世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 土日基金文化センターの日本語教育

土日基金文化センター
平川 俊助

トルコにおける派遣専門家の役割は、派遣先機関の日本語講座の運営、日本語能力試験や弁論大会など日本語事業の運営、そして日々熱心に教育活動や研究をされている方々をサポートし、トルコの日本語教育の発展をお手伝いすることです。

アンカラの中の日本

私が派遣されているのは、アンカラにある土日基金文化センター(以下、TJV)という機関です。

ここアンカラで「日本」を見かけることはそう多くありません。現時点では日系企業も数えられる程、身近な日本食といえば醤油を大型スーパーで時々見かけるぐらい、街中で観光に来ている日本人や日本語に出会う機会も滅多にありません。しかし、アンカラには、歴史と由緒あるアンカラ大学の日本語日本文学科を始め、日本語教育を行っている大学、高校、語学学校がいくつもあります。

土日基金文化センター

TJV日本語講座の受講生の写真
TJV日本語講座の受講生

「土」はトルコの「と」、「日」は日本の「にち」で、「とにち」と読みます。TJVは、両国の友好関係構築を目的として1998年に開館された機関です。日本語講座は2000年10月に開講され、現在はおよそ100名の受講生が日本語を学びに来ています。受講生は、大学生、会社員、公務員、主婦、研究者、軍人、警察官・・・と非常に多様で、この数年では高校生が目立つようになってきました。

このコースの受講生の方に「なぜ日本語を?」と聞くと、「仕事で必要」とか「学校の勉強のため」と答えるのはほんの一握りだけです。また、日常生活で日本語を使っている方もごく限られ、日本へ行ったことがある人も片手で数えられるくらいでしょう。仕事や学業などの実利的な目的ではなく、「日本が好きだから」「アニメが大好きで」「剣道を始めて日本が好きになった」といったように、多くの受講生は趣味や興味から日本語学習を始めています。このように、TJVの日本語講座は、受講生の日本への熱意と強い想いに支えられてきたのです。

TJV日本語講座での創意工夫

そんな日本語講座ですが、時として日本語専門家においても創意工夫が求められます。

講座を開講しているのは週末のみで、週に1回4時間の時間割で行っています。一般向けの講座であること、市内中心部からやや離れた場所に立地していることで、週末のみ集中的に開講しているのが現状です。あまり日本語を使う機会がない受講生にとって、週に一度の授業は物足りなく、せっかく勉強したことを忘れてしまう、という声も聞こえます。特に、ここで日本語に初めて出会う受講生にとって、平仮名とカタカナは最初で最大の難関になってしまい、せっかくの熱意が文字を前に挫けてしまうことも度々です。

そこで考えたのが、「ひらがなアソシエーションカード」です。これは、絵カードからトルコ語の言葉と平仮名の字形を連想させるという方法です。例えば、トルコ語で「お母さん」は「Annne(アンネ)」と発音しますが、お母さんの絵と「あ」を組み合わせ、身近な言葉のイメージと平仮名を結びつけて覚えます。TJVでもこの教材を作成し、新学期から導入する予定です。このように、今ここにある問題点を認識し、一つ一つ解決していくことがトルコの日本語教育発展に繋がると考えています。

ひらがなアソシエーションカードの画像
ひらがなアソシエーションカード

トルコは、日本からおよそ9000キロ離れた遠い国ですが、大の親日国として知られています。この数年は経済面を始めとして、さらなる繋がりが出来つつあります。ここで日本語を学んだ方が日本への架け橋になり、両国の関係を強くしてくれることを期待しています。

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