世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 交流の場としての日本語

モハメド5世大学
近藤裕美子

なぜ日本語?

Dクラスの学生たちの写真Dクラスの学生たち

 アフリカの西端に位置するモロッコ。アフリカとアラブとヨーロッパの接点でもあるこの地域では、様々な文化が交流し、様々な言語が使われている。日常耳にする言葉だけでも、アラビア語、ベルベル語、フランス語、英語、スペイン語など。このような他言語環境にあるモロッコ人にとって、日本語は「未知のものに対する好奇心」をかきたてるらしい。遠くアジアの東の果てにある日本とは、接点があまりないように思われるが、空手・柔道・合気道などが非常にさかんであり、武道や伝統文化のイメージから日本に興味を持つようだ。

 首都ラバトにある、モハメド五世大学人文学部日本語講座は、そんな「日本好き」のモロッコ人たちに日本語学習の機会を提供している。学習者数は2桁と小規模ながら、1982年に開講されて以来、選択必修科目(2000年からは公開講座)として講座が継続されてきた。現在は、入門者から初級前半までの4レベルある。学習者数は、全体で約50名。授業は、日本語学習の場であるだけでなく、「日本好き」たちの交流の場ともなっている。

日本語学習に対するニーズと問題

 しかし、このように日本語学習の機会が与えられる人たちは、実は幸運な人たちである。モロッコでは、日本語教育機関が非常に少なく、ラバトでは、モハメド五世大学のみ1。入門者クラスは、受講者募集初日で定員に達してしまい、たくさんの学習希望者に対して、断らざるを得なかった。また、国内には、青年海外協力隊員などから日本語を教えてもらったことなどがきっかけで日本語の勉強を始めたが、現在は教えてくれる人が周りにいないので、自力で日本語学習を進めている人たちもいる。2002年度以降、南部のアガディール高等水産技術学院とカサブランカのハッサン二世大学で日本語講座が開講された2が、まだまだ日本語を学習できる場が少ない。日々の授業を切り盛りしながら、どうしたらもっと多くの人たちに学習機会を与えることができ、日本語学習を支援できるだろうか、と模索している。

 モロッコでは、モロッコ人の教師が育ちにくいという環境がある。モロッコ人の教師が増えれば、おのずと学習の場も増やせるのだが。育ちにくい環境の原因は、正式なポストに就くための学歴の問題と学習者の日本語力の問題であるが、どちらも容易に解決できる問題ではない。それでは、今できることはないのだろうか。

今、できることから

弁論大会会場隣<折り紙教室>の写真
弁論大会会場隣<折り紙教室>

 現在、できるだけモロッコ人がモロッコ人を教える雰囲気づくりを進めている。大使館日本語公開開講座では学習者の一人にアシスタントとして入ってもらった。また、日本文化クラスの参加者たちを「折り紙・習字の先生」として小学校の文化祭に派遣した。2003年度6月に開催される日本語弁論大会では、外部者に対しての日本語ミニレッスンも学習者が行う予定である。
 年間の日本語学習時間が実質60~70時間と非常に少なく、学習者の日本語力も高くはない。しかし、日本語を学びながら、各学習者が自分の持っているものを教え合えるよう、環境作りを進めている。それが学習動機につながり、将来的に、その中で、一人でも多くの人が日本語教師を目指してくれればとこれほど喜ばしいことはない。

 また、モロッコ在住邦人にも、様々な形で日本語教育に参加してもらうよう活動している。日常日本語に触れる機会がほとんどない学習者たちにとっては、「生の日本語」に触れ、力試しをする絶好の機会である。アシスタントとして、ゲストスピーカーとして、ときには折り紙や習字などの文化クラスの講師として教室活動に参加してもらっている。2002年1月には、日本語教育関係者の交流促進などを目的に、「モロッコ日本語教師連絡会」を立ち上げた。現在は、日本語教師が中心となって活動しているが、今後は日本語教育に興味がある日本人やモロッコ人の参加が望まれる。2003年度の日本語弁論大会の実際の運営も「モロッコ日本語教師連絡会」が行っており、学習者だけでなく日本人からも様々な形で協力を受けている。モロッコでの日本語弁論大会は、まさに「みんなで作る日本祭」のような感じである。

日本語の勉強は面白い! 日本語を教えるのも面白い!

 日本語教師、日本語コース・イベント企画、コーディネーターと様々な役割を体験できることは、大きな喜びである。日本語という一つの共通項を交流の場として、様々な人がそこに参加し、それぞれが何か「お土産」を持って帰ってもらえればと考えている。日本語を勉強しても仕事に結びつかない、日本に行けるとも限らない、そんな環境でも、日本語学習を通じてみんなが何か得られれば、日本語教育を行う一つの意味と考えられるのではないだろうか。そして、この仕事を面白いと感じて興味を持ってくれる人が増え、将来、モロッコで日本語教師が一人でも多く生まれるよう、自分が今できることを少しずつ進めていきたい。

  1. 1不定期ではあるが、在モロッコ日本大使館でも公開講座を開講している。最近では、2003年4月に1週間の集中講座を実施した(報告者担当)。
  2. 2どちらもJICA派遣日本語教師が担当。外部向けの公開講座ではない。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
モハメド五世大学日本語講座は、1982年に講座が開設されて以来これまで、継続的に日本語が教えられている機関としては、唯一の存在であった。昨年度よりJICAの派遣が入り、日本語教育機関数は3機関に増えたが、依然国内では中心的存在である。また、教室外で日本語に接する機会・勉強する機会がほとんどない学習者たちにとってのネットワーク形成の場にもなっている。専門家は、講座の運営だけでなく、日本語弁論大会の実施・日本語教育関係者の交流促進を行っている。
ロ.派遣先機関名称 モハメド五世大学人文学部
Mohammed V University, Faculty of Letters and Human Sciences
ハ.所在地 3 Avenue Ibn Battouta, B.P. 1040, Rabat, Morocco
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
モハメド五世大学人文学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択必修:1982年~
公開講座:2000年~
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
選択必修と公開講座 
(ハ)現地教授スタッフ
0名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   49名:レベル別上から11/12/7/19、 含選択10名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ・興味、語学学習が趣味
(3) 卒業後の主な進路 日本関係は、特になし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級程度
(5) 日本への留学人数 1名

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