世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本人コミュニティを日本語学習者につなげる

キング・サウード大学
米田 晃久

「授業以外で日本語を使う機会がありません。」

これは、キングサウード大学の学生からよく聞く言葉です。サウジアラビアには日本人が1300人程度いますが、学生が大学の外で日本人に会うことはあまりありません。その理由としては、多くの日本人が外国人居住区に集まって住んでおり、サウジ社会と直に接する機会が少ないということがあります。インターネットを使って日本人と交流することが簡単にできる時代ではあるものの、文化的な事情もあってか、学生はネット上の交流にはそれほど積極的ではない感じがします。こういった状況もあり、できれば、大学に日本人ゲストを招いたり、もしくは大学外で日本人との交流の機会を作ったりしたいと考えています。

今年度は日本人学校の先生、大使館員の方、日本料理レストランのシェフの方に大学に来ていただき、サウジアラビアと日本の比較や、それぞれの仕事の話、自身の人生経験などを話していただきました。一つのお話の中では「モテたい」という言葉がたくさん出てきました。教科書で「モテる」という言葉は出てこないので、学生はわかるかなと少し心配していましたが、話の面白さとキーワードのように出てくる「モテたい」という言葉で学生は自然に意味を理解していたようです。

日本人ゲストを大学に招いて、面白く交流している様子
日本人ゲストを大学に招いて

大学に来ていただいたお礼に今度は、日本人の方を招き交流会を行いました。サウジアラビアにはイステラーハという別荘のような場所があります。そこで、家族や友人と時間を過ごすのがサウジアラビアの習慣の一つです。学生たちに交流会を企画してもらい、イステラーハの手配、食事の準備などをしてもらいました。普段、大学では見ることのできない彼らの仕事ぶりを見ることができ、新鮮でした。まずはデーツとアラビックコーヒーや紅茶でゲストをもてなしました。学生たちのもてなしの姿は、慣れたもので、自然でした。その後、サッカー、バレーボール、卓球、囲碁、音楽、ゲーム、おしゃべり、そしてみんなで食事と盛りだくさんで、すばらしい交流会となりました。日本人にとっても、サウジアラビア人のおもてなし文化を体験できる時間となりました。来ていただいたゲストの方々にも「こういう経験は初めてで大変おもしろかった。」と好評でした。この交流会をきっかけに、日本人の自宅に招いてもらった学生もいました。

バレーボールしている人たちの写真 詳細は以下
イステラーハでのバレーボール

これまで、国際交流基金の日本語専門家として、サウジアラビアにいる日本語学習者へどのようにアプローチをしていくかを中心に考えてきました。今回、学生と日本人の交流機会を多く作っていく中で、学生たちの機会を作りたいという思いと同時に、サウジアラビアにいる日本人の方々にも、日本語を勉強している学生がいるということ、また日本語・日本文化に興味を持つサウジアラビア人が多くいることを知ってもらうのも重要なことだと感じました。日本人に知ってもらうことで、そこから、新たな交流が生まれ、結果的には日本語学習者にとっても、よい効果をもたらすと実感しました。日本語学習者だけでなく、日本人コミュニティにもアプローチすることが、日本語専門家の大事な仕事なのだと思いました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
King Saud University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
キング・サウード大学では1994年に日本語専攻課程が開設された。1998年には、それまでの3年制から予備教育期間を含めた5年制の課程となった。日本語専攻課程は日本語学習を通じた全般的な異文化理解教育を目指している。カリキュラムは通訳や翻訳といった実務的かつ高度な運用能力を育成すべく、デザインされている。また、湾岸諸国で唯一、日本語専攻の学士号が取得できる教育機関であることから、湾岸諸国、アラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。専門家は日本語講座での授業担当、カリキュラム・教材作成に対する支援、現地教師に対する助言などを行う。
所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語翻訳学部 近代言語学科 日本語専攻課程
日本語講座の概要
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