世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カイロ便り

アインシャムス大学
松島幸男、森田衛

 エジプトに来てほぼ一年になりました。最初のカイロの印象は、砂漠の国なのに思ったより緑が多いということでした。ナイル川からの水によって緑が豊かなのですね。生活に使う水道も断水などはなく、水道代もただのように安いのに驚きました。季節は春、秋と呼べるような季節がほとんどなく、夏から一気に冬、冬から一気に夏、といった感じです。2週間前は暖房をつけていたのに、今日は暑いので半そでを着るということが実際ありました。

 生活はたいていのものは揃うので問題ありませんが、最近は物価の値上がりが激しく、あっという間に1.2倍、1.5倍と値段が上がっています。貧富の差が大きくて中間層が少ない、また物価の値上がりに対して給料がほとんど上がらないので、生活状況は厳しくなっているのが現状です。経済状態は決して良いとはいえませんが、しかし町で出会う人びとの人懐こい笑顔はとてもいい印象を与えます。顔を見たらまず挨拶をするというのが基本で、逆に言うと挨拶をしないととても失礼という印象をもたれてしまいます。

 エジプト人は人懐こい、物怖じしない、明るい、世話好き、感情が高ぶるとすぐ泣く、喧嘩っ早い、時間に遅れ気味・・・一年で得た印象はだいたいこんなものでしょうか。

4年生たちの写真
4年生たち

卒業生たちの写真
卒業生たち

 大学の学生からも同じような印象を受けます。しかし基本的には礼儀正しく、とても真面目です。それに「暗記」能力の高さには驚かされます。小さい頃からそのような教育をされてきているらしく、試験のときなどテキストの範囲を指定するとほぼすべてを暗記してきますが、範囲を指定せず、どこから出すか分からないとか、応用力を見るとか告げると学生はパニック状態になってしまいます。

 受身的な学習ということですが、悪い面ばかりでもありません。アインシャムス大学に集まる学生たちは大変優秀な学生が多く、特に外国語学部はエジプト国内でも有数の難関学部で、その中でも日本語学科に入るにはかなりの好成績でないと入れません。従って驚くほど優秀な学生が集まっています。

 語学教育では「暗記」というのは重要な要素ですので、覚えた言葉を積極的に使っていくことで運用能力が高くなりますから、その点でアインシャムス大学の学生は短期間の間に日本語がかなり上達します。漢字も4年間で1700字前後と常用漢字数に近い漢字数を習います。宿題も多いですが、学生はきちんとやってきます。しかしまあこれは一般的な話ということで、やはり学生にも大変真面目なのから、やや真面目、やや怠惰、ずっと欠席などいろいろです。

 そしてエジプト人の面目躍如の面が試験のときに出ます。試験のときに予想とはずれた問題が出たりすると試験が終わってすぐに教師のところにやってきて、自分は勉強したけれどこんな問題が出るとは予想しなかった、もし成績が悪くてもそれは私の本当の実力ではない、と泣きながら訴える光景が見られます。教師はそのたびに諭したり、慰めたり、時には叱ったりしなければなりません。(私の前任地イランでも学生は感情が高ぶるとよく泣きました。中東の人は涙腺が弱いのでしょうか。)

 アインシャムス大学日本語学科の教師は常勤講師が全員日本人という大変珍しい学科です。他の機関、他の国の大学でも教師が全員日本人というのはほとんどないのではないでしょうか。その点で学生にとっては恵まれた環境だと思います。現地化ということも将来的には必要なことですが、2004年に大学院修士課程が設立されましたが、まだ修士論文を出している学生が存在せず、現地人の教師が生まれるまでもうしばらく時間がかかると思われます。いずれアインシャムス大学の卒業生から優秀な教師が生まれるのを楽しみに、またそれを励みにして日本人教師たちは今日も仕事をしています。エジプトにいらっしゃったら、どうぞアインシャムス大学に遊びに来てください。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
アインシャムス大学外国語学部内に、カイロ大学に次いで2000年に設立された日本語専攻課程である。2004年には日本語・日本文学専攻の大学院も設立された。今後はカイロ大学とともにエジプトの日本語教育の中心となることが期待されている。日本語教育専門家は、学科運営、カリキュラム作成やスタッフへの指導、助言などを行っている。
ロ.派遣先機関名称 国立アインシャムス大学
Ain Shams University
ハ.所在地 Abbaseiya, Cario, Arab Republic of Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
アインシャムス大学外国語学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2000年
(ロ)コース種別
専攻科目
(ハ)現地教授スタッフ
常勤5名(邦人5名)非常勤2名(邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生25名、2年生21名、3年生20名、4年生20名
(2) 学習の主な動機 日本に関する興味、留学、日系企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 大学院、企業、教育機関など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 3年次に2~5名程度

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