世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「カリキュラムの模索」

テヘラン大学
矢田 侑三

地方にも盛んな日本語教育

教室での写真
教室で

 イランにおいて日本語教育が本格的に開始されたのは、当テヘラン大学日本語・日本文学科が設立された1994年である。それから現在までようやく8年が経過したが、まだまだカリキュラム、シラバスなどの教務分野、教える側である教師陣などの体制整備が不十分な状態である。カリキュラムの面から見てみると、当初のカリキュラムは4年間で105単位(授業時間数でみると約1,100時間)を習得するものであり、1、2学年を基礎的な日本語の習得、3、4学年を文学などの専門分野の学習というように区分されていた。注1しかし、1,2学年時の合計授業時間数が約500時間しかなく、この2年間の基礎的な日本語学習では3,4学年の専門科目を受講するだけの十分な日本語運用能力はとうてい習得できず、専門科目が名ばかりのものとなり、3,4学年でも授業を中級レベルの日本語習得に当てざるを得ない状況であった。

 そこで、5年が経過した1999年より、3,4学年で専門科目の授業が実施できるよう、1,2学年の期間により密度の濃い日本語教育が実施でるようにと、カリキュラムの改定が行われた。注2この改定の特徴は、4年間の大学教育期間の前に、半年の予科を設けたことである。この趣旨は、1学年が始まる前に予科(半年の1学期で授業時間数は約180時間)を設置し、基礎日本語だけの授業を集中的に行い、初級レベルの日本語教育により多くの時間を割り当て、基礎学力をしっかりとつけさせて、それから中級、上級レベルへと進めていこうというものである。従い、改定カリキュラムでは4年間の大学教育を4年半とし、単位数も従来の105単位から120単位へと(授業時間数でみると約1,100時間から約1,250時間となった)大きく増加した。これにより1、2学年を初中級のレベルだと考えると、従来は2年間で48単位、約500時間の授業時間が、2年半で64単位、約665時間を基礎的な日本語学習に当てることができるようになった。

 しかし、この改定カリキュラムにも一つ大きな欠陥があった。それは、予科コースでは、半期18単位、約185時間の授業時間があるのに対して、1年前期では10単位、約105時間、後期でも同じく10単位、約105時間と極端に授業時間数が減少することである。これでは均等な初中級レベルの教育が行われないという不満が教師、学生の間から起こり、2002年後期より自主的にコマ数を増やすことになった。注3 特に、1年前・後期、2年の前期といった初中級レベルの学習期の授業時間数を増やした。勿論、正式なカリキュラムの改定ということで制度化すれば一番いいのだが、カリキュラムを改定してまだ3年と日が浅く、度重なる改定はよろしくないとの大学側からの指導で、とりあえずは実質的に授業数を増やすという方法で授業を行い、しかるべき年数がたった後に、制度化をしようという妥協がなされた。

 このように、日本語教育のより充実した成果があげられるようこの8年の間に2回、カリキュラムの変更が行われ、当地の実情にあったより効果的なカリキュラムが模索されているところである。現行のカリキュラムも実施して1学期(半年)が過ぎたばかりで、その効果のほどがまだ実証されていない。勿論、授業時間数のみを増やせばよいというわけではない。教える側の指導水準が高くなれば、やみくもに授業時間を増やしても、効果はあがらないだろう。授業時間数に関しては現状では、既に他の国の日本語教育と同じようなレベルに達しているのではないかと思う。今後は、教師の指導能力の向上が必要とされるところだ。これには国際交流基金で行われている諸プログラムへの参加、当地においての教師研修の機会をより多く設ける等を通じて、問題解決を図っていきたい。世界で広く行われている日本語教育の平均的な水準に照らし合わせても、イランの日本語教育が遜色がないという水準に高めるため、これからもカリキュラム・シラバスの充実と教師陣の指導能力の向上を計ることにより、より充実した内容の日本語教育が実施できるよう努力をしていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 テヘラン大学では、1989年に同大学外国語学部内に必修選択第二外国語科目として日本語コースが開設された。1994年には日本語・日本文学科が設立され現在に至っている。同大学はイランにおける中心的な存在で、本格的な日本語教育機関として唯一の存在である。他にはテヘラン大学公開講座において一般社会人を対象に日本語講座が開かれているが、ここでは初級の授業のみである。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 テヘラン大学
University of Teheran
ハ.所在地 Djalal-e Al-e Ahmad Ave.,Tehran, Iran
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.テヘラン大学外国語学部日本語・日本文学科 言語芸術学部 外国語学科 日本語プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   必修選択:1989年 専攻:1994年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 15名(邦人はいない)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年:168、2年:92、3・4年:約100、
5年~:36
(2) 学習の主な動機 「日本語教師」「翻訳者や通訳」
「日系企業」
(3) 卒業後の主な進路 母校UNIMAの教員、地域内の高校教師、日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
できる学生で能力試験の3級に合格するかしないか
(5) 日本への留学人数

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