世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) サウジアラビアで日本語を学ぶ大学生

キング・サウード大学
岩元 隆一

教室での写真
教室で

 「実は岩元先生は永久に私たちの心の中に住んでいます。」これはサウジアラビアで唯一の日本語教育機関である国立キング・サウード大学(リヤド)の日本語専攻コースの一年生が筆者の最後の授業のときに、はなむけのつもりで黒板に書いてくれたことばである。アメリカでの2001年9月のテロ事件以降、あまり評判の芳しくないサウジアラビアだが、キング・サウード大学の日本語専攻コースの学生たちは、いかつい顔からは想像しにくいが、陽気で、礼儀正しく、そして心やさしい。

 キング・サウード大学で最初に日本語教育が始まったのは1994年のことである。開始当初は三年制のディプロマコース(短大卒扱い)だったが、1998年に五年制の専攻コースに昇格した。その後、コース存続の危機に何度か見舞われたものの、2001年9月に三年半ぶりに新入生を受け入れ、現在に至っている。

 この国で授業をしていると日本では考えもつかないことがいろいろとあり、慣れるまでは戸惑うことが多い。初級レベルの教室で、
「誕生日はいつですか。」という質問をすると、

「せんせい、たんじょうびがわかりません。」という答えが返ってくることがある。赴任して間もなくは冗談を言っているのかと思ったが、本当に知らないのである。この国では誕生日を祝うという習慣がなく、ヒジュラ暦(イスラム暦)何年の何月に生まれたかは親から聞いてだいたい知っているが、何日であるかまでは気にしないのである。また、カレンダーも一般的にはいわゆる西暦よりもイスラム暦が広く使用されていて、一週間の始まりは土曜日で、木曜日と金曜日が休日である。これが頭にしっかりと入っていないうちは、

「このあいだの日曜日にどんなことをしましたか。」とうっかり尋ね、
「だいがくでべんきょうをしました。」と答えられることになるのである。日本と異なることは枚挙にいとまがない国だが、幸いなことに「長幼の序」という考え方はサウジアラビアにも存在し、学生よりも年長である教師は敬意を持って接してもらえる。冒頭に紹介した平凡な教師である筆者に対する学生からのことばはそのいい例であると思う。

 学生たちは刹那主義的な傾向が強く、コツコツと努力をするということはあまり得意ではない。したがって、漢字のように地道な努力を要するものは敬遠気味であった。しかし、小テストを繰り返し、反復練習を重ねることによって、漢字に対する苦手意識は薄れてきたようで、最近では小テストの回を重ねるたびに、90点台の点数を取るものが増えてきて、教師一同を喜ばせている。かなり高い目標であるが、可能であれば、現在の一年生には卒業までに新聞を読むために必要な約2000字の漢字を習得させ、辞書なしで新聞が読めるレベルに到達させたいと考えている。そのためには、日本語、とりわけ漢字に対する学生の熱意を維持させることがこれからの大きな課題の一つになるだろうが、最近の学生の様子からすると、それも決して困難なことではないように感じている。任期が終わりに近づき、残念ながら学生の成長ぶりを見守ることはできなくなってしまったが、名残を惜しんでくれる学生たちと何年後かに再会できることを今から楽しみにしている。

(了)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
キング・サウード大学は、1994年に言語翻訳学部に日本語講座が開設された。今のところ湾岸諸国の中で唯一、日本語を専門的に学べる教育機関であることから、湾岸諸国、ひいてはアラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。また、同大学日本語講座は、言語翻訳学部の中に位置づけられていることから、日本語を通して全般的な日本理解を深めるというよりは、翻訳や通訳など実務的な人材育成を主眼としていることも特徴のひとつである。
専門家及び青年教師は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 キング・サウード大学
King Saud University
ハ.所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名 青年教師:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
キング・サウード大学言語翻訳学部・アジア言語学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   日本語コース:1994年から、
専攻:1998年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻科目(5年制)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   専攻で第1レベル3名、第2レベル15名、
第3、4レベル各4名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、日系企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
レベル差あり。一番優秀な生徒で日本語能力試験2級未満。
(5) 日本への留学人数 通算3名

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