世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)細くても長くて丈夫な糸を紡ぎたい

ケニヤッタ大学
髙橋知也

昨年度のレポートでは、「まずは点と点をつなぐことから」と題して、日本語専門家(以下、専門家)が限られたリソースを駆使して点と点をつなぎ、任国ケニアのみならず東アフリカ全体の日本語教師間のネットワークを強化していくために果たしている業務について報告しました。今年度は、そのようにしてつないだ点と点が糸のように目に見える形になってきたことについて書きたいと思います。

1.日本語教育会議への支援

2013年以来開催されている東アフリカ日本語教育会議(以下、東ア会議)の第5回の大会が昨年マダガスカルで開催され、報告者もワークショップの講師等として初めて参加しました。マダガスカルは日本から遠く離れた島国ですが、サハラ砂漠より南のサブサハラ地域で最も日本語教育の盛んな国として注目されています。参加各国(エチオピア、ケニア、スーダン、タンザニア、ザンビア)の代表者たちがこの活気の秘密を知りたいと思ったのは言うまでもありません。プログラムの前後にマダガスカルの先生たちと各国の代表者たちが活発にやり取りする様子が見られました。あいにく当事者のマダガスカルの先生たちが自国の日本語教育熱の原因をはっきりと把握しているわけではありませんでしたが、ワークショップや発表、座談会を通して、各国の日本語教育活性化への糸口は得られたようです。今年の第6回東ア会議は8月31日(金)~9月2日(日)の日程で任国の首都ナイロビにて開催の予定ですので、さらなる日本語教師同士のつながりの強化に向けて、開催を支援するにあたり工夫を凝らしたいと思っています。

2.日本語弁論大会の開催

在ケニア日本国大使館・ケニア日本語教師会(以下、JALTAK)共催の日本語弁論大会が例年3月に企画されており、今年は第11回の大会が開催されました。昨年の第10回大会では、大会の翌日から2日間の日程で専門家の受入機関である国立ケニヤッタ大学(以下、KU)にてJALTAK主催の第5回ケニア日本語教育会議を開催し、スーダン及びマダガスカルからJICAボランティアの日本語教師を弁論大会の審査員、また会議の発表者として迎えました。今年は東ア会議を控えているため、弁論大会に合わせた会議は企画しなかったものの、弁士として初めて国外からの出場者を迎えることができ、学生同士の国境を越えた交流の端緒となりました。

第11回日本語弁論大会の賞品の写真
第11回日本語弁論大会の賞品

今年の弁論大会で弁士として迎えることができたのは、タンザニアのドドマ大学、スーダンのハルツーム大学の日本語履修生でした。これは専門家の訪問を通した直接のやり取りにより信頼関係が築かれ、つながりを紡ぎだすことのできた成果であると言えます。アフリカには54の国がありますが、現在、サブサハラアフリカで国際交流基金から専門家が派遣されているのはケニアだけです。そのため、KU派遣の専門家は近隣諸国の日本語教育機関を視察し、アドバイザーとしての役割を果たすことも期待されています。ケニアに赴任して以来、前述の東ア会議のために渡航したマダガスカルだけでなく、旅行や出張でザンビア、タンザニア、スーダンの3か国の日本語教育機関をも訪問しており、この原稿も出張先のエチオピアで仕上げているところです。

今年の弁論大会の様子は以下の動画でご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=LsiE1weDlT4

3.KUでの学生指導

ケニヤッタ大学の時計台ビルの写真
ケニヤッタ大学の時計台

ナイロビの郊外、北東へ約20キロの地点にあるKUのメインキャンパスは、緑豊かできれいに整備されており、勉強に最適な環境です。しかし、この一年はケニア全土の国立大学を巻き込んだ教員によるストライキのあおりを受け、なかなか落ち着いて日本語を教えることができていません。こうした状況下で、報告者は現在4名を数える日本語副専攻の学生の指導に多くの時間を割いています。副専攻の学生はいずれも、英語教育、あるいはフランス語教育を専門としており、卒業後に英語教師、またはフランス語教師として中等教育機関に就職することを目指しています。彼女たちが就職先で科目として日本語を指導することはなくても、日本語・日本文化に関するクラブ活動を組織することは十分に期待できます。4学期間で終わってしまう副専攻のうちにどれだけ自力で日本との関係性を紡ぎだしていく能力を獲得させることができるか、試行錯誤の日々が続いています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kenyatta University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家は多岐にわたる業務を行う。国立ケニヤッタ大学では2004年から日本語の授業が開始、現在は自由選択科目の入門日本語コースと、その上の日本語副専攻コースが開講されており、将来的には主専攻コースの創設も視野に入っている。専門家は同大学における日本語の授業、現地日本語教員に対する助言の他、在ケニア日本国大使館広報文化センターにおいても各種日本語講座を担当する。ケニア日本語教師会を支援し、日本語能力試験、日本語弁論大会、日本語教育会議の運営に携わり、ケニア及び近隣諸国におけるネットワーク形成促進、教師研修、各種調査等に従事する。
所在地 P.O.BOX 43844-00100 Nairobi Kenya
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ケニヤッタ大学人文社会学部外国語学科
日本語講座の概要
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