世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ケニア日本語教育紹介:ポレポレな国

ケニヤッタ大学
中込達哉

世界の国々の約4分の1が集まるアフリカ大陸。その東部に位置するケニア共和国は、人口約3,430万人の大国です。人口約220万を有する首都ナイロビには、高層ビルや大型スーパーもあり、携帯片手に闊歩するスーツ姿のケニア人たちや車で溢れかえっています。一般的な「アフリカ」のイメージを払拭するような「物質的な豊かさ」もここナイロビには存在します。一方、国民の約半数は、一日一ドル以下で生活をしているのも事実です。電気・ガス・水道のない生活をしている人たちも少なくありません。大自然と都会、豊かさと貧困などのコントラストもケニアを形作っています。

今回は、ケニアの日本語教育と私の仕事を簡単に御紹介します。

第一回目の授業挨拶の写真第一回目の授業 挨拶サファリ:象の親子の写真サファリ:象の親子

ケニアの高等教育機関では、国立ケニヤッタ大学、国立エガトン大学、私立ストラスモア大学、私立米国国際大学で選択科目として日本語が教えられています。私が派遣されているケニヤッタ大学は教員養成大学で、在学生の多くは、小中高の教員を目指しています。

公立のケニア・ウタリ・カレッジや民間専門学校では、ホテル・航空会社スタッフ、観光ガイドなどを目指す学生たちが、選択外国語として日本語を履修しています。観光ガイドを目指す学習者たちの口からは、「ビックファイブ(Big five)」(サファリで見ることができる大物:ゾウ、サイ、ライオン、バッファロー、ヒョウ)などの日本語も飛び出します。ケニア・ウタリ・カレッジとテッコ・ツアー&トラベル(日本語学校も運営)は、NHKの「エリンが挑戦!にほんごできます。」でも紹介されました。

日本語教員は、大学では日本人講師が多く、民間学校の教師は、ほぼ全員がノンネイティブのケニア人教師です。日本からの派遣は、国際交流基金からケニヤッタ大学に、そして国際協力機構(JICA)からエガトン大学にシニアボランティア、ケニア・ウタリ・カレッジに青年協力隊員が派遣されています。

ここケニアでの私の仕事は、大きく次の三分野に分かれます。

  1. (1)ケニヤッタ大学の日本語教育(例、「コースデザイン」「授業」等)
  2. (2)教師支援(例、「ケニア日本語教師会(JALTAK : Japanese Language Teachers Association-Kenya)支援」「授業視察アドバイス」「教師セミナー」「ストラスモア大学でのエクスターナルエクザミナー(外部試験官)」等)
  3. (3)大使館広報文化センターとの連携(例、「日本語教育支援ネットワーク作り」「JICAとの連携」「小学生への日本文化・日本語ワークショップ」、「国費留学生への派遣前研修」「日本語能力試験実施準備」「留学生・JET等の面接試験」等)

2006年12月、サブサハラでは初めて、 ケニアで日本語能力試験が開催されました。私は数カ国でこの試験実施に携わってきましたが、ケニアでの試験は思い出深いものとなりました

試験直前になり、予定していた大学の会場が、国立大学教職員の600%という無茶苦茶な給与賃上げ要求ストライキのため、急遽別会場に変更になりました。試験前日、大使館職員の方や教師たちと机を並べ、番号も貼り、準備万端です。試験当日早朝、カージャック(車強盗)に襲われないよう、日の出を待って、試験問題を車に積んで、いざ会場へ。会場を再チェックして、目が点になりました。二つの大きな部屋が机も番号もぐちゃぐちゃになっていました。さらに、ケニア人の試験監督が遅刻してきた上、二日酔い状態だったため、急遽私が監督を交代したり、申し込んでいない学生が何名も来たりと、ケニアならではの問題が次々と起きました。

「ケニアは何が起きても不思議ではありません。」と常々語るケニア歴十数年の大使館職員Fさん。試験当日、「受験生用筆記用具」「受験生情報ファイル」「停電用電池」に加え、「トイレットペーパー」も用意してきました。「ケニア人、緊張して鼻血だすかもしれませんから。」と語るFさんでしたが、幸い今回は、トイレットペーパーを使用することはありませんでした。

ケニアでは、この能力試験実施のように、なかなか物事がスムーズには進みません。しかしながら、ケニアで能力試験が実施されるようになったことで、能力試験に合格することが具体的な目標となり、教師たちも、学生たちも日本語学習にさらに熱が入ってきたようです。また、国際交流基金が実施する大学生日本語研修、成績優秀者研修への参加者を能力試験合格者の中から、選抜できるようになり、以前よりも日本語レベルや学習意欲も高く、しっかりとした人物が選抜できるようになりました。能力試験は、こうした人選にも役立っています。

ケニアの公用語、スワヒリ語に「ポレポレ」という言葉があります。「ゆっくり、のんびり」という意味で、「ケニアの生活はポレポレだからね。」と仕事の遅さを笑い流しながら、実によくケニア人はこの言葉を使います。ここケニアに合わせ、「ポレポレ」でもよいので、大使館広報文化センターの方々や、JALTAKの教師たちと協力し、少しずつ、一歩一歩、確実に、ケニアに根ざした日本語教育支援と推進策を具体化していきたいと思います。

仕事でも生活でも問題山積みのケニアですが、「問題点は課題となり、その課題をクリヤーすれば、一歩前進する」という当たり前のことを、再認識している今日この頃です。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国立ケニヤッタ大学は、ケニア唯一の教員養成のための国立大学である。その外国語学部が提供する選択外国語科目の一つとして日本語コースが存在する。他の言語(フランス語、ドイツ語はディグリーコースとして専門科目)日本語教育専門家に期待される業務は、コースデザイン、現地教師への指導、授業。(ケニヤッタ大学以外の業務多々あり)
ロ.派遣先機関名称 国立ケニヤッタ大学 外国語学部
Kenyatta University Foreign Languages Department
ハ.所在地 P.O.Box 43844 00100 Nairobi Kenya
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
国立ケニヤッタ大学 外国語学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2006年
(ロ)コース種別
選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(ケニア人講師)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   選択科目 35名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ・就職活動の際のアピール等・無償提供コースのため
(3) 卒業後の主な進路 小中高教職員、企業等(安定した就職は困難)
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
能力試験4級受験程度
(5) 日本への留学人数 1名基金大学生研修

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