世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カイロから中東の日本語教育を支援する ―国際交流基金カイロ日本文化センター日本語教育アドバイザーの活動―

国際交流基金カイロ日本文化センター
尾崎裕子

中東は地理的にも文化的にも日本から遠く、日本語観光ガイドの需要があるトルコやエジプトを除けば、日本語の社会的需要はまだ小さく、日本語教育はまだまだマイナーな存在だと言えます。このような日本語教育環境がじゅうぶん整っているとは言えない所で日本語を教えている教師と日本語を学んでいる学習者の両方を支援するために、国際交流基金カイロ日本文化センターの日本語アドバイザーは次のような活動を行っています。

1.中東近隣諸国への出張

クウェート大学生涯学習センター日本語講座の写真
クウェート大学生涯学習センター日本語講座

中東の日本語教育の実情把握のため、各地の日本語教育関係者と会い、いろいろな現場を視察します。その上で、各地域や現場の問題・課題や将来的な展望について現地の関係者と一緒に考え、できる助言を行います。また、現地の日本語教師や関係者と新しい横のつながりを作り、中東の日本語教育関係者のネットワークを広げ、強化します。

筆者はこれまでヨルダン、チュニジア、レバノン、トルコ、クウェートに出張しました。日本語観光ガイドを目指す実利指向の学習者が多いエジプトと比べて、これらの国では日本のポップ・カルチャーや建築、デザイン、武道などへの関心から日本語を学ぶ人が多いというのは、新鮮な驚きでした。トルコでは日本のアニメが大好きだという高校生の学習者に会いましたし、クウェートでは日本の少女漫画オタクという社会人女性学習者にも会いました。日本のポップ・カルチャーの日本語教育への影響が中東にも着実に広がっていることを実感しました。

中東各地の現場で教えている教師は、青年海外協力隊員、現地に定住している日本人、現地のノン・ネイティブ日本語教師など様々ですが、日本語教師になるための研修を受けていない人や経験の浅い人も多く、授業について相談したくても、周りに相談できる人や参考にできるリソースもないというような場合がよくあります。このような先生の話を聞き、授業を見学し、筆者がコメントしたことに対して、「初めて自分の教え方を見直すことができた」「この国に来て初めて日本語を教え始めたので、自分の今の教え方に自信がなかったのだが、話を聞いて自信ができた」というような先生方からのフィードバックを聞くと、筆者の訪問が先生方を励ますのに少し役立ったかなと安堵を感じます。

2.中東日本語教育セミナー

2004年中東日本語教育セミナーの写真
2004年中東日本語教育セミナー

中東で日本語を教える教師の研修とネットワーク作りのために、毎年夏にカイロで中東日本語教育セミナーを開催しています。このセミナーでは、日本から講師を招聘し、中東の各地で活動している日本語教師が一同に集まって、研修を受け、教師としての専門性を高めると同時に、同じ中東で活動する教師に共通の問題や悩み、情報やアイデアをシェアします。数年前から始まったこのセミナーですが、毎年、参加国数、参加人数が増えており、2004年には10カ国から四十数人の日本語関係者が集まりました。これからも、中東の日本語教育関係者を支援する重要な活動として、このセミナーは続いて行くものと思います。

3.エジプト国内における日本語教師人材育成

エジプトでは日本語教師の人材不足が問題です。この問題を少しでも解消するために、カイロ日本文化センターでは2004年に1年計画で現場に立てる教師の養成を行いました。1月~7月まで、実習を含めた100時間の日本語教師養成講座をカイロ日本文化センターで行ったあと、日本語教育振興会(エジプト)日本語講座の協力を得て、3名の修了生がさらに9月から11月まで、同講座での授業見学、授業実習、小テストや宿題の作成・添削など、実地研修を行いました。その上で、2005年1月からこの3名の修了生は同講座で実際に教え始めました。筆者は養成講座の最初からこの新人講師の指導に当たり、彼女達の教師デビュー後も教案指導や授業見学、コンサルティングなどを行い、新人講師の技術向上のための指導を続けました。

2005年度は、上記の養成講座出身の新人講師を含めて、いろいろな日本語教育機関で教えている経験の浅い教師の技術向上のための支援を行っていく予定です。

4.中・上級学習者の日本語学習支援

カイロ日本文化センターでは日本語学習者のために「ことばと文化」講座として、さまざまな日本語講座を開講しています。現在同講座は「中・上級学習者の日本語学習継続の支援」に重点を置いており、2005年度春学期には「中級I講座」「中級II講座」「上級講座」の三講座を開講しています。

 このようにカイロ日本文化センター日本語アドバイザーの仕事は、エジプト国内だけでなく、中東全体の日本語教育もカバーしており、カイロにいながら、中東各地の日本語教師や学習者とも出会うことができるというのが大きな魅力だと思います。これからもエジプトと中東近隣地域でよりよい日本語教育環境作りを進めるために、多くの日本語教育関係者や学習者に会い、彼らの声に耳を傾けながら、アドバイザーとしてできるだけのお手伝いをしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に開設された国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広く活動をしている。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つである。日本語教育アドバイザーはエジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行う。国内では中・上級の学習者に特化した日本語講座の運営や諸機関の日本語教師へのコンサルティングなどを行っている。また毎年中東日本語教育セミナーを開催し、中東の日本語教師のネットワーク構築を行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Cairo Office
ハ.所在地 5F Cairo Center Bldg., 2 Abdel Kader Hamza St., Garden City, Cairo, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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