世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本は天国!?

キング・サウード大学
青沼国夫専門家
佐藤五郎青年教師

リヤド日本人学校交流学習会の写真1リヤド日本人学校交流学習会

 キング・サウード大学日本語科は、サウジ国内で唯一日本語教育機関であり、日本についての情報の発信所としても期待されている。したがって、日本語教育以外にも、日本語通訳や翻訳、さらには日本文化の紹介などに助力を求められることがある。そんな中で今一番の優先課題は人材育成である。サウジアラビア全体でも「サウダイゼーション」というサウジ人雇用促進運動の波が拡大する中で、日本に対する理解のあるサウジ人、日本語のできるサウジ人が、日系企業でも求められている。

活動

 来年は日サ交流50周年の年である。その祝典の一環として当大学生による日本語スピーチコンテストが開催される予定である。今年度はそのコンテストに向けた予備大会を行うことになり、上級生はその準備のためにスピーチの内容の意識化、原稿作成、ミニ・スピーチなどを行っており、忙しい毎日を過ごしている。
 学生のタイプは多様であるが学年が下がるほど「素直で幼い」という印象が強い。日本のアニメやコンピュータ・ゲームに夢中になっている者もいる。授業ではゲーム的な活動を喜び積極的に取り組む。ややもすると、教授上の目的から逸れてしまう程熱中してしまうので「手綱の締め加減」が難しい。素直さという面では、教師を敬うべき対象として見てくれるし指示によく従うので、指導しやすいのだが、その反面、自分で考え実行することがおろそかになり教師に依存する傾向があるので、自立的に学習に取り組めるような指導を心がけている。

交流

リヤド日本人学校交流学習会の写真2リヤド日本人学校交流学習会

 毎年「日サ青年交流」が開かれているが、今年初めて、その日本青年団が当大学日本語科を訪問し、学生との交流会を持った。学生は歓迎の挨拶をし、サウジアラビアの伝統ゲームを紹介して一緒に楽しんだり、アラビック・コーヒーを飲みながら、日本人と歓談した。日本人からの「自衛隊のイラク派遣で日本に対する見方が変わったか」や「なぜ日本語を学ぼうと思ったか」等の幅広い質問に一生懸命答えていた。最後に学生が自主的に用意したサウジの「香」をプレゼントして終了した。「交流プログラムの中でキング・サウード大学訪問が一番良かった」という後日談を日本人担当者より聞かされた。学生達が頼もしく思えた瞬間である。

今後の課題と目標

 サウディアラビアにおける日本語環境は決して良いとはいえない。教室外で日本語に触れる機会や教師以外の日本人と話すチャンスは皆無と言ってよく、日本語はまさに「教室内言語」になってしまっている。学習意欲を刺激してくれるものが身近にないため、たとえ高い動機付けを持って入学してきた学生であっても、その動機を維持するのは至難の業である。また、日本に対する見方がステレオタイプ化しており、生身の人間が暮らす国として日本をイメージすることが難しいようである。授業ではできる限り多くの写真や生教材を提示したり、教室外では日本大使館での映画上映会、日本人学校との交流学習会を利用して、今の日本の姿、彼らと同じように日々生活している日本人の姿を伝えたいと考えている。
 閉鎖的な社会で育った学生達の中には、外国人との接触が苦手なものもいる。机上の学問には能力を発揮する学生なのに、日本人とのコミュニケーションには尻込みしてしまうケースがある。また、カリキュラムによって日本語科目だけでなくアラビア語やイスラム史の履修が義務付けられており、学生は週20時間程の学習時間をこなさなければならない。交流を含めたインターアクションの教育に費やす時間がなかなかとれない状況もある。これら学生の心理的側面や制度上の制約をどう乗り越えていくか、いい意味での効率的な授業をどう展開していくかが今後の課題の一つである。
 日本を経験した学生達は一様に「日本は天国です」と口を揃えていう。この言葉を聞くたびに「日本にもいろいろ問題はあるんだよ」と出かかる言葉をおさえて、「そう」と微笑むことにしている。日本に対する憧れが、彼らの学習意欲につながり、やがては日本やサウジをより客観的に見る目が育ち、新しい世界を創造する担い手となるよう願いながら…。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
キング・サウード大学は、1994年に言語翻訳学部に日本語講座が開設された。今のところ湾岸諸国の中で唯一、日本語を専門的に学べる教育機関であることから、湾岸諸国、ひいてはアラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。また、同大学日本語講座は、言語翻訳学部の中に位置づけられていることから、日本語を通して全般的な日本理解を深めるというよりは、翻訳や通訳など実務的な人材育成を主眼としていることも特徴のひとつである。専門家及び青年教師は日本語講座での日本語授業、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 キング・サウード大学
King Saud University
ハ.所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名、青年教師1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
キング・サウード大学言語翻訳学部・アジア言語学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   日本語コース:1994年
専攻:1993年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻科目(5年制)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第1:38、第2:8、第4:16、第5:6、第6:6名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、日系企業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
レベル差あり。一番優秀な学生は能力試験2級未満
(5) 日本への留学人数 通算3名

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