世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) トルコ便り 2006

土日基金文化センター
横野 登代子

1.アンカラで出会った日本語

 トルコに赴任してほぼ2ヶ月、この間いろいろな場所で日本語を聞いた。有名な観光地カッパドキアでは中学生ぐらいの男の子が話す「じゅこ 1ユロ」、陶器店の案内係や政府認可の絨毯工房の責任者は敬語を使い流れるような日本語。さらに、エルジェス大の日本語学科を出たハンサムなガイド君に何か言い間違いがあれば教えてあげようと思ったが訂正する余地がなかった。その他街中やバスの中で日本語で話しかけてくる人達は日本滞在経験者だ。群馬県にいたとか、愛知県にいたとか・・。

 しかし、圧巻は79歳の老人が話す日本語であった。 彼は父親の仕事の関係で満州で生まれ、コーランが読めるようになるまで同胞の学校でトルコ語を学んだ後、10歳になって当時の朝鮮仁州に家族と共に移り住む。そして、小学校4年生に編入し、50人近くの日本人子弟と共に日本語で教育を受ける。60年前に覚えた言葉ですからと謙遜するが「さいた さいた さくらがさいた。」を直立不動で朗読したと言う彼が書いてくれた漢字はなんと「國」。戦争の時代にトルコから遠く離れた朝鮮で日本語で学んだトルコ人がいた。こんな人に、こんな日本語に、こんな事実に偶然出会えることも海外で仕事をする醍醐味である。

2.勤務先 土日基金文化センター

図書館を訪れる人を迎える司書のアヤさんの写真
図書館を訪れる人を迎える司書のアヤさん

 アンカラの南の高台、ORANの新興住宅地にこのセンターが出来たのは1998年。日本語講座は2000年10月から開講されている。毎週土曜日にセンターにやってくる受講生は大学生、高校生、社会人、主婦等。大学生は理系の学生が多く、社会人には軍人や日本製品を取り扱っている会社経営者、トヨタの車を修理して日本語に興味をもった修理工など経歴は様々である。

 学習動機は日本への関心という漠然としたものが多く、楽しみながら話せるようになりたいという希望が多い。しかし、十月の新学期からはあえて文字教育も取り入れ進度に余裕を持たせた新カリキュラムでスタートする。長く学習を継続してもらうためには市民講座とはいえ漢字が不可欠と考えたからである。チャナッカレ大学で日本語教育学を専攻した若い3人のトルコ人教師と専門家を含む2名の日本人教師、計5名がチームとなって学習支援に当たる。

 センターの図書館の蔵書は書籍が9000冊余り。日本語関係だけでなく文学全集、日本文化に関する写真集も多数あり、NHKビデオ、大使館作成によるトルコ語での日本紹介ビデオ等も450巻近く備えている。中でも面白いのは、日本国内で使われている教科書(小、中、高校)が新品で2300冊も揃っていることである。この図書館にはアンカラだけでなく周辺からもいろいろな人が訪れる。先の老人もこの図書館を訪れた一人である。

3.私が見たアンカラ 2006

トルコの町並みの写真
トルコの町並み

 アンカラは昔の言葉で「谷底」という意味とガイドブックに書いてあった。実際、巨大なすり鉢状で、底にあたる部分は空気が澱んでおり、高台から見下ろすとぼやけて見える。住宅は斜面にへばりつくようにすり鉢の上部までびっちりと建ち並んでいる。

 イスラムの国であるが、アンカラ市内ではスカーフをかぶった女性は目立つほど多くはない。ただ、モスクからEZAN(イスラムの祈りの時を知らせる放送)が聞こえて来るとそれに合わせ男達はDUA (祈り)を始める。そこが駅の通路であれ、繁華街であれお構いなしに、路上に座り祈る。だが、祈っている人のすぐそばを足早に過ぎる若者達がいるのは、イスラムの国ではどこも同じかもしれない。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
トルコに於ける日本文化紹介の中心となるべく設立された機関。
日本語講座は一般に開放されているが、国内様々な地域から日本語教育に関する質問も届く。
内部業務としては日本語講座のクラス担当、現地講師の日本語力向上支援、コース整備の他、センターで行われる文化行事への参加協力がある。
対外的にはトルコ日本語教育機関との連携、教師会のサポート、日本語能力試験の実施協力、スピーチコンテストの企画実施協力等が含まれる。
ロ.派遣先機関名称 土日基金文化センター
The Turkish-Japanese Foundation Culture Center
ハ.所在地 Ferit Recai Ertugrul, Cad. No.2 Oran, 06450 Ankara
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
土日基金日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年10月
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2000年10月~
(ロ)コース種別
一般市民講座
(ハ)現地教授スタッフ
トルコ人教師3名 日本人教師1名 基金派遣専門家1名
全員常勤
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   40名程度 (2006年6月末期末試験時)
大学生 高校生 社会人 主婦
(2) 学習の主な動機 日本への興味、関心。社会人の場合は日本への渡航予定
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
簡単な日常会話 3級には達しない。
(5) 日本への留学人数 大学生の場合はそれぞれの専攻科目で日本留学。
主に理系の学生が大学院留学を目指す。
(2006年度文部科学省研究生1名合格)

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