世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 生まれ変わったエジプトから

国際交流基金カイロ日本文化センター
村上吉文 佐藤五郎

日本への応援メッセージの写真
掲示板は日本への応援メッセージでいっぱいです

 皆さまもご存じのとおり、エジプトでは若者たちを中心に民衆が立ち上がり、30年続いた独裁を倒して新しい国づくりへの第一歩を踏み出したところです。二つの国の距離は遠く離れていますが、新しい国の形を考えなければならないという意味で実は非常に共通する環境にあり、震災で被災した日本に対してもさまざまな応援メッセージが当センターに寄せられています。

 さて、国際交流基金カイロ日本文化センター(以下、JFカイロ)は、初代以来、日本語専門家1名体制が続いてきましたが、2010年9月より上級日本語専門家(以下、上級専門家)1名、日本語専門家(以下、専門家)1名の2名体制となりました。現在は、上級専門家は主に中東地域全体の支援、専門家はエジプト国内の支援およびJFカイロ日本語講座の運営を担当しています。以下に、それぞれの仕事ぶりをご報告いたします。

1.上級専門家

 9月に着任した上級専門家は主に中東地域における日本語教育関係者のネットワーク形成を担当しています。しかし、ご存じのとおり、中東と一言で言っても非常に広大な地域になりますので、「仕事帰りにちょっと打ち合わせでも」、というわけには行きません。ただ、最近はインターネットを使えばかなりのコミュニケーションは取れるようになってきていますので、積極的にいろいろなオンラインイベントなどを仕掛けています。

 たとえば、毎年中東の各地で行われている日本語弁論大会。みなさんはこうした中東の国々で日本語を勉強している人たちの生の声を聞いたことがありますか? 日本ではこれまで中東のように離れた国々で日本語が学ばれているということに気づいてすらもらえない場合も少なくありませんでしたが、中東の国同士でも隣の国の学習者が弁論大会でどんな発表をしているかを聞く機会も実はあまりなかったのです。ところが、昨年秋から中東各地で日本語弁論大会が相次いで世界にライブ中継されるようになり、たとえばトルコのアンカラ大会では千人を超える視聴者にライブで見ていただき、近隣の中東諸国はもちろん、ヨーロッパやアメリカ、日本など少なくとも全世界12カ国からもコメントが寄せられたのです。この大会の中継では、それまでその存在すら把握していなかった「カタール日本語教師会」からもコメントが届き、当センターの主催するメーリングリストなどにも加入していただくことができました。

 その後、中東の地域ではヨルダンやモロッコなどでも日本語弁論大会がUstreamで中継され、着実に実績を積んでいます。これらの大会はもちろん現地の教師会などが主催するのですが、ネットワーク形成に有効であるという判断から、ライブ中継の部分は三大会ともカイロ日本文化センターの上級専門家が担当しました。

2.専門家

 専門家の第一の任務は、「エジプト国内の日本語教師・学習者の支援」です。実際は先生方と関わることが多く、学習者に対しては間接的に支援していると言えます。支援の一つとしては、昨年度に引き続き現職教師向けブラッシュアップ講座を定期的に実施しています。講座には新人からベテランまで様々な顔ぶれが揃い、皆さんの意欲・向学心にはこちらも大いに刺激を受けます。

 第二の任務は「JFカイロ主催日本語講座の整備・拡充」です。2011年5月現在、カイロとアレキサンドリアを合わせて、300名弱の学習者がおり、一般向け日本語講座としては国内最大です。しかし、潜在的な学習希望者はさらにいると考えられるため、新たな学習者層を開拓すべく、小学児童を対象とした夏休み限定コース「キッズ・ジャパニーズ」や、アニメ好きを狙った、その名も「アニメで学ぶ日本語」など、新メニューも企画・実施中です。

日本語教師養成講座実習風景の写真
日本語教師養成講座実習風景

 ただ、講座の拡充を行う際、必ずぶつかるのが「教師不足」という壁です。そこで、2010年度後期の取り組みとして、数年ぶりに日本語教師養成講座を実施しました。日本人1名を含む8名が受講し、切磋琢磨しながら理論編、実践編・・・と進んできました。授業は、専門家と上級専門家が担当し、さらに、カイロ大学の先生にも出張講義の形でご協力いただきました。受講生の多くは、アインシャムス大学の日本語専攻学生および卒業生たちで、はじめの頃は大学の授業の延長といった気分が抜けませんでしたが、前半の理論編から後半の実践編(教育実習など)へと進むにつれ、顔つきがぐっと引き締まり、教師のそれに変わってきました。専門家と上級専門家は、そんな受講生たちを、時に励まし時に叱り、一人前の教師として育ててきました。

 この中から、将来エジプトの日本語教育を背負って立つ人が現れるかもしれません。そのときようやく、私たちの任務は完了するのでしょう。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Cairo Office
派遣先機関の位置付け 国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、国内2か所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対する情報提供やコンサルティングなどを行う。また、セミナー等を開催し、日本語教師のスキルアップを図るとともに、地域連携の強化、相互交流の活性化にも努めている。
所在地 5F Cairo Center Bldg.
106 Kasr Al-Aini St., Garden City, Cairo, Egypt
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年

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