世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 民主化の動きの中で

キング・サウード大学
JF派遣専門家 青沼国夫
ジュニア専門家 佐藤五郎

 サウジアラビアで建国以来初めての選挙が実施された。今年の2月から4月にかけて、市町村レベルの議会選挙が178の地方自治体で行われたのである。また、これまで制限されていた女性の社会進出も政治改革の影響もあって少しずつだが始まっている。このような民主化の風は大学の中にも吹きはじめている。日本語科の属する言語翻訳学部では3月に教員と学生の合同集会が開催され、学部発展のための意見交換がなされた。さらに、今学期から学生による教員評価も行われている。

 キング・サウード大学はサウジアラビアにおける唯一の日本語教育機関である。一時期学生募集を行わないことがあり、コースの存続が危ぶまれた「冬の時代」もあった。しかし今では、学生の質も高まり、かなり安定してきたように思われる。強い学習意欲と高い能力を兼ね備えた優秀な学生が増えてきた。留学や研修の機会にも恵まれ、この数年継続して学生を日本へ送り出している。
 大学側はクラスの拡充とともに講師の数も増やし、また最近では日本の大学との交流にも積極的な関心を示している。民主化の動きの中で、大学の日本語教育も充実してきており、着実に根をおろし始めているといえるであろう。

主な課外活動

日本人学校での交流8メートルの巨大巻き寿司を作る日サ共同作業の写真日本人学校での交流
8メートルの巨大巻き寿司を作る日サ共同作業

お別れの集合写真
日本人学校での交流
お別れの集合写真

 サウジアラビア国内の在留邦人の数は少なく、日本語教育機関も他には存在しないため、日本語環境は決して良いとは言えない。そのような状況だからこそ、日々の教室内活動だけでなく課外活動を推進していかなければならない。この一年間でも、映画鑑賞会、イステラーハなどさまざまな機会を持ったが、今回はその中の2点を紹介する。

1.日本大使館主催:第1回日本語弁論大会

今年2005年は日サ国交樹立50周年である。これを記念して日本大使館が中心となって各種文化行事を開催することになっている。特に今年の12月に行われる予定の日本語弁論大会は当大学生が発表の中心となるが、この予行練習の意味合いをかねて昨年12月に弁論大会を実施した。
 高学年を対象に1年の準備期間を経て臨んだが、大会当日はその成果を十二分に発揮し成功を収めることができた。発表者はもちろんのこと、惜しくも代表として参加できなかった者の中にも「スピーチ」の経験を通して日本語学習の一つの側面を経験し、新たな可能性を見出した者もいることと思われる。日頃の授業では目立った活躍を見せない学生がスピーチに際して素晴らしい才能を発揮する場面もあり、学生たちの新たな一面を発見するよい機会となった。
 何分にも今年度から始まった弁論大会であり、指導面で不行き届きの点もあったかもしれない。今後経験を積み重ねる中で、日本語科の伝統として定着することを期待している。

2.リヤド日本人学校との交流学習会

 今年5月、恒例となったリヤド日本人学校との交流学習会が実施された。平常授業の傍らの準備ということで不安も少なくなかったが、当日は拍手喝采、笑いと歓声の渦の中に真剣な眼差しも見られ、満足のいくものであった。普段、学外で日本人と話す機会のない学生たちにとって、教師以外の日本人、それも子供たちと話す機会がもてたことは大変刺激的だったであろう。日本人学校の先生方や子供たちと懸命にコミュニケーションを図ろうとしている彼らに、その成長振りを認めることができ、教師にとっても確かな手応えを感じた瞬間であった。基本的に大家族で10才以上歳の離れた兄弟がいることも珍しくない彼らであるから、子どもの扱いは慣れているのかもしれない。教室の授業だけではなかなか気づくことのできない場面を垣間見て、新鮮な感動があった。
 この交流学習会はサウジの文化を日本の子供たちに発信するという役割もあり、異文化交流の貴重な舞台でもある。来年度はもっと時間をかけて「どんな文化を発信するのか」彼らの底力を引き出せるよう、指導に精進したいと考えている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
キング・サウード大学は、1994年に言語翻訳学部に日本語講座が開設された。今のところ湾岸諸国の中で唯一、日本語を専門的に学べる教育機関であることから、湾岸諸国、ひいてはアラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。また、同大学日本語講座は、言語翻訳学部の中に位置づけられていることから、日本語を通して全般的な日本理解を深めるというよりは、翻訳や通訳など実務的な人材育成を主眼としていることも特徴のひとつである。専門家及び青年教師は日本語講座での日本語授業、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 キング・サウード大学
King Saud University
ハ.所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名、ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
キング・サウード大学言語翻訳学部・アジア言語学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   日本語コース:1994年
専攻:1993年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻科目(5年制)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第1:7、第2:8、第3:7、第4:6、第5:6、第6:18名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、日系企業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
レベル差あり。一番優秀な学生は能力試験2級未満
(5) 日本への留学人数 通算3名

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