世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 学習者の熱い思いを受け止めて ~中東の学習者とそれを支える教師たち~

国際交流基金カイロ日本文化センター
山科健吉

 一口に「中東」といっても日本語教育を取り巻く環境は地域によって実に様々です。エジプトやトルコのように比較的広く日本語教育が実施されている国もあれば、北アフリカ諸国や湾岸諸国のように日本語教師が数名程度といった地域も少なくありません。学習者のニーズも多様で、就職や留学のために集中的に日本語を勉強している人もいれば、生涯学習の一つとして日本語学習を楽しんでいる人たちもいます。もうすぐ任期満了を迎える筆者にとって最後の報告となる本稿では、中東各地の日本語教育の様子をダイジェストでご報告したいと思います。

 筆者は赴任して2 年半のあいだに中東の8つの国を訪問しました。最初に訪れたのはアフリカ大陸最北端に位置するチュニジアでした。アフリカという言葉からは「酷暑」「砂漠」などのイメージが想起されがちですが、地中海からの海風が涼しくオリーブ畑が一面に広がる大地はこの国が豊かな農業国であることを物語っていました。日本語教育の歴史は古く、1977年にチュニス・アル・マナール大学に日本語講座が開講されたのに遡ります。現在では同大学をはじめ、3つの高等教育機関で日本語教育が実施されています。この国の日本語教育で特筆すべきは、元日本国費留学生会がとても元気がいいこと。毎年、日本国内の大学と連携してチュニジアで学術研究セミナーを行うほか、在留邦人を巻き込んで日本語弁論大会や文化祭など日本関連のイベントも精力的に実施しています。

サラちゃんの写真
カタール・アルバヤーン女子学校
「わたしの名前はサラです。」

 その次に訪問したのはアラブ首長国連邦、カタール、バーレーンの3 か国。どれも国土の狭い国で、バーレーンに至っては日本の奄美大島ほどの面積。ここでも日本へ熱い眼差しを向ける学習者とそれに応えようと頑張っている日本語教師たちがいました。アラブ首長国連邦では駐在員やその配偶者の方たちが中心となってボランティアで日本語教室を開いていました。カタールでは新たに教育省語学教育センターとアル・バヤーン女子小中学校で日本語教育が始まりました。特に初等教育への日本語教育導入は中東では例がなく、新たな試みとして期待されています。バーレーンでは日系企業がスポンサーとなって、社会人向けの夜間コースが開講されていました。たった一人の日本語教師がバーレーン大学の日本語講座(昼間)と一般講座(夜間)を切り盛りしています。

 ヨルダン。日本語教育は1993 年にヨルダン大学に青年海外協力隊が派遣されたことによって始まりました。以来15人の隊員が派遣され、同大学の日本語講座を維持・発展させてきました。ヨルダンをはじめ中東の多くの大学では、教壇に立つために修士や博士の学位を条件とするところが多く、そのため、国内に日本語関連の大学院を持たない地域では、日本語教師の養成は容易ではありません。長らく日本側の支援と協力によって存続してきたヨルダン大学の日本語講座ですが、2008年に同講座出身者が国際交流基金「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」で渡日して修士号を取得するに至り、同国の日本語教育は転換期を迎えようとしています。

寿司パーティーの様子の写真
カイロ日本文化センター日本語講座
「試験が終わって、寿司パーティー」

 最後にエジプト。中東で日本語教育の歴史が最も古く、現在3 つの大学に日本語専攻課程が開設されているほか、10機関で第2外国語や選択科目、あるいは社会人対象の一般講座として日本語教育が実施されています。国際交流基金カイロ日本文化センターも大学生や一般社会人を対象とした日本語講座を開講しており、200名を越える学習者が日本語を学んでいます。エジプトの学習者の特徴は、何と言っても「テスト好き」。学生の頃から試験嫌いだった筆者などは、テストは少なければ少ないほどうれしいと思ってしまうのですが、目を輝かせてテストに取り組む彼らの嬉々とした表情に「まあ、いいか」と納得。もちろん、テストが終わった後には、写真のようなご褒美も・・・

 今回、紙面の都合でご紹介できませんでしたが、このほかイエメン、イスラエル、イラン、オマーン、クウェート、サウジアラビア、シリア、トルコ、モロッコ、レバノンなどでも日本語教育が実施されています。国際交流基金が2006 年に行った調査では、中東・アフリカ地域の日本語学習者数は約9000人で、世界全体の学習者300万人のうちのわずか0.3%にすぎません。一方で、近年インターネットの普及などによって日本語や日本文化に興味を持つ学習者が増えてきており、今後、中東の日本語教育もゆっくりしたスピードで拡大と多様化に向かっていくことでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、国内2か所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対する情報提供やコンサルティングなどを行う。また、セミナー等を開催し、日本語教師のスキルアップを図るとともに、地域連携の強化、相互交流の活性化にも努めている。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金カイロ日本文化センター
The Japan Foundation, Cairo
ハ.所在地 5F Cairo Center Bldg., 2 Abdel Kader Hamza St., Garden City, Cairo, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語教育専門家派遣開始年 1998年

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