世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語によるコミュニケーションをめざして


エジプト・カイロ大学
竹山直子

教員室の窓から見たナセル講堂と時計台の写真
教員室の窓から見たナセル講堂と時計台

 敷地の中央に堂々とそびえるナセル講堂、すっくと伸びたやしの木、色とりどりのスカーフをかぶっておしゃべりに花を咲かせる学生たち‥教員室からカイロ大学を眺め続けて二年近くがたちました。任期終了を間近に控えて今、ここを離れ難い思いでいっぱいです。

 主に担当してきた一・二年生の授業はチームティーチングがすっかり定着し、数名のスタッフで一緒に初級の授業を進めるノウハウも固まってきました。私の赴任とともにあいうえおから一緒に勉強を始めた2年生の学生達も、いまや800近い漢字を読みこなし書きこなし、日常会話レベルであればじゅうぶんに日本人とコミュニケーションが取れ、場面や相手に合わせて話し方のスタイルを変えることもできるようになってきました。

 外国語学部ではなく文学部という性格上、三年生になると日本語の授業よりは文学や歴史、思想などの勉強が中心になります。当学科には日本で博士号を取得した立派な先生方がそろっていて、歴史や思想について私も圧倒されるような知識を披露してくれる学生もおり、それは素晴らしいことなのですが、上級学年では大学で文法や漢字を勉強する授業がほとんどなくなってしまいます。そこで、とにかく自学自習ということをしつこく言い続け、「教えられなくても自分で勉強する」姿勢を常に支援してきたつもりです。与えられるものを丸暗記する学習方法に慣れてきた学生たちも、自分で辞書をひいたりインターネットで調べ物をしたり、また日本の音楽やアニメやドラマをあの手この手で入手するなど、各自積極的に自主学習に取り組んでいるようで、たのもしい限りです。

日本人学校のJAPANDAYで折り紙を体験の写真
日本人学校のJAPAN DAYで折り紙を体験

 学生たちの目下の悩みは、せっかく勉強して日本語を身につけても、実践する機会が少ないこと。学生たちは常に日本人との交流を望んでおり、日本人学校が運動会や文化祭に招いてくださったり、在エジプト日本大使館がお茶会などの文化行事に招待してくださったりするのをとても楽しみにしていて、毎回希望者が殺到して人数調整が大変なほどです。交換留学生をはじめ、アラビア語を勉強しに来ている留学生やJICAの青年海外協力隊など、カイロには学生たちと年齢の近い日本人もいて、交流の機会には恵まれているほうだと思うのですが、それでもまだまだ生のコミュニケーションの機会が少ないと感じているようです。

 今のところ、三年生のとき交換留学で日本へ行くのが、現代の日本語や日本文化に触れる一番の機会となっていて、やはり留学した学生は日本語も上達し、日本文化に対する理解を深め、友人をたくさん作って帰ってきますので、後輩たちの憧れの対象ともなっています。そんなこともあってほとんど全員が留学を希望しているのですが、残念ながら奨学金を受給するのが年々難しくなっていて、留学の機会も限られてきているのが現状です。

 でも今年、ちょっとした出来事がありました。惜しいところで交換留学のチャンスを逃した4年生の学生が、その後エジプトでものすごくがんばって日本語を身につけ、12月の日本語能力試験では、惜しくも1級合格はならなかったものの、学年で一番の成績を修めたのです。彼女は自分で工夫して常に日本のドラマや歌を楽しみ、日本企業でのアルバイトなども積極的に行い、エジプトにいても日本人の友人を作って交流を深めているようです。留学せずエジプトにいてもこれだけの成果が挙げられるのだということは、後輩たちにとっても大きな励みになりそうです

 エジプトではまだインターネットやメールの使用も一般的とは言いにくいのですが、日本語のサイトを通じて友人を作ったという学生もちらほら出てきています。そこで今年は、メールでの課題提出を義務付けたり、折に触れ役に立ちそうなウェブサイトを紹介したりと、意識的にインターネットの利用を勧めてきました。今後も、日本人と直接交流する機会を提供するだけでなく、さまざまな方法で、学生たちが日本語を使って広い世界とコミュニケーションを図っていけるよう、応援していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カイロ大学日本語日本文学科は2004年度に学科創立30周年を迎えた。博士号取得者10名を含む現地教員を中心に運営されており、中東・アフリカ地域の日本語教育・日本研究の拠点としての役割を担っている。ジュニア専門家は日本語の授業を担当、カリキュラムや教材などに関して現地教員への支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 カイロ大学
Cairo University
ハ.所在地 Giza Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カイロ大学文学部日本語日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1974年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1974年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤18名(うち邦人1名、日本滞在中4名) 非常勤1名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年20名程度
(2) 学習の主な動機 日本・日本語・日本文化に対する興味、観光業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 修士予備課程進学、観光業への就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 数名程度

ページトップへ戻る