世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)カイロで行っている日本語教師養成講座

国際交流基金 カイロ日本文化センター
飯尾幸司

みなさん、こんにちは。2017年1月より、カイロ日本文化センターで仕事をさせていただいている日本語教育アドバイザーの飯尾幸司と申します。

今回は、カイロ日本文化センターが行っている日本語教師養成講座について簡単にお話ししたいと思います。

エジプトでは長年、カイロ大学とアインシャムス大学が高いレベルの日本語力を有する卒業生を輩出していますが、どちらも日本語教育が専門ではないため、この講座がエジプトにおいての事実上唯一の日本語教師養成機関となっています。

カイロ日本文化センターは2001年度に日本語教師養成講座を開講し、途中で中断した時期もありましたが、これまでに100名以上の修了者を輩出してきました。開講当初は日本人受講者が圧倒的に多かったようですが、現在はエジプト人が中心となっており、長年の実績と評判のおかげで、前年度は10名の定員をはるかに上回る21名の応募があるといった人気講座となっています。受講者の内訳は、カイロ大学やアインシャムス大学ですでに教鞭をとる現職教師や今後教える予定のある助手、そして、全く教授経験がない日本語学科を卒業したばかりの人や一般日本人など多様です。現在の講座は2部構成で、3か月ほど理論を学んだ後に、クラスを二つに分け、それぞれ2か月弱の教育実習を行っています。

修了後の進路については、以前まではカイロ日本文化センターが行っている日本語講座が主たるものだったのですが、エジプト日本教育パートナーシップ (EJEP)の発表後のエジプト国内の大学における日本語学科新設ラッシュの流れを受け、日本語学科を新設した大学で教える修了生も増えています。また、エジプト国内に限らず、サウジアラビアやカタールやUAEなど、日本語教師不足に悩む中東各国にエジプト人教師が日本語を教えに行くというケースも今後更に増えることが予想されます。しばらくはこの流れが続くと思われるため、講座の更なる充実のために尽力したいと考えています。

また、それと同時に、カイロに毎週通うことができない、アレキサンドリアやアスワンなどのエジプトの地方都市に住んでいる日本語教師、そして、中東・北アフリカ各国で活躍する日本語教師のために、この講座を何とかオンライン化するべく現在準備を進めています。特にイラクやシリアやイエメンなど、戦火の中でも日本語教育の火を絶やさなかった日本語教師たちのために、自分の教授法をブラッシュアップする機会を何とか提供したいと思っています。

この講座の目標は、「自分が受けてきた授業、自分が使っていた教科書、自分がやってきた授業からの脱却」です。自分が受けてきた授業や自分が使った教科書が悪いわけではないと思いますが、新しい考え方や教え方に触れ、自分のビリーフスを疑い、新たなビリーフスを再構築していってもらいたいと思っています。それができれば、自分の目指すべき方向性が明確になって、自信を持って授業が行えるようになり、これまで以上に日本語教師になってよかったと感じることができると私は信じています。

日本語教師養成講座の写真
授業の様子

最後に、この講座終了後に提出された、ある受講生の講座体験記の一部を紹介して、今回の報告を終えたいと思います。この体験記録は私が要請したものではなく、受講者が自主的に自分のポートフォリオに挿入したものです。この受講者はまだ日本語を教えたことがないのですが、ここまで具体的に自分が理想とする教師像を思い浮かべられるようになったことに大きな喜びを感じると同時に、エジプトに来てよかったと心から思いました。この受講者だけではなく、講座終了後に提出されたポートフォリオは、私の想定をはるかに超える素晴らしいものが多数あり、受講者の成長を実感することができました。これを励みに、中東・北アフリカの日本語教育の発展のために、これからも自分にできることを一つずつやっていきたいと思っています。

講座体験記の一部(下線部のみ修正し、後は原文のまま)
「前に、私は厳しい教師になるだろうと思っていた。今、私が学習者と学び合い、一緒に授業を楽しみながら、日本語と日本文化の美しさが実感でき、学習者に影響を与えながら、学習者から影響を受け、学習者を笑顔にでき、失敗を恐れず成長していき、前に進める教師になりたい。学習者が楽しんで、終わってほしくなくなるぐらいの授業をしたい。教師も学習者も毎回新しいことを学べる授業が理想とする授業である。 このような教師になるために、このような授業ができるようになるために、これからも努力していきたい。」

酒見専門家の送別会の写真
酒見専門家の送別会

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Cairo Office
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、国内2か所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対する情報提供やコンサルティングなどを行う。また、セミナー等を開催し、日本語教師のスキルアップを図るとともに、地域連携の強化、相互交流の活性化にも努めている。
所在地 5F Cairo Center Bldg.106 Kasr Al-Aini St.,Garden City, Cairo, Egypt
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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