世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 数字に表れる学習者と表れない学習者

キング・サウード大学
米田晃久

2012年度日本語教育機関調査結果を見ると、サウジアラビアの日本語学習者数は46名になっています。この大半はキング・サウード大学の日本語専攻課程の学生です。

1994年、キング・サウード大学に日本語専攻課程が開設されました。国際交流基金から日本語専門家(以下、専門家)の派遣が開始されたのもほぼ同じ時期です。2015年、サウジアラビア人の教師が初めて、日本語専攻課程の教授スタッフに加わりました。彼は日本語専攻課程の卒業生です。日本で修士号を取り、母校に教師として戻ってきました。これは、サウジアラビアの日本語教育の自立化において、大きな一歩と言えます。まだまだ、人数は少ないですが、キング・サウード大学の日本語専攻課程を卒業した学生が、日本語教育を担う人材、サウジアラビアと日本をつなぐ人材として育ってきています。また、在学生の中にもインターネットで日本語や日本文化について世界に向け発信している学生が多くいます。専門家にとって、こうした人材を育てることは大切な仕事の一つです。

日本語でのアラビックコーヒーの紹介を考えている学生の画像
日本語でのアラビックコーヒーの紹介を考えている学生

サウジアラビアの人口は約3000万人、そう考えると46名という学習者数は少ないと感じる人もいるかもしれません。本当にサウジアラビアで日本語を勉強している人が46名しかいないかと言うと、そうではありません。特定の教育機関に所属せず、自分で日本語を学んでいる学習者が、相当数いると考えられます。例えば、サウジアラビアの首都リヤドで毎年、開催される国際図書展の日本ブースには多くの人が訪れます。そこで、よく聞かれるのは、「日本語を勉強したいのですがどこで勉強できますか」、「『アラブ人のための日本語』1 はどこで買えますか」という質問です。中には日本語で話しかけてくれた女性もいました。私がどこで日本語を勉強しているのですかと聞くと、彼女は大学生で大学の有志のクラブ活動で日本語を勉強しているということでした。

2016年リヤド国際図書展日本ブースの様子の画像
2016年リヤド国際図書展日本ブースの様子

このように日本関連のイベントに行くと、機関調査の数字には表れていない自分で日本語を学んでいる人が多くいることがわかります。リヤドで行われるこうしたイベントでは、キング・サウード大学の日本語専攻課程の学生たちが来場者の名前をカタカナで書いたり、アラビア語で日本文化を紹介することがよくあります。学生たちにとっては、教室で学んだことをいかす絶好の機会です。同時に、彼らが日本語、日本文化に興味を持っている人たちに必要な情報を提供したり、日本語を学ぶ楽しさを伝えたりすることでサウジアラビアでの日本語教育の裾野を広げてくれていると思います。

数字には表れない学習者のための活動も専門家の大切な仕事の一つです。現在、サウジアラビアで日本語を学べる教育機関は限られています。それでも、日本語を学んでいる人、学びたい人は多くいます。サウジアラビアでは文化的な事情で、家族や親族ではない男性と女性が話をすることは望ましくないとされています。こうした制限の中で、日本語の講座を開いたり、日本の文化紹介をする機会を作り出す難しさはありますが、日本語専攻課程の教員、在学生、卒業生たちと共に、数字には表れない学習者へも日本語・日本文化の輪を広げていきたいと思っています。

  • 1『アラブ人のための日本語』はキング・サウード大学ファーリス・シハーブ教授編著によるアラビア語で書かれた初の総合教科書
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
King Saud University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
キング・サウード大学では1994年に日本語専攻課程が開設された。1998年には、それまでの3年制から予備教育期間を含めた5年制の課程となった。日本語専攻課程は日本語学習を通じた全般的な異文化理解教育を目指している。カリキュラムは通訳や翻訳といった実務的かつ高度な運用能力を育成すべく、デザインされている。また、湾岸諸国で唯一、日本語専攻の学士号が取得できる教育機関であることから、湾岸諸国、アラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。専門家は日本語講座での授業担当、カリキュラム・教材作成に対する支援、現地教師に対する助言などを行う。
所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語翻訳学部 近代言語学科 日本語専攻課程
日本語講座の概要
What We Do事業内容を知る