世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 知られざる日本語教育機関 ダマスカス大学日本語学科

ダマスカス大学
中堂暁美日本語教育専門家
内藤真理子ジュニア専門家

生け花実習風景2004年秋の写真
生け花実習風景 2004年秋

 「シリア」と聞いて、すぐその地理上の位置が頭に浮かぶ人は少ないのではないだろうか。しかし、「イラクの西隣」と言うと、「そんなところで日本語教育?本当ですか?」という反応が返ってくる。実際は、日本大使館で一般講座が始まったのが25年ほど前(現在は閉鎖)、その後アレッポ大学の一般講座(1996年)、ダマスカス大学の一般講座(1999年)開設と続き、3年前に日本語学科が開設されたと知れば更に驚くだろう。長年にわたる日本政府やJICA(独立行政法人国際協力機構)等の地道な経済、技術援助・協力を通して、シリア国民は日本を非常に高く評価している。日本語学科のあるダマスカス大学人文学部内の他の語学関係学科は、アラビア語科、仏語科、英語科のみであるから、その中に日本語学科を開設したシリア側の期待の大きさが分かって頂けるだろう。

 しかし、学科開設後の状況は厳しく、大学の教室不足のため人文学部内に教室、教員室が確保できず、一般日本語講座の教室を間借りせざるを得ず、更にスタッフ不足のため2期生、3期生が募集できないという状況が続いていた。幸い、状況は少しずつ改善されつつある。2004年秋には念願だった「人文学部内に教室と教員室が確保」でき、ようやく他の学科の学生達にも日本語学科の存在が知られるようになった。現在は3学年の授業のみを国際交流基金派遣の日本語教育専門家1名とジュニア専門家1名が担当しているが、2005年9月に新入生を募集すべく、新たな教室の確保と新スタッフの確保に向けて大学側との協議を続けている。

ジャパン・フェアにて2005年春の写真
ジャパン・フェアにて 2005年春

 日本語関係の授業は週に20時間で、2年次以降は第2外国語、アラビア語など他の必修科目はなくなるので、学生達にとっては文字通り日本語漬けの日々が続く。入学時に25名いた学生達も落伍者が出、現在は19名(内女子8名)となっている。数百人、数千人の学生を抱える他の学科に比べると極小学科であり、非常に恵まれた環境にあると言える。そのため授業日数、小テスト、宿題も他の学科よりずっと多く、他学科学生の優雅な大学生生活を知って羨ましがる学生や、音を上げる学生もいるが、ほとんどの学生は意欲的で真面目、授業中発言の機会があれば、我先にと積極的に手を挙げ指名するのに困るときもある。おしゃべり好きの国民性を反映して、会話の上達は非常に速い。ただ、日本語の専門教育機関はシリアでは当学科のみであるため、ともすると競争のない「井の中の蛙」状態に陥りやすい。「日本語能力試験」もまだ一人も受験したことがなく、世界の日本語学習者のレベルと真の自分の実力を知らない。シリアで日本語能力試験を受けることができないため、受験には近隣国に行かなければならず時間的、経済的負担が大きいが、意欲のある学生には2級受験を目指すよう指導していきたい。彼らが、卒業までの1年間に更に日本語能力を磨き、将来の夢の実現に一歩でも近づいて欲しいと願っている。

 基金派遣専門家としては、今後日本語学科が毎年新入生を募集できる正常な学科運営ができるよう、できるだけの努力をしていくつもりである。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
2002年9月、シリア最大の総合国立大学に国内初の日本語専攻学科として開設された。日本語を使って仕事ができる人材の育成のみでなく、将来的にはシリアの日本語教育を担う人材を育てることを期待されている。専門家は、授業担当、学科事務、教室管理等、学科長(工学部助教授)と協議しつつ、実質的な学科運営を任されている。
ロ.派遣先機関名称 ダマスカス大学
Damascus University
ハ.所在地 Mezzeh, Damascus, Syrian Arab Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ダマスカス大学人文学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2002年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   3年生:19名
(2) 学習の主な動機 「日系企業への就職希望」「日本語教師希望」「留学」
(3) 卒業後の主な進路 卒業生なし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
「日本語能力試験2級合格」が目標
(5) 日本への留学人数 0

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