世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 放送局で活躍する卒業生

テヘラン大学
矢田 侑三

番組制作をする卒業生の写真
番組制作をする卒業生

 「この放送は、IRIBイラン・イスラム共和国国際放送ラジオ日本語です。」テヘランの町に、毎朝10時半になるとラジオから美しい日本語が流れてくる。これはイラン・イスラム共和国国営ラジオ・テレビ局(IRIB)の日本語放送だ。IRIBでは、現在32ヶ国語の放送を世界に流している。日本語放送は3年前に始まった。日本でも毎日22時から30分間、周波数15555KHzと17810KHzで聞くことができる。放送の冒頭には、この国らしく国歌の演奏とコーランの詠唱があり、その後にニュースとイランのいろいろな方面の紹介が行われる。

 日本語放送が始まって3年がたった現在、この日本語放送で3名のテヘラン大学日本語・日本文学科(以後日本学科と略す)の先生と3名の卒業生が働いている。イランでは日本学科の歴史も浅く、卒業生が日本語を生かせる職場につくのはとても難しい状況にある中、IRIBは日本語能力を生かせる数少ない職場の一つである。今回はここIRIBで働く卒業生の活躍、仕事振りを紹介することによって、イランでの日本語教育の成果の一部を皆様方に知っていただきたい。

 まず最初はジャラリアン氏(48才)。彼は日本学科の2期生で1999年に卒業。日本学科に入る前に既にIRIBの職員で、仕事を兼ねながらの日本学科を卒業したと言う大変な努力家である。そして卒業後、その実績を認められて日本語放送のチーフに昇格し、今は日本語放送のマネイジメントをやっている。
 次はジャデイデイ氏(37才)。彼は3期目の卒業生。彼がここで働き出してもう1年半になる。現在はペルシャ語の原稿を日本語に翻訳する仕事をしている。彼が書いた日本語がアナウンサーによって読み上げられるという重要な仕事を担当している。
 最後はガラガニ氏(27才)。彼は一期生であるが、IRIBに勤めたのは半年前。彼は卒業後、別の仕事についていたがIRIBの入社試験を受け、入社。主に日本語番組の制作を担当している。でも、時にはペルシャ語の原稿を日本語に翻訳するという仕事も兼任している。

 卒業生と共に日本語放送を支えているのが、日本学科の3名の先生方である。そのほとんどが放送開始の準備段階から携わっており、なくてはならない存在である。美しい声で日本語を読み上げるだけでなく、卒業生などが翻訳した日本語の最終チェックという重要な仕事を任されている。

翻訳する卒業生の写真
翻訳する卒業生

 これからも日本語放送がもっと発展して、ラジオだけでなくテレビの分野にも進出し、より多様な放送が行われることを期待している。そのためには、より優秀な卒業生を送り出すことによって、IRIBの発展に果たす我々テヘラン大学日本学科の役割は重大だ。そこで、チーフであるジャラリアン氏に現在の日本学科の学生に対する辛口のコメントと将来どのような卒業生を期待するかという意見を聞いた。

「正直なところ卒業生の日本語レベルはまだまだ我々の満足のいくところではない。今のレベルでは、ここに入っても入社後2,3年の訓練期間が必要だ。大学は即戦力として働ける人材を育てて欲しい。日本語の読む、書く、話す、聞くという4技能の平均的なレベルアップはさることながら、こちらで一番必要とするのは、読んで書ける能力だ。また、言葉の知識だけでなく言葉の勉強を通じてその国の知識を増やして欲しい。言葉の勉強を通じて、新しい世界を切り開き、その社会のいろいろな活動を知って、新しい経験を持って欲しい。そのように言葉への興味と同時に、その社会への興味を持つ人、そのような前向きな姿勢を持った積極的な人材を必要としており、大学もそのような人材を多く育成して欲しい。我々も今はスタッフの人数が限られており、放送時間を現在の30分より長くしたいと思っても、スタッフ不足のためできないのが実情だ。我々の希望にかなう卒業生がいれば積極的に採用していきたいところだが、現在は残念ながらそれほど魅力的な学生には余りお目にかかれない。」

また、実際に翻訳の業務に携わっているジャデイデイ氏も、「ここでは書くことが仕事なので、書く力を持った人を必要としている。そのためには大学ではもっと書く授業を増やしてはいかがか。勿論、職場によっては書くことより話すことが重要視されるところもあろうが、IRIBではペルシャ語を日本語に翻訳しなければならないので、その力のある人が必要だ。また、語、文章をただ訳すると言うだけでなく、適切な日本語にしなければならない。そのためには日本のことをもっともっと勉強して知識を増やして欲しい。」

以上のように、我々日本学科に対する期待は大きい。またこの要望はIRIBだけに限ることではなくイランの社会における要望だと考えられる。我々日本学科の教師は、これらの社会の期待、要請に応えられるような卒業生を1名でも多く送り出すことが任務であろう。この任務を果たすために、教師の一員として、日々研鑽を重ねてより充実した授業を行わなければならないということを実感したインタビューであった。


派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
イラン・イスラム共和国内唯一の主専攻コースである。他に中・高等教育機関で日本語を教えているという情報はない。学生は全国各地から集まっており、かなり質の高い学生が多く見受けられる。しかし、専攻コース設立が1994年といまだ日も浅く、卒業生が日本語教育や日本研究の分野で活躍するようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。日本語教育専門家の主な業務は、日常の授業を担当することのほかに、他の先生方にたいして教授法の指導・研修、カリキュラムとシラバスの作成指導、日本での新しい教材・器機などに関する情報の提供、大使館や国際交流基金の行事や各種プログラムへの参加や申請などである。
ロ.派遣先機関名称 テヘラン大学
University of Teheran
ハ.所在地 Jalale Ale Ahmad Ave. Tehran
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.テヘラン大学外国語学部
日本語・日本文学科
言語芸術学部 外国語学科 日本語プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   必修選択:1989年
専攻:1995年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名) 非常勤5名(うち邦人3名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   4年生 23名、3年生 18名、2年生 20名、予科生 16名
(2) 学習の主な動機 新しい言語への挑戦。経済の発達した日本に興味
(3) 卒業後の主な進路 JICAの通訳、観光ガイド、イラン国営放送など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験 2級合格できるかできないかというレベル
(5) 日本への留学人数 毎年2名~3名

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