世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 国際交流基金カイロ日本文化センター -日本語教育アドバイザーの活動-(2007)

国際交流基金カイロ日本文化センター
山科健吉

 カイロ日本文化センターは、中東における唯一の国際交流基金事務所として、エジプトはもとより中東地域全体を視野に入れた文化交流事業を展開しています。中でも日本語教育支援事業は重要な柱の一つで、国内2ヶ所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対するコンサルティングや広域セミナーの実施など、幅広い活動を行っています。

近隣諸国への出張

 一口に中東といっても日本語教育を取り巻く環境は地域によって実に様々で、エジプトやトルコのように比較的広く日本語教育が行われている国もあれば、北アフリカ諸国や湾岸諸国のように一国一機関、日本語教師も二~三人といった地域も少なくありません。また学習者のニーズも地域により様々で、就職や留学のために集中的に日本語を勉強している人もいれば、生涯学習の一つとして日本語学習を楽しんでいる人たちもいます。日本語教育アドバイザーは中東各国の日本語教育現場を訪ねて現状を視察し、情報提供やコンサルティングを行います。筆者は赴任して半年余りのあいだにチュニジア、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦に出張し、学習者や現場の先生方の声を聞くことができました。チュニジアでは国内で初めてとなる日本語弁論大会が開催され、学習者が日頃の日本語学習の成果を披露しました。バーレーンでは中学校の教室を授業のない夜間に借り、かれこれ十年以上も市民講座として日本語教育が続けられていました。カタールでは教育省語学センターと小学校で新たに日本語教育が始まり、アラブ首長国連邦では日系企業の駐在員の方々が中心となってボランティア日本語教室を開いていました。いずれの国においても日本語はマイナーな存在であり、日本語を学習したからといってすぐに留学や就職に結びつくものではありません。そのような状況でも日本語を一生懸命勉強している学習者の姿に感動し、また孤軍奮闘している日本語教師の方々のご苦労には頭が下がる思いでした。こうした学習者や日本語教師の方々に情報を発信しサポートしていくこと、中東地域全体の教師ネットワークを構築し相互交流を促進していくことも日本語教育アドバイザーの重要な役割の一つです。

中東日本語教育セミナー

2006年中東日本語教育セミナーの写真
2006年中東日本語教育セミナー

 中東各国で日本語を教えている日本語教師が年に一度エジプトに集まり、日本語の知識を深め、教授法のスキルアップを図り、それぞれの現場が抱えている課題や取り組みについて意見交換・情報交換をし、ときには愚痴をこぼしあってリフレッシュする、そんな機会を提供するのが中東日本語教育セミナーです。
 2006年9月のセミナーでは、日本から吉田昌平氏(横浜国立大学)、小田切由香子氏(成蹊大学・横浜国立大学)の両氏をお招きし、『日本語学習者とのコミュニケーション:初級日本語学習者の文法と指導を考える活動』、『「あいうえお」で学ぶ日本語の音』、『中級学習者の文の添削』と題した3つのワークショップを行っていただきました。また、今回はシリアからアラビア語版「ひらがなアソシエーションカード」の紹介、トルコからは当地事情を取り入れた日本語授業の実践報告など、参加者からの発信も積極的に行われ、実りの多いセミナーとなりました。
 今回で6回目の開催となったセミナーには過去最多となる中東11か国(アラブ首長国連邦、イエメン、エジプト、クウェート、サウジアラビア、シリア、チュニジア、トルコ、バーレーン、モロッコ、 ヨルダン)から62名の日本語教師が参加し、盛況のうちに幕を閉じることができました。今後はこのセミナーでの出会いを大切にして、国や機関を超えた「絆(きずな)」へと深めていくことができればいいと思っています。

国際交流基金カイロ日本文化センター日本語講座

アレキサンドリア日本語講座の写真
アレキサンドリア日本語講座

 カイロ日本文化センターではエジプト国内の日本語学習者のために「ことばと文化」講座を開講しています。これまでこの講座は基金事務所があるカイロ市内でのみ実施していましたが、地方での実施を求める声が高く、2007年2月にエジプト北部のアレキサンドリア市において新たに日本語講座を開講しました。教室がひとつ、初級レベルだけの小さな講座ですが、高校生から社会人まで50名を超える学習者が楽しく日本語を学んでいます。

 カイロ日本文化センター赴任が決まったとき、中東全域という広範な地域、相手の顔が見えない業務に戸惑いを覚えました。しかし、エジプトに着任して半年余りが過ぎ、セミナーや出張を通して多くの先生方や学習者と出会い、今は広域アドバイザーという仕事に魅力を感じています。これからもより良い日本語教育環境作りのために、彼らの声に耳を傾け、アドバイザーとしてできるだけのお手伝いをしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に開設された国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、国内2ヶ所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対するコンサルティングなどを行うほか、毎年中東日本語教育セミナーを開催し、中東の日本語教師のネットワーク構築及び相互交流の活性化にも努めている。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金カイロ日本文化センター
The Japan Foundation Cairo Office
ハ.所在地 5F Cairo Center Bldg., 2 Abdel Kader Hamza St., Garden City, Cairo, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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