世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 太平洋の架け橋

サンティアゴ大学
小松知子

チリと日本

チリ人に聞きます。日本と言ったら何を思い浮かべますか。「すし、ゲイシャ、空手、テクノロジー」。では、今度は日本人に。チリと言ったら何を思い浮かべますか。ある日本人曰く、「ワイン、地震、エビータ、アニータ、日本大使館占拠事件」。さて、この中でチリと関係ないものはどれでしょうか。(答えはいちばん最後。)

学習者はチリ人

日智文化協会日本語講座の写真
日智文化協会 日本語講座

チリの日本語学習者は、99%がチリ人です。「そんなの当たり前」と思うかもしれませんが、ブラジルやボリビアなどの日本語の先生方はみなとても驚きます。多くの南米諸国では、日本語学習者の大半が日系人子弟だからです。チリは日系人が非常に少なく、日系人子弟教育は週1回、数名が対象です。

では、どのぐらいのチリ人が学んでいるのでしょうか。今年は、サンティアゴ大学(通称USACHウサッチ)で約180人、日智文化協会の日本語講座で約100人です。USACHは今年で9年目、協会は16年目になりますが、入学希望者は毎年増えています。また、去年からチリ南部バルビディアという町の大学で日本語講座が始まりました。選択科目として様々な学部の学生が受講します。今年は58名が登録している人気の講座です。そして、今年初めて2つの高校で日本語講座が開かれました。ひとつは歴代大統領を輩出している名門校です。みんな日本のアニメが大好きだそうです。将来、日本語を話すアニメ好きの大統領が出るかもしれません。

このように、徐々に浸透しつつある日本語教育の現状を調査することは、派遣専門家の大切な業務のひとつです。

まだ少ないチリ人教師

上記の常設2機関で教えている12人の日本語教師のうちチリ人は2人で、まだ教え始めたばかりです。そして今、高校や地方でチリ人の先生が生まれています。日本留学経験のある先生方ですが、チリから日本へ留学する人は理系か社会系が多く、日本語を専攻して戻った人はまだいません。みな自分が日本で勉強した教科書を1冊手に一生懸命教えています。これからは、大使館やJICAと協力し合って、新しいチリ人の先生を積極的にサポートしていこうと思っています。

チリ日本語教師勉強会スタート

チリには「英語は勉強したけど、話せません。」と答える学生が多いので驚きます。公立中等教育では、英語の先生は文法を説明し、学生はそれを覚えるだけだそうです。日本語教育を同じように考える人も少なくありません。日本語とスペイン語が話せれば教えられると考える人もいます。

本の内容を説明することが「教える」ことなのか、会話文を暗記させるだけで「会話」が上手になるのか、「翻訳」と「読解」はどこが違うのかなど、考え話し合う機会が普段はなかなかありません。

そこで、今年の5月にチリ日本語教師勉強会をスタートさせました。現在のメンバーは18人。中には現在チリに住んでいるニュージーランド人とドイツ人の先生もいます。連絡や相談のためのメーリングリストも作りました。日本語ネイティブ、ノンネイティブ教師が一緒に考え、学び合い、力を合わせて学習者を育てていくという雰囲気を目指そうと思います。

USACHでの仕事

USACH「日本の祭」剣道デモの写真
USACH「日本の祭」剣道デモ

日ごろ授業をしているのは、USACHです。今年前期はチリ人の助手と組んで3年の日本語演習科目と4年の作文を担当しています。

3年の授業は、助手がスペイン語で文法項目を説明し、筆者が口頭練習と漢字をするという形で進めています。この方法は、母語でしっかり文法を理解し、口頭練習の時間は日本語だけで聴き話すというけじめができるので効率的です。助手はUSACHの卒業生で、去年日本で研修(基金日本語国際センター海外日本語教師長期研修)を受けたばかりですから、授業計画から各文法事項の理解まで細かく指導するようにしています。

授業の他に、学生の自主企画「日本の祭り」やピースボートとの交流会など課外活動の手伝いもします。学生の自主性を尊重した協力を心がけています。

期待されるUSACH卒業生

USACHの日本語講座は「翻訳課程」です。1、2年次はスペイン語と英語、日本語、ポルトガル語の三外国語を、3~5年次は英語と日本語の二外国語を専攻し、卒業すると「英西及び日西翻訳家」の資格を取得します。これまで4期が卒業していますが、市場に日西翻訳の需要もほとんどなく、5年では実力ある翻訳家の供給もできないというのが現実です。

そこで、昨年からカリキュラム改定の話し合いを重ねてきました。新しい案は、1年次から日本語を主専攻として学び、最初の3年間は四技能をしっかり身につける、内容的には「日本語学科」に近いものになっています。総合的な日本語力を身につけた学生には、いろいろな可能性が広がるに違いありません。今後、USACHで学んだ学生が日本へ留学し、専門を持ってチリへ帰り、日本研究と日本語教育の幅を広げてくれることを期待しています。今は、そのための土台と道標作りをしているところだと思っています。

(答え:エビータはアルゼンチン、日本大使館占拠事件はペルーです。)

派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
   及び業務内容
チリにおいて日本語教育機関を常設している2機関のうちのひとつであり、唯一の高等教育機関である。中南米スペイン語圏で唯一の日本語専攻課程であることから、チリ国内のみならず中南米における日本研究者、知日家を育成する重要な拠点として在チリ日本大使館をはじめ各方面から注目され、重要視されている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム、教材作成に対する助言、現地教師の育成等を行うと同時に、その他の教育機関の日本語教師への協力、ネットワーク作りも行う。
ロ.派遣先機関名称 チリ、サンティアゴ大学
University of Santiago of Chile
ハ.所在地 Avenida Libertador Bernardo O'Higgins 3363, Santiago, Chile
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部言語文学学科翻訳課程
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1993年から
専攻:1995年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2002年から
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人2名)非常勤4名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年50名、2年49名、3年38名、4年17名、5年24名
(2) 学習の主な動機 大衆文化への興味、留学など
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定3~2級程度
(5) 日本への留学人数 1名、短期研修2名

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