世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 新しい力と伝統、そして学生は -数年先の日本とエジプトのために


カイロ大学
櫻井勇介

ある日の学生とのやり取りです。

ある学生「先生、最近、生活はどうですか。」
私「ええ、だいぶ落ち着いてきましたよ。でも最近は寒くて嫌ですね。」
ある学生「でも、今年は去年より暖かいですよ。」
私「へー、そうなんですか。週末デパートにコートを買いに行こうと思っているんですよ。…」

 このやり取りを読んで、エジプトを思い浮かべる人がどれだけいるでしょうか。ここエジプトにも冬があり、寒いときは10度くらいまで気温が下がります。1月のカイロでは分厚いジャケットを着込み、スカーフをぐるぐる巻きにした人を見かけるようになります。地域によっては0度近くまで下がるところもあるそうです。

新しい力と伝統

カイロ大学100周年の写真
2008年末に
カイロ大学100周年記念行事が行われた

 このように多くの日本の人にとって、知っているようで、あまり馴染みのないここエジプトでも、日々一生懸命日本語、日本文化を学ぶ学生、日本文学、歴史等について語るエジプト人教員がいます。その一機関であるカイロ大学は30年以上、中東地域における日本語・日本研究の先駆、中枢機関としての教育を実践してきました。博士号を取得した教員を10名以上も擁し、これだけ教員が充実した日本研究・教育機関が世界にどれだけあるでしょうか。

 そのカイロ大学において、ジュニア専門家(以下、専門家)が主に期待されているのは基礎日本語教育の運営、調整です。3、4年生から始まる日本研究関連の授業を見据え、学生の基礎力を確かなものとし、運用力を伸ばせるように調整するのが専門家としての腕の見せ所です。とはいっても、専門家が全ての日本語教育業務を行うわけではありません。日本語日本文学科には、先述の教員に加え、博士号、また修士号をまだ取得してはいないものの熱意のあるスタッフ、助手も在籍しています。彼らと授業計画や教材の作成、小テストの採点などを分担したり、専門家の授業にアシスタントとして参加してもらったりしながら、日本語教育を行っています。彼らの協力なくして今年度の日本語教育は成しえなかったと言っても過言ではありません。このような若手教員の育成・教育活動への参加を促進することも専門家の任務の1つです。

そして学生は

床から天井まで所狭しと日本文学作品が並ぶ様子の写真
床から天井まで所狭しと日本文学作品が並ぶ

 学生はというと、各学年20名前後の小クラスで、週17時間以上も日本関連の授業を受講しています。1、2年生の授業では毎日次から次へと導入される文法項目や漢字と格闘しながらも、2年生の半ばには日本人と楽しそうに会話を続けられる学生や、授業で新聞記事を使うと「もっとください」言ってくる熱心な学生も出てきます。また、3、4年生の授業の後に教室に入ると、「縄文時代」や「言文一致」などと板書された白板を見かけることもあり、一体どんな授業が行われたのか、非常に気になります。

数年先の日本とエジプトのために

 こんなカイロ大学ですが、全く問題がないわけではありません。しかし、そういった問題点は専門家ただ一人が奮闘したところで一朝一夕に解決できる問題ではありません。教員、スタッフが一丸となって問題を認識し共有できる風土が醸成されてこそ、よりよい教育、研究体制が構築されるものだと認識しています。また、4年間日本語日本文化を勉強するための動機を維持し続けることは、普段日本をあまり身近に感じることが難しいエジプトの学生にとっては容易なことではありません。

 日本の多くの人にとって、エジプトといえば、灼熱の国、砂漠、ピラミッド、ナイル川と答えるように、エジプトの多くの人にとっても、日本といえば、ハイテク、都会的、新幹線といったステレオタイプが存在します。両国の表面的な理解を超えて、相互理解を促進しうる人材がカイロ大学でまさに学んでいる学生なのです。彼らが日本の様々な面について理解を深め、将来そのような人材として貢献してくれることを期待しつつ、また翌日の授業準備をする毎日を送っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カイロ大学文学部日本語日本文学科は2004年度に学科創立30周年を迎えた。博士号取得者11名を含む現地教員を中心に運営されており、中東・アフリカ地域の日本語教育・日本研究の拠点としての役割を担っている。ジュニア専門家は日本語の授業を担当、調整、カリキュラムや教材などに関して現地教員への支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 カイロ大学
Cairo University
ハ.所在地 Giza, Egypt
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カイロ大学文学部日本語日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1974年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1974年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤21名(うち邦人1名、日本滞在中2名、休職中3名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年20名程度
(2) 学習の主な動機 日本・日本語・日本文化に対する興味、観光業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 一般企業、観光業への就職、修士予備課程進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級受験可能程度
(5) 日本への留学人数 年5名前後

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