世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 2つのカレンダー

キング・サウード大学
大谷英樹

 サウジアラビアでは2つのカレンダーを併用している。ビジネスの場合は「グレゴリオ暦(西暦)」を使用するが、大学等公的機関では「イスラム暦」で年間の予定を決めている。そのため、学生に西暦で試験等の重要な日程を知らせると間違えることが多く、常にイスラム暦を意識しておかなければならないのである。

 イスラム暦では週末が木曜・金曜であり、西暦を用いるビジネス界では酷く不評のため、他の湾岸諸国では折衷案として金曜・土曜を週末としている。サウジアラビアでもこの「週末問題」は議論されたが、宗教界の反対により、未だ解決に到っていない。ちなみにイスラム暦の紀元は西暦622年、そして西暦21世紀の現代はイスラム暦の15世紀にあたる。

 サウジアラビアは、まさにこの600年の差を埋めるかのように、潤沢なオイルマネーを使って国内の様々な分野での開発・改革に取り組んでいる。2004年から新たに大学が次々と着工され、国内に5つの経済都市を建設、欧米やアジアに3万人近くの国費留学生(理系)を送り出している。近年は特に英語教育、科学・コンピューター教育に力を入れている。教育に対する予算は、全体の30%を占めるほどだ。

 このような急激な変化の中で、日本語教育を含めた外国語教育の位置づけはかなり厳しい状況に置かれている。英語以外の外国語は就職に直結している訳でもなく、実用性に乏しいため、後回しにされがちだからだ。また、初等中等教育で行われている外国語教育は英語のみで、大学の予備教育でも英語の授業が組み込まれ、学生は英語の重要性を無視できなくなってきている。

リヤド国際ブックフェア(日本大使館ブース)の写真
リヤド国際ブックフェア(日本大使館ブース)

ブックフェアでの日本語模擬授業(筆者)の写真
ブックフェアでの日本語模擬授業(筆者)

 しかしながら、衛星放送やインターネットで、規制こそあれ、手軽に世界の人々と情報を共有でき、気軽に海外旅行ができる現在では、他国の文化に興味を持つ人も少なからず存在する。それを再認識できたのが、「リヤド国際ブックフェア」であった。

 今年は3月4日から14日まで「国際ブックフェア」がリヤドにて開催された。これは数年前から毎年、アラブ諸国及び欧州から計20数カ国の出版社が一堂に集まり、本の見本市を開くという催しである。今年は幸運にもゲスト国として日本が選ばれ、日本大使館が特別ブースを設けることになり、キング・サウード大学もブースを併設して協力することになった。期間中は老若男女問わず様々な人がブースを訪れ、折り紙に興じたり、日本文化や日本語学習に関する本を閲覧したりと、日本(特にサブカルチャー)に対する関心の高さは予想以上のものであった。筆者は10分程度の日本語の模擬授業を2回行ったが、なかなかの盛況であった。ブースの案内役を務めた日本語専攻の学生にとっても、自分が普段学習していることを一般人に紹介することで新たに発見したことも多く、改めて日本語学習の価値を見つめ直すことができたようである。

 アラビア語圏の中でも、サウジアラビアは特に宗教上の規制の厳しさゆえに異文化(異宗教)に触れる機会は限られている。それでも、サウジアラビアが目指す近代化のためには、多くの外国人労働者や外国からの知識・技術の吸収が不可欠であり、今後さらに外国語の専門家を養成する必要が出てくることは間違いないだろう。

 サウジアラビアで2つのカレンダーが一緒になることは、当分の間はあり得ないに違いない。しかし、現在のようなグローバル時代に適応するためには、異なる2つのカレンダーを上手く融合できる人材、つまり異文化(異宗教)とイスラム文化の融合ができる人材が必然的に求められていくであろう。

 残念ながら、サウジアラビア社会では未だ異文化(異宗教)に対する警戒心が強いため、実利目的としての英語以外の外国語教育に対する理解は得にくいというのが実情である。このような現実の中で我々専門家が日本語教育を行う場合は、常にイスラムとイスラム以外の異文化(異宗教)、この2つのカレンダーの違いを学生に意識させながら慎重に授業を進めていく必要がある。

 学生・教師双方にとって毎日が新しい発見となる、刺激に満ちた授業を目指し、今後も努力していきたいと考えている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
キング・サウード大学は、1994年に言語翻訳学部に日本語講座が開設された。今のところ湾岸諸国の中で唯一、日本語専攻の学士号が取得できる教育機関であることから、湾岸諸国、ひいてはアラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。また、同大学日本語講座は、言語翻訳学部の中に位置づけられていることから、日本語を通して全般的な日本理解を深めるというよりは、翻訳や通訳など実務的な人材育成を主眼としていることも特徴のひとつである。専門家及び青年教師は日本語講座での日本語授業担当、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 キング・サウード大学
King Saud University
ハ.所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
言語翻訳学部 アジア言語学科  日本語専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   日本語コース:1994年
専攻:1993年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1993年
(ロ)コース種別
専攻(学士号5年、ディプロマ3年)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(邦人2名、エジプト人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第1-第10レベル 全28名
(半年毎にレベルが上がる) 
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、アニメ、留学、日系企業への就職
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職、一般企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級ー3級程度
(5) 日本への留学人数 なし

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