世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 『モロッコの日本語教育の行方』

モハメド5世大学
近藤裕美子

 さわやかな風がふく、6月。モロッコでは、学年末試験のシーズンです。ここでの3年間の任務を振り返りながら、モロッコの日本語教育の現状と今後の展望を見てみましょう。

ないものづくし?!

 北アフリカの西端に位置するモロッコ。地理的な問題もあり、日本語教育の事情は、決して恵まれているとは言えません。筆者の所属するモハメド五世大学人文学部では、20年以上も前から日本語が教えられていますが、主専攻にはなっていません。毎日専門として日本語を勉強したい、日本や日本文化について研究したいと思う人たちもいますが、その希望はかないません。また、努力して勉強しても、それが将来の仕事に結びついたり、日本へ留学できたりする可能性もほとんどありません。日本語能力試験を受験したくても、海外で受験しなければなりません。モロッコ人日本語教師はゼロ。現地採用の日本人日本語教師もいません。現在、国内の数機関で日本語が教えられていますが、教師は日本からの派遣に頼っている状態で、各教師はカウンターパート、同僚もなく、孤軍奮闘しています。

「ない」からこそ...。

 このように、世界的な基準からにみれば、モロッコでの状況はいいものとは言えないでしょう。しかしながら、困難な状況だからこそ、生まれてくるものもあります。学生は本当によく教師を手伝ってくれます。時には授業のアシスタント、時には仏語、アラビア語への翻訳、時には教材作成のお手伝い。教える人と教わる人という関係を越えて、みんなで日本語教育を作っています。
 また、日本語教師数も少ないため、みんなでモロッコの日本語教育を盛り上げて行こうという雰囲気もあります。2003年に立ち上げた「モロッコ日本語教師連絡会」では、学習者の日本語力の把握、継続的な日本語学習の動機付け、日本語能力試験の広報などを目的に、日本語能力試験の過去問題を使いながら、「日本語レベルチェック試験」を実施しています。その結果、週2回の授業以外に自主的に勉強する人が増え、3年前は、最上級クラスでも初級前半だったのが、最近では2級受験を目指すレベルに上がってきました。また、モハメド五世大学以外の受験者も増え、日本語教育機関のない地方在住の学習者にとっては、自主学習を進める一つの目標、目安にもなっています。

教室を飛び出そう! みんなで作る日本語教育

ラバト市内観光ツアーの参加者の写真ラバト市内観光ツアーの参加者日本・モロッコ文化祭:日本語・アラビア語で合唱「世界にひとつだけの花」の写真日本・モロッコ文化祭:日本語・アラビア語で合唱「世界にひとつだけの花」

 モロッコでは、日本語教師数が少ないため、モロッコ在住の邦人も様々な形で協力してくださっています。例えば、モハメド五世大学では、年2回「ラバト市内観光ツアー」を実施しています。これは、日本人とモロッコ人学がグループになり、交流しながら半日ラバトの観光名所を散歩するという企画ですが、学習者にとっては、日頃教室で習った日本語を試す機会であり、日本人参加者にとっては、モロッコについてもっと知る機会になっているようです。

 その他、年1回開催される「日本語弁論大会」では、日ごろの学習成果を披露し、日本語・日本文化をキーワードとしてモロッコ人、日本人が交流する場を提供してきましたが、今年6月には、これまでと少し趣向を変え、日本とモロッコの交流を目指した「日本・モロッコ文化祭」を開催しました。今回は、日本語教師だけでなく、学習者、在留邦人など24名が実行委員会として参加。当日は、500名近くの人がつめかけ、モロッコ人には日本を紹介し、日本人にはもっと深くモロッコを知ってもらう場になりました。そして、学習者たちにとっても、日本語学習を通して得たものを一般モロッコ人に伝え、日本語を使って日本人にモロッコのことを説明し、日本人と協力して仕事をする、このような教室内の学習では得られない経験を得ることができたようです。

モロッコの日本語教育の行方と日本語教師の役割

 モロッコでは、日本語学習の先に仕事、留学など実利的なものはないかもしれません。でも、日本語を学ぶことで新しい価値観や文化に触れ、そこで得たものを他のモロッコ人に還元する、日本語を使ってモロッコのことを日本人に伝える、日本語を通して新しい関係を広げていく、そんなことを目指した日本語学習、「生涯学習としての日本語」があってもいいかもしれません。そして、そのために、ただ授業を担当するだけでなく、様々な活動の企画や運営をすることで日本語学習を支える環境づくりをする、それも日本語教師の仕事であると痛感した3年でした。
 モロッコでは、少しずつですが、学習機関、学習者も増えてきています。日本から遠く離れたこの国で、これから、この国なりの日本語教育の形が出来ていけばと願ってやみません。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1982年、補助外国語科目(選択外国語)としてスタート、2000年から一般公開講座開始。近年、他の地方都市でも日本語講座が開講されつつあるが、首都ラバトにあることもあり、地理的、歴史的にみてモロッコ日本語教育界では、中心的役割を果たしている。専門家は、授業を担当するだけでなく、講座の運営、日本語教師連絡会のとりまとめ、日本語教育関係の各種活動(弁論大会、レベルチェック試験等)の企画・実施など、幅広い業務を行っている。
ロ.派遣先機関名称 モハメド五世大学人文学部
Mohammed V (5th) University, Faculty of Letters and Humain Sciences
ハ.所在地 3 Avenue Ibn Batouta, B.P. 1040, Rabat, Morocco
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
モハメド五世大学人文学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択必修:1982年~
公開講座:2000年~ 
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
一般公開講座(一部人文学部の選択科目)
(ハ)現地教授スタッフ
なし
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   40名。上から、7/9/9/15(4月現在)
(2) 学習の主な動機 日本や日本文化に対する興味、語学学習が趣味。
(3) 卒業後の主な進路 日本関係は、特になし。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
初級終了~中級前半
(5) 日本への留学人数 1名程度

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