世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 遠隔地での日本語教育

モハメド5世大学
近藤裕美子

「日没する国」の日本語教育

第6回日本語弁論大会の写真第6回日本語弁論大会

 モロッコと聞いて、「北アフリカの西端に位置し、首都はラバト」とすぐにこたえられる日本人はそれほど多くないでしょう。「モロッコ」はアラビア語で「マグリブ:西、日が沈むところ」と呼ばれていますが、遠くアジアの東端、日本から離れたこの国で、「日出ずる国」の言葉はどのように教えられているのでしょうか。
 実は、20年も前から、首都ラバトにあるモハメド五世大学人文学部で日本語講座が続いています。開講当初、選択必修科目としてスタートしましたが、学外からも日本語学習希望が多くあり、現在は公開講座と並立する形で行われています。初級4クラス。学習者数は50人程度ですが、週二回の日本語の授業をみんな楽しみにしているようです。日本語専用の現地スタッフ、カウンターパートもなく、一人で講座を切り盛りしていくのは、何かと大変ですが、勉強熱心な学習者たちに支えられながら、日々の授業を行っています。時には、上のクラスの学生に入門クラスでアシスタントとして入ってもらったり、アラビア語やフランス語の資料や教材の翻訳・タイプ打ち・スペルチェックなどを手伝ってもらったりもします。教える人と教わる人という一方的な関係ではなく、学習者自身にも参加してもらいながら、日本語教育を進めています。

生涯学習としての日本語

 ところで、モロッコ人は、一体何のために日本語を学んでいるのでしょう? 日本から遠く離れたこの国では、日常生活の中で、日本や日本人に接する機会はあまりなく、教室から一歩出ると、日本語に触れることもありません。日本語を習得したからといって、それがすぐに就職や留学に結びつくことも希です。日本に観光旅行に行く機会もありません。それでも、「日本語の表現や・発想は、私たちの言葉と違っていておもしろい。」「漢字の勉強は、チャレンジングで楽しい。」「とにかくマンガが読めるようになりたい。」と、理由はそれぞれですが、みんな楽しそうに学んでいます。未知の国の言葉は、彼らの旺盛な好奇心を満たしてくれるのでしょう。
 また、空手・柔道・合気道などが盛んな土地柄か、その延長で日本語に興味を持つ人もいるようです。習い事の一つとして、細々とではあるが、楽しみながら続ける日本語の勉強、「生涯学習としての日本語」が静かに行われています。
 そして、このような状況はラバトだけに限りません。近年、アガディールやモハメディア等の都市でも日本語講座が開講されたほか、各地に派遣されているJICAボランティアに個人的に日本語を習っている人もいます。モロッコの日本語教育は、少しずつではあるが、着実に広がっているのです。

日本語学習支援活動

日本文化祭展示ブースの写真日本文化祭展示ブース このようにモロッコ各地で日本語を学んでいる人たちが、年1回、日頃の成果を披露する場が、日本語弁論大会・日本文化祭です。2004年度は、5月22日にラバトで行われました。学習者たちは、弁論や日本語劇のコンテスト、歌や詩の朗読など各種発表、習字・折り紙・着付けコーナーなどの展示ブース担当など様々な形で参加しました。また、運営の面でも学習者が積極的に関わり、日本人や他機関の学生と協力して仕事をすることで、交流の機会も生まれました。日常日本語に接する機会のほとんどない彼らにとっては、一日中日本語のシャワーを浴び、「擬似日本空間」を体験する、またとない機会になったようです。
 また、今年度から、日本語能力試験の過去問題を使った「レベルチェック試験」をスタートしました。現在モロッコ国内では日本語能力試験を受けることができません。したがって、自分の日本語力を把握し、長期的な日本語学習の目標を持つことが困難です。このような問題を改善するため、年3回のペースで、非公式に日本語レベルチェック試験を実施することにしました。2月に行われた第1回目の試験では、4級レベルのみを行いましたが、初めてだったため「難しい」という反応が多かったようです。それでも「次はもっといい点になるようがんばりたい」という受験者の声を聞き、学習動機を少しでも高めることができたと実感しています。

これから….。

 モロッコの日本語教育は、歴史はあるものの、現状はまだ始まったばかりの状態です。モロッコ人教師の不在、教材の不足、希望者がいても教師不足で学習の場を提供できないことなど、解決すべき問題は山積みですが、2002年日本語教育関係者の交流促進などを目的に立ち上げた「モロッコ日本語教師連絡会」を中心に、一歩ずつできることから改善して行きたいと思います。そして、一日本語教師として、また様々な企画のオーガナイザーとしての活動が、日本から遠く遠く離れた、この国の日本語教育の向上に少しでも役に立てればと、願っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
モロッコでは、現在公式には3機関で日本語講座が開講されているが、他の2機関は一昨年に開講されたばかりであり、モハメド五世大学日本語講座は、歴史、学習者の日本語力の高さなどからいって、依然国内では中心的存在である。また、教室外で日本語に接する機会・勉強する機会がほとんどない学習者たちにとってのネットワーク形成の場にもなっている。専門家は、講座の運営だけでなく、日本語弁論大会の実施・日本語教育関係者の交流促進を行っている。
ロ.派遣先機関名称 モハメド五世大学人文学部
Mohammed V University, Faculty of Letters and Human Sciences
ハ.所在地 3 Avenue Ibn Battouta, B.P. 1040, Rabat, Morocco
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択必修:1982年~
公開講座:2000年~ 
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
必修選択外国語科目と一般向け公開講座
(ハ)現地教授スタッフ
0人
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   52名。レベル別上から10/15/9/18(含む選択科目4名)
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ・興味、語学学習が趣味
(3) 卒業後の主な進路 日本関係は、特になし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
モハメド五世大学日本語講座は、1982年に講座が開設されて以来これまで、継続的に日本語が教えられている機関としては、唯一の存在であった。昨年度よりJICAの派遣が入り、日本語教育機関数は3機関に増えたが、依然国内では中心的存在である。また、教室外で日本語に接する機会・勉強する機会がほとんどない学習者たちにとってのネットワーク形成の場にもなっている。専門家は、講座の運営だけでなく、日本語弁論大会の実施・日本語教育関係者の交流促進を行っている。
(5) 日本への留学人数 1名

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