世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) おしん学生と「星空」

テヘラン大学外国語学部日本語・日本文学科
近藤正憲

 イランという国は日本人にとっては政治的なニュースばかりが目を引く国に違いない。しかし、実際にこの国に住んでみると、親切で人情味にあふれた、それでいてしたたかなイラン人の素顔に触れ、驚くことも、また感心させられることも多い。そしてどの人も皆実に人懐こい。バスの中や買い物中に見知らぬ人から話しかけられることもよくある。そしてその時によく話題になるのはドラマ「おしん」である。

 日本で制作され人気を博したこのドラマがイランで放送されたのはイラン・イラク戦争終結後の復興期だった。それから後も何度となく再放送されていたそうである。生活の困窮、戦争、家族や友人の死など様々な問題にあいながらも強く生き抜く頑張り屋の主人公の姿にイランの人たちは涙し、心を動かされたのではないかと思う。

 頑張り屋さんといえばテヘラン大学の学生の中にも頑張り屋さんが何人もいる。テヘラン大学の学生の多くはイラン・イラク戦争の末期に生まれた世代だ。物心がつくかつかないかのころ、親に手を引かれ、戦火を逃れて生まれた町を逃げたという学生もいる。日本人の観光客も日系企業も多くないイランでは、学習者と日本人との接点は本当に少ない。それにもかかわらず、日本語を勉強している友達同士日本語で話す時間をつくったり、自分たちだけの手で日本語(とペルシャ語)の新聞を作ったりして日本語を身につけようと努力している。

 テヘラン大学の日本語・日本文学科は設立されてから14年目である。1学年1グループで現在5つのグループがある。それぞれのグループは9学期の学習期間が必要で、その間に単位を修得し卒業する。学生の多くはまじめな学生である。しかし、残念ながら学生が日本に留学するチャンスも、日本に関係する仕事に就くチャンスも少ない。そのため多くの学生の興味が目先のテストでよい点を取ることに限定されてくる。結果、暗記に頼ってペーパーテストではいい点を取るものの、テストの後はすべて忘れてしまうとか、会話や作文能力にかなりの習熟度差が生じること等が問題になっている。より高い目標や知的好奇心を学生に持たせ続けることが現状の大きな課題である。

「星空(ほしぞら)」とその制作メンバーの学生たちの写真
「星空(ほしぞら)」とその制作メンバーの学生たち

テヘラン大学に配属された日本語教育専門家の業務は与えられた授業のほかに、教材、カリキュラム、シラバスの作成をするが、このほかにもこれまで日本語教師対象の研修会のほか、学生対象の日本語能力試験の模擬試験も実施した。他の教師から授業の仕方や教材の探し方、選び方、テストの作り方や評価の仕方などといった相談を受けることもあるし、学生から長期休業中の勉強の仕方や、国費留学の研究計画の作り方などの相談を受けることもある。相談を受ける中で自分自身にとっても勉強になることがある。人の役に立ちながら自分の勉強になるところがこの仕事のいいところだと思う。

 さて、学生の作っている新聞の名前は「星空(ほしぞら)」という。この名前はイランの人たちが夜を憩いの時間として大切にしていることから筆者が提案したものである。内容は身近な教師や学生のインタビューのほか、雑誌やインターネットから掲載記事を集めたもので、ペルシャ語と日本語で記事を書き、学内で配布している。創刊から日が浅いが、全部自分たちだけでやっているところがたくましい。戦後復興期に「おしん」を見て育った彼らの今後の活躍を見守りたいと思う。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
テヘラン大学外国語学部日本語・日本文学科は、イラン・イスラム共和国唯一の主専攻コース。学生は全国各地から集まっており、かなり質の高い学生が多く見受けられる。しかし、専攻コース設立が1994年と日も浅く、卒業生が日本語教育者や日本研究の分野で活躍するようになるには、今少し時間がかかるようである。日本教育専門家の主な業務は日常の授業を担当するほか、他の教師に対して教授法の指導、カリキュラム、シラバスの作成、日本での新しい教材、国際交流基金のプログラムなどに関する情報の提供、申請の補助等である。
ロ.派遣先機関名称 テヘラン大学
University of Teheran
ハ.所在地 North Kargar, between St. No.15 & 16. Tehran
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.テヘラン大学外国語学部
日本語・日本文学科
外国語学部 日本語・日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1989年より選択科目。1994年より正規の学科。
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち日本語教育専門家1名)、非常勤9名(うち邦人4名)。
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生17、2年生23、3年生22、4年生28。計93名
(2) 学習の主な動機 日本への興味 留学希望 日本企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 通訳 ガイド 放送局 一般企業など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級から3級の間
(5) 日本への留学人数 年1~3名程度

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