師養成講座実習の写真
日本語教師養成講座実習

エジプトは中東の中でも日本語教育が盛んな国です。その背景には、エジプトには年間8万人もの日本人観光客が訪れ、日本語観光ガイドの需要が高いため、実利的な動機から日本語を学ぶ人が多いということがあります。このような状況が見られるのは中東ではトルコとエジプトぐらいで、中東の日本語教育におけるエジプトの重要性と特徴を示すものです。

国際交流基金カイロ日本文化センターは1995年から中東における文化交流事業の拠点として様々な活動を行ってきました。日本語教育支援はその中の重要な柱の一つで、日本語アドバイザーはエジプト及び中東近隣地域の日本語学習者と日本語教師のための支援活動をしています。
日本語アドバイザーが現在取り組んでいる主な仕事は以下のようなものです。

1.日本語教師養成

エジプトでは日本語教師の人材不足が問題で、多くの機関で人材確保に苦労しています。そこで現地で日本語教師の人材を発掘し育てるために、カイロ日本文化センターでは日本語教師養成講座を行っています。6ヶ月(約100時間)で日本語教育の理論学習、授業見学、模擬授業、実習授業を行うもので、限られた時間ですが、その中でできるだけ実践的な教授能力を身につけてもらうことを目指しています。現在5人の受講生がいますが、近い将来この講座の修了生の中から実際に教壇に立つ人が出てくることを期待しています。

2.中・上級向け日本語講座の運営

エジプトで中級レベル以上の学習ができる機関は、カイロにある日本語専攻学科を持つ二つの大学だけです。エジプトの日本語学習者の7割が、他の大学の第二外国語の授業や一般講座で学ぶ初級の学習者です。この人達の多くが中級以上の日本語学習を継続したいと希望していますが、残念ながら彼らの受け皿になる教育機関はありません。そのような学習者のために、カイロ日本文化センターでは「ことばと文化」講座を開講し、様々な日本語クラスを運営しています。この講座の企画・運営と授業担当もアドバイザーの仕事です。2004年5月現在開講中のクラスは「上級講座」「能力試験1級準備講座」「同2級準備講座」「中級Ⅰ講座」で、私は「1級準備講座」を担当しています。受講生の多くは既に日本語教師や日本語ガイドとして仕事をしている人達ですが、忙しい中さらに自分の日本語のスキルを向上させようと熱心に取り組んでいる姿を見ると、教える方もやりがいを感じます。

3.エジプト国内の日本語教師の支援

いろいろな日本語教育機関を訪問して、授業見学や教師や学習者のためにアドバイスをしたりするコンサルティングの仕事も重要です。以前ある大学で孤軍奮闘している経験の浅い日本人教師を訪ねたことがありました。授業後私が行った学習者へのインタビューで、彼らの日本語を学ぶ上での希望や苦労、不満などいろいろな本音の声が出てきました。それにこの先生は刺激を受けたようでした。彼女はそれまで学習者の心に踏み込んで、彼らの思っていることを引き出すことをあまりしなかったことに気づき、学習者の日本や日本人に対する思いをもっと知ろうとするべきだったと反省したというのです。彼女はその後の授業でそうした自分の気づきを活かした授業を心がけ、それがうまくいって、達成感と満足感を得て任期を終えることができたと、後で報告してくれました。私の訪問がその先生の振り返りのきっかけになったことを嬉しく感じましたし、同時に私自身、この方の教師としての真摯な姿勢に大変教えられました。いろいろな先生方への支援を通して、私自身も教師として多くのことを学ばせてもらっています。

4.エジプト及び近隣諸国の日本語教育関係者のネットワーク構築

第2回中東日本語教育シンポジウム
2003中東日本語教育セミナー

エジプトだけでなく中東の近隣地域の日本語教育にも目を配り、この地域の日本語教師のネットワーク作りのお手伝いもします。カイロでは毎年中東の日本語教育関係者が集まるセミナーを開催していますが、このセミナーは日本語教師としての専門性向上と、孤立しがちな地域でがんばっている仲間同士の連帯強化という二つの目的を持っています。2003年には9カ国から40人近くの日本語教師が集まりました。今後もさらに多くの国から参加者が集まり、中東の日本語教育ネットワークが広がっていくことを願っています。

このようにカイロ日本文化センターのアドバイザーの仕事は文字通り幅広く、多岐にわたり大変な面もありますが、一方、ただ教室で授業を担当するだけでなく、いろいろな側面から日本語教育に関わり、様々な人と出会うことができるというおもしろさもあります。カイロ日本文化センターを拠点として、できるだけ多くのエジプトとその他の中東地域の日本語学習者と日本語教育関係者に出会い、いっしょに日本語学習・日本語教育のよりよい環境作りを進めていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 1995年に開設された国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広く活動をしている。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つである。日本語教育アドバイザーはエジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行う。国内では中・上級の学習者に特化した日本語講座や日本語教師養成講座の運営、諸機関の日本語教師へのコンサルティングなどを行っている。また毎年中東日本語教育セミナーを開催し、中東の日本語教師のネットワーク構築を行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Cairo Office
ハ.所在地 14F Cairo Center Bldg., 2 Abdel Kader Hamza St.,Garden city, Cairo, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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