世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) まずは点と点をつなぐことから

ケニヤッタ大学
髙橋知也

アフリカには54の国がありますが、現在、国際交流基金から日本語専門家(以下、専門家)が派遣されているのは、エジプトとケニアだけです。サハラ砂漠より南のサブサハラ地域ではケニアが唯一の専門家派遣先国となります。

ここケニアにおける専門家の業務は、受入機関である国立ケニヤッタ大学(以下、KU)における日本語講座支援にとどまらず、任国ケニアの日本語教育・日本語教師に対する支援、さらには東アフリカ地域全体の日本語教育ネットワークの形成促進にまで及ぶ幅広いものです。

KUの学生たち

ケニアの首都ナイロビの郊外、北東へ約20キロの地点にKUのメインキャンパスはあります。学生数7万人を誇る、ケニア有数の大学です。KUの日本語講座の土台となっているのが自由選択科目の入門日本語コースで、在籍する全学部の学生が無料で受講できることになっています。自由選択科目を終えた後の学生は、日本語の副専攻に進むことができます。

入門日本語のクラスには様々な学部から様々な学年の学生が集まります。授業は毎週3時間ですが、時間割が専門の授業と重なっていて履修を断念せざるを得なかったり、遅刻や早退を余儀なくされたりする学生も少なくありません。そのような状況でも、全く面識のなかった者同士が集まって毎週の授業を続けていくうちに、教師と学生だけでなく、学生同士の間のきずなも深まり、お互いの存在を励みとしながら日本語学習を続けていく、そういうクラスの運営ができればと思っています。

ところで、アフリカの白地図を見て、ケニアがどこか自信を持って答えられる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。日本人の持っているアフリカに関する知識が限られているのと同じように、学生の持っている日本についての情報もたいへん断片的なものです。お相撲さんの絵を見ても何をする人かわからず、「歌舞伎」や「忍者」などの言葉を聞いてもそれが何を指すのか見当もつかないという学生がほとんどです。そのため、KUの授業では視聴覚教材の活用に工夫が求められます。

ケニヤッタ大学正門の画像
ケニヤッタ大学正門

弁論大会と日本語教育会議

日本大使館及びケニア日本語教師会(以下、JALTAK)との協働も専門家には欠かせません。大使館とJALTAKの共催で開かれている日本語弁論大会は2017年の3月で第10回を迎えました。専門家は例年この大会で審査委員長を務めています。今年、多くの出場者は日本語学習をまだ始めたばかりで、これからJLPT(日本語能力試験)のN5を目指すレベルでしたが、大使館の多目的ホールに詰めかけた200名近くの観客に見守られながら勇気を持って準備したスピーチを発表しました。大会の様子は以下の動画でご覧いただけます。

大会の様子は以下のサイトでご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=buSbjk3ZuQA

第10回日本語弁論大会の賞品の画像
第10回日本語弁論大会の賞品

弁論大会の翌日からは2日間の日程でKUにてJALTAK主催の第5回ケニア日本語教育会議が開催され、専門家が中心となって企画・運営にあたりました。今回の会議には発表者としてスーダン及びマダガスカルからJICAボランティアの日本語教師を迎え、また、ナイロビ日本人学校と地方の小学校からも日本語指導の取り組みについて初めて発表していだくことができました。 ケニアに日本語・日本語教育の専門家養成課程はありませんし、いざ日本語の勉強を始めたい、続けたいと思っても、一般の人が適当な教育機関を見つけるのもなかなか難しいというのが現状です。そのような環境下で、弁論大会、日本語教育会議といった催しを一つのきっかけとして、日本語の学習や教育で試行錯誤をしている今まで接点のなかった方たち同士の間につながりが生まれ、コミュニティとして成長していくことを願っています。

東アフリカの日本語教育

国を越えたネットワーク作りの支援も専門家の大切な業務です。前任者の報告に書かれているように昨年の第4回東アフリカ日本語教育会議(以下、東ア会議)は初めてマダガスカルで開催されました。そして、今年の第5回も昨年に続きマダガスカルで開催されることになっています。マダガスカルはケニアと並んで東アフリカで日本語教育が盛んな国です。

東ア会議はアフリカ各国からの報告を得て、地域における日本語教育の課題を共有し、対面で今後の展望を探っていく唯一の機会となっています。ケニアとマダガスカル以外の各国では教師会もなく、日本語教育機関は散発的にしか点在していません。そうした国々を包み込んだネットワークとして東ア会議が機能していき、日本語教育のため孤軍奮闘している先生方に満足していただける集いになるよう、将来への期待を込めて今年の会議の準備を進めています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kenyatta University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家は多岐にわたる業務を行う。国立ケニヤッタ大学では2004年から日本語の授業が開始、現在は自由選択科目の入門日本語コースと、その上の日本語副専攻コースが開講されており、将来的には主専攻コースの創設も視野に入っている。専門家は同大学における日本語の授業、現地日本語教員に対する助言の他、在ケニア日本国大使館広報文化センターにおいても各種日本語講座を担当する。ケニア日本語教師会を支援し、日本語能力試験、日本語弁論大会、日本語教育会議の運営に携わり、ケニア及び近隣諸国におけるネットワーク形成促進、教師研修、各種調査等に従事する。
所在地 P.O.BOX 43844-00100 Nairobi Kenya
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ケニヤッタ大学人文社会学部外国語学科
日本語講座の概要
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