世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 移民社会で変容を続ける日本語教育 ―地域的多様性から専門家に求められる柔軟性とフットワーク―

国際交流基金サン・パウロ日本語センター
中島 透

郊外の田舎道にも日系色が反映されているの写真
郊外の田舎道にも日系色が反映されている

ブラジル、サン・パウロ日本語センター(以下FJSP)の場合、一般成人を対象にした日本語公開講座は実施していない。その意味で当該専門家は大学のような特定の自分のクラス・学生・研修生というものを持たない。業務内容の中心は「教師研修」であり、活動対象地域はブラジル国内だけでなく、周辺国をもカバーする。教師研修は学習対象者あるいは主催団体、地域そして内容別に、それぞれ変化に富む特徴を有している。現在FJSPが主力をおいているのは、サンパウロ州とパラナ州の公教育における日本語教育普及支援である。この2州での公教育における日本語拠点校は21あり、約1000人が日本語学習を行っている。これらの教育現場を定期的に巡回し、担当者や校長に聞き取り調査を実施している。また年に2回、上記拠点校の現職教師を集めた研修会も実施している。

日本語教師を目指している人への「日本語教師養成講座」が日本語普及センターで行われているが、FJSPからも当該派遣専門家や常勤講師が出講している。スクーリングと通信教育で約1年間学習するこのコースは、1985年開講以来2002年現在で442人が修了している。この修了生の多くは日本で主催される各機関の本邦日本語研修に合格者が多いため、当地では教師の登竜門のひとつになっている。

地方の学習者には動機付けを高める工夫として、「日本語ポスター展」「サンパウロ奨励旅行」「日本語オリンピック」「子ども日本語試験」などのイベント企画を通して学習継続を促進させている。大学の日本語教育に関しては国内5大学で専攻課程、3大学で選択科目、15大学で公開講座を実施しているが、専攻課程を有する5大学から、FJSPの選考試験に合格した大学生約20名を招聘し、年二回のべ4週間の「集中授業」を行っている。

他に内外の日本語教育関係者が集う「学会」での発表、他機関との連携を図る目的で設立された「日本語協議会」に対する活動支援も業務の一部である。またブラジル教育局へは「Ensino de lingua Japonesa」いう国内の日本語教育機関(公教育)に関する統計調査を行い、標記データ集を毎年発行している。

日系移民140万人を抱えるブラジルでは、地方に点在する日系社会も意識せざるを得ない。日系社会の日本語教育の普及を支援しているJICA派遣の日本語教師は、ブラジル国内に現在50名を数えるが、「汎米日本語教師合同研修」「全伯青年研修会」「全伯日本語教師合研修」こうした他機関との連携になりたつ研修会への出講も当該派遣専門家の活動の一部である。また国内とはいえFJSPから数千キロも離れた地域の日系人団体や教師会から、名指しで直接講演依頼が舞い込むのも特徴的である。

サンパウロ東洋人街の看板もよく読むとの写真
サンパウロ東洋人街の看板もよく読むと・・・

派遣中に任国ならではの個人的な研究を見出すのも良い機会である。個人的には現在二つの研究を別々のスタッフと行っているが、この二つの研究は将来、有機的なつながりを持たせることを視野に入れて考えている。

ブラジルでは日本への就労いわゆる「デカセギ」が社会問題化している。いまや彼らの本国への年間送金額は、ブラジルが年間輸出するコーヒーの総額に相当するともいわれている。しかし経済面だけではなく、その子弟における教育面、特に言語的な影響や変化、こうした点の研究を個人的に進めている。ブラジル国内でこの研究に着手している研究者はまだ数が少ない。研究は日本語教師だけではなく、移民史を研究する社会学の教授との共同研究というかたちで実際に在日就労経験帰国子弟への直接面談を繰り返している。もうひとつの研究は、遠隔地教育の可能性を探っているものである。国土が日本の23倍というブラジルでは、教育に関して均等なものが提供しにくい。特に奥地ではなかなか教育の機会が少なく、一方で遠隔地教育の手法の研究(主に理系)も盛んである。この点に注目して、外国語教育を既存の国内型システムを使って、どのくらい運用あるいは拡張できるものか、こうした可能性に関して州立サン・パウロ大学・遠隔地教育センターと協力して研究を進めている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 国際交流基金サンパウロ日本語センターでは、ブラジルの公教育における日本語教育であるCEL(サンパウロ州外国語教育プログラム)、CELEM(パラナ州外国語教育プログラム)を中心に支援事業を展開している。具体的には、CEL/CELEMプログラムにおける教師研修、巡回指導、各種学習奨励事業などを実施している。また、初・中・高等教育段階における日本語教育や学校教育外の日本語教育の連携・協力体制を強化する目的で、関係諸機関が参加する「日本語協議会」を2001年度に発足させた。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Sao Paulo Language Center
ハ.所在地 Av. Paulista 37, 2o. andar, CEP01311-902, São Paulo, SP, Brazil
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る