世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オールジャパン体制での支援を受ける学生たちの学び

キング・サウード大学
佐藤修

サウジアラビアは日本にとって最大の原油供給国です。両国では、経済面だけでなく文化面でも関係強化が求められていて、ここキング・サウード大学でも学生たちが日々、日本語を主専攻で学び、今後の両国の架け橋となるべく頑張っています。

本稿では、そんな学生たちが、オールジャパン体制での支援を受けながら得た学びについて、ご紹介したいと思います。

三菱商事のCSRにより訪日研修

キング・サウード大学日本語学科では、昨年度と一昨年度、専門課程2年次の学生4、5名が一年間、学部のプログラムとして国費で日本に留学していました。そのため今年度の2年生たちも、先輩たちと同じように日本に行けるものと入学した時からずっと楽しみにしていました。しかし、当留学制度は諸事情により急遽停止されてしまったのでした。

三菱商事株式会社リヤド事務所から日本語学科に対する支援のお申し出をいただいたのは、ちょうどその見直しが始まって困っていたところでした。これ以上ない絶好のタイミングでご支援がいただけたと言えます。

これは、同社がCSRの一環として行った国際貢献策のひとつであり、長く事務所を構えるサウジアラビアに対し、日サの架け橋となりうる人材育成に資するため行ったものだそうです。日本語学科一同、今後もそうしたご期待に添えるよう一層精進したいと考えています。

日本大使館での壮行会

日本大使館で行われた壮行会で挨拶する学生の写真
日本大使館で行われた壮行会で挨拶する学生

いつも日本語学科を支えてくださっている在サウジアラビア日本国大使館からは今回、壮行会を開催していただきました。大使から激励のメッセージをいただけたり、いっしょに記念撮影できたりした光栄から、学生たちは会が終わった後もしばらく興奮冷めやらぬ様子でした。

今年2015年は、日サ両国が外交関係を樹立してから60年目を迎えた記念すべき年なのですが、学生たちにとっては当訪日研修がその記念事業の一つとして認定されたという点からも、二重に運が良かったと言えるでしょう。

研修は大阪にある国際交流基金関西国際センターで行われました。滞在日数9日間の短期研修でしたが、京都の名所や大阪城の見学、和太鼓や茶道といった文化体験も含んだ充実したプログラムで、学生たちの満足度は非常に高かったようです。全員から「もっと長くいたかった」、「短すぎる」と責められて(!?)しまったほどです(日程は大学の都合で決定されたもの)。関西弁講座も印象に残ったようで、帰国後もしばしば、「ちゃうちゃう!」、「ちゃうんちゃう?」と笑いながら繰り返す声が教室に響きました。

ほとんどの学生にとって、日本を訪れることは長年の夢でした。日本語学科に入ってからも教員たちから聞く日本人像や日本の良さなどに胸を膨らませ、ずっと温めてきた憧れの日本のイメージが、現実と一致したという感想が共感を集めていました。それだけ良い出会いがあったのでしょう。

帰国報告会での振り返り

帰国報告会で発表している学生の写真
帰国報告会で発表している学生

日本語学科内で行った帰国報告会では、参加学生たちから、日本語学習の自信につながったとする意見や日本人との交流を楽しんだという感想などが挙がりました。教室で学んだ日本語を実際に使う良い機会となったのはもちろん、日本で生活することで得た文化的な体験からも気づきがあったり、慣れない集団行動や、家族や使用人から離れての生活から、人間的成長につながる学びや気づきもあったりしたようです。

例えば、交通機関について議論になりました。今リヤドでは地下鉄工事が各所で行われていますが、学生の多くは地下鉄には乗る気がないと言います。しかし、日本で公共交通機関の便利さを体験した学生は、意見が変わったそうです。また自転車はこちらでは、子どもが乗るおもちゃとみなされていますが、生活の中で実際に使ってみることでその手軽さと経済性に気づき、考えを見直すべきだという意見も出ていました。

また、生徒たちは小中高と、修学旅行など経験したことがなかったのですが、研修後半からは集団行動に慣れてきて、全員が周りに合わせて行動するようになったそうです。さらに、「部屋のゴミを家族や使用人に片付けてもらうのではなく、自分で捨てるようになった。」といった感想も出ていました。行動の変化というのは意識の変化以上に難しいものなので、小さなことかもしれませんが意義あることだと考えています。

両国の架け橋になることを期待

こうした意見や感想から、そして実際に学習態度も良くなった例などから判断しても、短期間ではあっても非常に実りある研修であったことがうかがえます。報告者は訪日研修には参加しておらず、裏方として学生たちが学びやすい環境整備に努めたのですが、そうした学生たちの変化を目にし、お世話になった関係各位への感謝のことばを聞いていると、研修前後に奔走した苦労も報われる思いがしますし、誇らしい気持ちにもなります。将来、彼らがサウジ社会の第一線に散らばって両国関係の礎として活躍してくれることを期待しています。

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