世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カイロ大学で日本語を学ぶ


カイロ大学文学部 日本語日本文学科
古川敦子ジュニア専門家

カイロ大学文学部日本語日本文学科

カイロ大学正門とナセル講堂の写真
カイロ大学正門とナセル講堂

 カイロ大学と聞けば、すぐにエジプトの首都にある国立大学だとわかる人は多いでしょう。カイロに来たことのある人は、ギザのピラミッドへ行く途中にあるカイロ大学の大きな正門とその奥に見える堂々としたナセル講堂を覚えているかもしれません。

 ではそのカイロ大学に日本語専攻の学科が30年前からあること、そしてその学科は文学部の中でもかなりの人気学科であることをご存知の方は、どのくらいいるでしょうか。

 カイロ大学文学部日本語日本文学科(以下、日本語学科)では90名ほどの学生が毎日熱心に日本語を学んでいます。語学だけではなく、日本文学、思想、文化など幅広い知識を習得することを目的としたカリキュラムが設定されているので、ひらがなから始めた1年生が4年生になる頃には、川端康成や太宰治などの文学作品、日本の仏教、そして福沢諭吉の思想などについて学ぶようになります。

 日本語学科はエジプトで最初に設立された日本語専攻学科として、エジプトの日本語教育のリーダー的役割を担ってきました。1994年には大学院も設立され、日本研究者の養成も期待されています。

「珍しい言語ですから」

熱心に学ぶ学生たちの写真
熱心に学ぶ学生たち

 学生達に「どうして日本語学科を選んだんですか?」と尋ねると、ガイド・観光業に就きたいから、小さい頃日本のドラマやアニメを見て興味を持ったからという答えも多いのですが、それだけではなく「日本語は珍しい言語ですから」という答えも少なからず返ってきます。これは、エジプトでは英語やフランス語に比べて日本語を学んでいる人、話せる人が少ないということです。確かにエジプトを観光で訪れる日本人は多いのですが、日本語を学べる場所、教材、そして日本文化に触れる機会は非常に限られています。中等教育機関には日本語科目はないので、大学では全員初歩からのスタートとなります。

 日本語学科の学生は、「何か人とは違うことをやってみたい」「新しいことに挑戦したい」という気持ちが強いのではないかと思います。…もちろん中には正直に「本当は○○語学科に入りたかったんですけど…」と小さな声で答える学生もいますが、その後で必ず「でも、今は日本語学科でよかったです!」と言ってくれるので、こちらも一安心?です。

日本との架け橋に

 毎年、日本語学科から3年生7名程が日本の大学へ交換留学生として1年間派遣されます。彼らのほとんどは日本へ行ったことがないだけではなく、1人暮らしも初めての経験となります。日本で日本語を学んだり、日本文化を体験したりするだけではなく、異文化に接しつつ自分を成長させているようです。最初はつらくてカイロに戻りたくなる学生もいますが、1年後には日本語力も伸び、自信をつけ、そしてひとまわり逞しくなって帰国します。

 カイロでは日本に触れる機会が少ないので、日本関係のイベントへの参加は学生にとって大きな楽しみの一つとなっています。カイロ日本人学校の行事、大使館で行なわれるお茶会には毎回多くの学生が参加します。実際に日本文化を経験したり、日本人と話したりすることで、日本とのつながりを感じ、さらに日本語を学ぶ意欲を高めています。
このような経験を経て、日本語学科の学生は、将来何らかの形でエジプトと日本をつなぐ架け橋になっていくのだろうと思います。

先生、先輩、憧れ…頼りになる存在

 日本語を学ぶ過程で学生は様々な困難にぶつかりますが、そんな時、もっとも頼りになるのはエジプト人の教師です。日本語学科で教鞭を取るエジプト人教師は皆、当学科卒業生で、日本への長期留学経験があります。彼らは日本語が堪能で、日本文化に精通しているだけではなく、エジプト人学習者特有の問題点や悩みもよくわかっているため、よく学生から質問や相談を受けています。そして自分の経験をもとに、時には厳しく、時にはやさしく学生を励ましています。彼らは学生にとって先生、先輩、また憧れの存在にもなっているのです。

 エジプト人教師を頼りにしているのは学生だけではありません。実は、私、ジュニア専門家もかなりお世話になっています。学生にとって今何が問題なのか、どのような対処が必要かといったような授業に関することを相談するだけではなく、アラビア語で行なわれる様々な学科の業務についても常にサポートをしてもらっています。

ジュニア専門家の業務

 現在、日本語学科はエジプト人教師によって運営されているので、ジュニア専門家は日本語の授業(特に1、2年生)が主な業務となります。授業でエジプト人教師と協力してティームティーチングを行う他、週予定の作成、連絡ファイルの記録と管理、試験作成などを行ないます。その後の日本研究へとつながる基礎を固めるために、初級の日本語教育は非常に重要なものと考えられます。一人一人の学生と向き合い、彼らに合った、よりよい日本語教育を考えていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カイロ大学日本語日本文学科は2004年度学科創立30周年を迎えた。同学科は現地教師も育ってきており、うち8名が博士号を取得しているなど、中東・アフリカ地域の日本語教育・日本語研究拠点としての役割を担っている。
ジュニア専門家は日本語の講義での日本語教授、カリキュラム・教材作成にたいする助言、現地教師の育成を行なう。
ロ.派遣先機関名称 カイロ大学
Cairo University
ハ.所在地 Giza Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
他日本研究客員教授短期派遣1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カイロ大学文学部日本語・日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1974年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1974年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤12名(うち邦人1名)
非常勤1名(邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年20名程度
(2) 学習の主な動機 日本、日本語、日本文化に対する興味、観光業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 修士予備課程進学、観光業への就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 7-8名程度

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