世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) トルコ便り 2009

土日基金文化センター
横野 登代子

 トルコと日本、両国にはそれぞれ相手国に助けてもらったエピソードがある。

 和歌山県串本町沖で遭難したエルトゥール号からトルコ船員が救助されたのは120年ほど前であった。それから1世紀近い歳月が流れ、今度はトルコ航空機がテヘランに残された日本人200人の救出に向かった。イラン・イラク戦争の最中、通告時間が過ぎればイラクに撃ち落されるかも知れない危険を押し、タイムリミットぎりぎりでのイラン領空脱出であった。

 ドストルック(友情)を重んじるそんなトルコにあって、土日基金文化センターは日本の文化・言語を発信する機関である。そして、「2010年トルコに於ける日本年」のイベントはここ(土日基金日本文化センター・通称"土日文化センター")からスタートする。

Ⅰ 土日センター日本語講座

ワークショップ参加者たちの写真
ワークショップ参加者たち

 授業は主に土曜日と日曜日の週末に行われ、大学生、高校生、会社員、医者、主婦、軍人など受講生はバラエティに富んでいる。1年は3ターム(1ターム44時間)で、『みんなの日本語Ⅰ、Ⅱ』を終えるのに7タームを要する。最近は中級に進む学習者や能力試験3級受験者も多くなり、市民講座とは言え漢字は避けては通れない。

 当センターのような市民講座では、言語だけでなく文化を紹介することも派遣者の大きな仕事の一つになる。この1年、書道家濱崎道子氏のワークショップ、大字揮毫のデモンストレーション(2008年10月)や、公邸の料理人さん指導による海苔巻き作り(2009年3月)等を企画実行したのは、日本文化や食文化を見るだけではなく、直接体験する機会を提供したかったからである。

Ⅱ トルコの学習者の特徴

 トルコの弁論大会は1年に2回、アンカラ(11月)とイスタンブール(3月)で開かれるが、どちらの大会でも初級グループのレベルが高い。 初級段階では主専攻大学の学習者とその他の機関の学習者との間に殆ど力の差が見られないのは、トルコ語と文法構造が似ているからであろう。さらに、発音やイントネーションに関して言えば、ネットからダウンロードした歌やドラマから日本語に入った主専攻以外の学習者のほうがむしろ自然で流暢な場合が多い。

Ⅲ 日本語教育上の問題点

 3つの主専攻大学で日本語教育が始まったのはアンカラ大の1985年が最初で、その後1993年のチャナッカレ大学、1994年のエルジェス大学と続き、その歴史はまだ浅い。

 能力試験の結果で見る限り、3級の合格率は世界平均を遥かに上回っているにも関わらず、2級、1級と進むにつれ合格者数が激減していくのは、トルコの日本語教育全体の大きな問題である。

 単に漢字が苦手ということ以外にカリキュラムの組み方、授業時間数等にも問題があると考えられるが、近年日本で学位を取り母校に戻りつつある若い研究者の卵達がこの点を改善して行くことを期待したい。

Ⅳ 新しい動き

海苔巻き作りに挑戦の写真
海苔巻き作りに挑戦

 現政権が国内の地域的経済格差是正政策をとっていることもあって、アンカラから東の地域に大学の新設、あるいは学科の増設が続き、その中で日本語を主専攻、あるいは選択科目として開講予定の大学が増えている。また、アンカラ市内の某有名私立の小中高一環校では2009年秋の新学期から初等部の4年生から第三外国語の選択科目として日本語が始まることになっている。

Ⅴ 私が見たトルコ 2009

 アンカラに住んでいるとこの国の歪みを感じることは少ないが、テレビには時折、別世界が映し出される。

その1: 都市部で恵まれた教育を受けられる子供達がいる一方で、東のある村では12歳の女の子が自分と同じ年恰好の子供達に野原で自分が5年生までに習ったことを教えていた。「先生に来てほしい。私も勉強したい。」と涙を流す少女先生は、紛争地帯のため先生が引き上げてしまった後は教育を受けられないでいる。

その2:片腕のチョバン(羊飼い)が独学でOSSという大学入学資格試験に高得点で合格した。夕闇迫る放牧地で薄汚れた毛布に包まり羊の番をしながら本を読んでいる姿がテレビで紹介された後 トルコの某財閥が7年間の奨学金を保証し、1年間英語研修を経て医学部の正規生になれることになった。5歳の時、村に医者がいなかった為に右腕を無くし、その時から医者を志したという青年の横顔は凛として美しく、本を大事そうに袋にしまい長い棒を片手に今夜の牧草地に羊を追う姿は賢者の趣であった。

 トルコの西と東の経済格差は大きい。東に行けば行くほど顔も違えば言葉も違い、経済も教育も人々の考え方も西とは大きな隔たりがある。これがトルコという一つの国である。

 生活の豊かさは心の豊かさとは関係ないが、繰り返されるテロは展望のない人々の怒りであろう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
トルコに於ける日本文化紹介、文化交流の中心となるべく設立された機関である。日本語講座は一般に開放され、図書室は1万冊の蔵書と視聴覚ビデオも多数揃えている。内部業務は日本語講座のクラス担当、現地講師のための勉強会、コース整備の他、センターで開催の文化行事への参加協力がある。外部業務としては国内日本語教育機関との連携協力、教師会サポート、日本語能力試験実施協力、弁論大会審査協力、その他交流基金プログラムに関する案内等。
ロ.派遣先機関名称 土日基金文化センター
The Turkish-Japanese Foundation Culture Center
ハ.所在地 Ferit Recai Ertugrul, Cad. No.2 Oran, 06450 Ankara
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
土日基金文化センター 日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年10月
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2000年
(ロ)コース種別
一般市民講座
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち 邦人1名) 非常勤2名(うち 邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級前半40名、初級後半17名、中級 6名
(2) 学習の主な動機 日本への興味  文科省留学試験のため
(3) 卒業後の主な進路 受講生の所属する教育機関ではないので、資料なし。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
4級 または3級まで続ける学生が増えている。
(5) 日本への留学人数  

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