世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中東の日本語教師と学習者の熱い思いを受けとめて

国際交流基金カイロ日本文化センター
尾崎裕子

筆者がカイロに赴任してから早いもので2年9ヶ月が経ちました。日本からは地理的にも文化的にも遠く感じられる中東ですが、実はここでも世界の他の地域同様、日本語教育が少しずつ活気を増してきています。カイロ日本文化センターの日本語教育アドバイザーとして筆者がこれまでどのようなことを行ってきたか、活動の一部をご紹介したいと思います。

中東日本語教育セミナー

2005年中東日本語教育セミナーの写真
2005年中東日本語教育セミナー

 中東で日本語を教えている教師のスキルアップとネットワーク作りを目的に、毎年カイロで中東日本語教育セミナーを開催しています。セミナーの規模は年々大きくなり、2005年には8カ国から50人あまりの日本語教育関係者が集まりました。2年前からは中東の国際協力機構(JICA)派遣の教師もほぼ全員参加し、地域の日本語教育発展のための組織の枠を越えた協力が実現しています。

 アドバイザーはセミナーの企画・運営を事務所スタッフとともに行いますが、参加者が「来てよかった」と思えるようなセミナーとなるように、中東で教えている日本語教師のニーズを考えながら、準備を進めます。2005年のセミナーでは春原憲一郎氏を招聘講師に迎え、「学習者が日本語が使えるようになるとはどういうことか」、また「そのためにどのような授業活動ができるか」ということをテーマに、参加者が頭と体を使って熱気あふれるワークショップを経験しました。また、中東の日本語教育を「中東の日本語学習者の視点」から考えるディスカッションでは、日本語ノンネイティブ教師の日本語学習体験と教授経験をみんなでシェアした後、教師と学習者の文化の違いの問題などをめぐって活発な意見が出されました。

 中東ではまだまだ日本人教師への依存度が高い現場が多いのですが、やはり将来的に現地の日本語教育を担ってゆくのは現地の先生であり、彼らの存在が日本語教育の現場でもっと活かされるような環境を作っていくことが大切です。そういう意味で、2005年のセミナーにこれまで最多の13人のノンネイティブ教師が参加してくれたのは大きな収穫でした。

中東の日本語教育機関の視察

 中東各地の日本語教育の現状を知るためには、各現場の視察も欠かせません。中東ではもともと日本語教師の研修を受けたことがなく、また周りに相談できる同僚もいないような環境で教えている先生もいます。そのような先生のいる現場に出かけて行って、できるだけ彼らの話に耳を傾け、教師が抱えている問題についていっしょに考えます。「今まで自分一人で悩んできたが、話を聞いてもらえてよかった」と言ってもらえると、出張したかいがあったと感じます。

 出張先でいろいろな学習者に出会える楽しさもあります。2006年の3月にはじめてイエメンに出張したとき、非常に印象的な日本語学習者達に会いました。イエメン唯一の日本語講座で学ぶ数名の日本のアニメ・オタクの若者達が集い、ホームページを作って、自分達と同じような日本文化好きの人達とネット上で交流したり、家庭用ビデオカメラで日本語の映画を作ったり、非常に積極的に日本語学習を楽しんでいたのです。在留邦人が40人程しかおらず、日本との接点もほとんどないようなイエメンでこんなに生き生きと日本語に取り組んでいる人達がいるというのは新鮮な驚きでした。インターネットの持つ力の大きさと、「サブ・カルチャーへの興味から日本語を」という学習者が中東全体に確実に広がっていることを改めて実感させられました。

基金カイロ日本文化センター日本語講座

国際交流基金カイロ日本文化センター中級講座の写真
国際交流基金カイロ日本文化センター 中級講座

 カイロ日本文化センターでは現在中上級に重点を置いた日本語講座を運営していますが、2005年11月から新しい試みとして「社会科学系大学生のための日本語講座」を試験的に始めました。このコースはエジプトの知的エリートの卵であるカイロ大学の政経学部の学生と一部カイロアメリカ大学の学生を対象にした2年間の初級日本語コースです。エジプトにはこれまで日本語の学習者は大学で日本語や日本文学を専攻する学習者か、観光ガイド志望の一般学習者の二種類しかいませんでした。しかし、これからは人文系以外の様々な分野での日本研究や日本の研究者との学術交流のために日本語を学ぼうとする新しい学習者層を開拓し、育てていく必要があると感じています。ねらい通りにこのコースが定着して、将来的にこの講座の受講生の中から実際に日本とエジプトの学術交流に携わる人が出てくることを願っています

 カイロ日本文化センターでの仕事を通して、中東のいろいろな国の日本語教師や日本語学習者と出会い、彼らの日本語に賭ける熱い思いに触れることができたのは、日本語教師として筆者の大きな財産となりました。中東は広く、アドバイザーがカイロにいながらできることに限りはありますが、中東の日本語教育関係者の熱い思いをしっかりと受けとめて、彼らの期待に応えられるようにこれからも全力で頑張っていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に開設された国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広く活動をしている。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つである。日本語教育アドバイザーはエジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行う。国内では中・上級の学習者に特化した日本語講座の運営や諸機関の日本語教師へのコンサルティングなどを行っている。また毎年中東日本語教育セミナーを開催し、中東の日本語教師のネットワーク構築を行っている。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金カイロ日本文化センター
The Japan Foundation Cairo Office
ハ.所在地 5F Cairo Center Bldg., 2 Abdel Kader Hamza St., Garden City, Cairo, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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