世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 北奔南走

サンティアゴ大学
小松知子

初代派遣専門家としてチリへ赴任して3年目を迎えました。今回はここでの活動の場を視覚的に整理してみたいと思います。

USACHでの毎日

03年度日本語弁論大会の写真
03年度日本語弁論大会

ひとつの小さな円を思い浮かべてみてください。この円はUSACH(サンティアゴ大学)のキャンパスです。学生スト、来学期の教師探し、カリキュラム改訂と様々な課題が横たわる中、学生や新人先生達の成長を見守り、いっしょに笑ったり泣いたり怒ったりする日々の生活の場です。

着任以来の変化といえば、日本語で話したがらなかった学生達がレベルに関わらず日本語を使うようになったことでしょうか。「夢の中でも日本語で話そうとしてうなされる」そうです。教師が何でも教えてあげ、わかってあげることは時には学生が日本語を使う機会やわかる喜びを奪ってしまうことにもなります。どうすれば学生は話すのか。学ぶのか。目の前にいる学生達が成果を上げることで、先生方との信頼関係も生まれます。漢字の勉強も片っ端から漢英辞書で調べるやり方から漢字カードを作って覚える方法に変わりました。学生と協力して作ったウエブサイト「うさちゃんねる」にはこの漢字カードやミニ辞書が載せてあり、だれでもダウンロードして利用できます。

先生方とは、学生の成長や問題についてよく話し合います。そして、共に同じ学生を育てているという意識を持ち、授業計画や教え方の工夫、試験の作り方、文法事項の疑問などについて相談にのったりのってもらったりしています。今年度は、教師陣ががらりと代わったので、心機一転の再スタートです。

チリ日本語教師のネットワーク

今度は、その外側にちょっと細長く円を描きます。これはチリで教えている日本語の先生方のネットワークの場です。着任時にはチリの日本語教育機関はUSACHと日智文化協会の2機関だけでしたが、現在では常設9機関(高等3初中等2日系2その他2)、非常設4機関(高等2初中等2)で行われており、03年5月に18人で発足したチリ日本語教師会のメンバーも29人になりました。教師会の活動は主にメーリングリストでの情報交換と年4回の勉強会で、教材の貸借もします。着任時には日本からの派遣教師は基金派遣専門家1人、チリ人教師も2人だけでしたが、今ではJICA派遣教師7人、チリ人教師7人になり、構成が様変わりしました。学習者の中からも教師希望者が出るようになり、今後が期待できそうです。

チリ社会の中で

そのまた外側にちょっと不透明な円を細長く描くと、そこはチリ社会、主に在チリ日本関係社会です。チリで日本語を勉強する学生を受け入れ、活躍することが期待される場です。不透明なのは未開拓な部分が大きいからです。近年、日本語弁論大会や大学生の企業実習などを通して、徐々に日本語を勉強する学生達とチリにある日本企業や日本と取引のあるチリ企業とのつながりを深めようとしています。USACHでは5年後期に実習を行います。アルバイトの仕事経験がほとんどないチリの学生にとって実習は実社会を知り、自分を知る貴重な機会です。また、それがきっかけで就職が決まることも少なくないので、実習先を広げ、相互理解のための仲介となるよう努めています。卒業生とのつながりも大切にし、相談にものります。ここでの活動は今後ますます重要になっていくでしょう。

中南米という広がり

第3回勉強会(カトリーナ先生)のマウリ語体験の写真
第3回勉強会(カトリーナ先生)のマウリ語体験

その外側に大きく中南米の日本語教育界とのつながりがあります。02年2月に国際交流基金の巡回セミナー講師としてボリビア(サンタクルス)とブラジル(ベレン、クリチバ)へ出張し現地の日本語の先生方と交流する機会がありました。ブラジルはポルトガル語圏ですが、共通する課題もたくさんあります。ブラジルの日本語を主専攻する大学との交流やインターネット上のスペイン語圏日本語教育ネットワーク構築など、今後じっくりそのつながりを強めていけたらと思っています。

日本から。そして、日本へ。

その左上離れたところに日本があります。日本からチリへ、チリから日本へと直接間接に橋渡しをします。学習者や教師のための訪日研修や奨学生試験の案内、実施、そして、帰国後のフィードバックなどを手伝います。また、日本語教育だけでなく、「日本からオーケストラの指揮者を呼んで指導してもらいたい」「仏典の翻訳で奨学金がもらえるか」など受ける問い合わせは様々です。大使館文化班や国際交流基金本部にメールで相談できる時代になって本当によかったと思います。

これらの層の中を行き来して、物や人や思いをつなぎ、風通しをよくするのが、この地での派遣専門家の任務ではないかと考えています。

チリは縦に細長い国です。「北に日本語の教材がないという人いれば‥、南に日本語のできる人材が必要という会社あれば‥」と、これからも北奔南走し続けたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チリにおいて日本語教育機関を常設している2機関のうちのひとつであり、唯一の高等教育機関である。中南米スペイン語圏で唯一の日本語専攻課程であることから、チリ国内のみならず中南米における日本研究者、知日家を育成する重要な拠点として在チリ日本大使館をはじめ各方面から注目され、重要視されている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム、教材作成に対する助言、現地教師の育成等を行なうと同時に、その他の教育機関の日本語教師への協力、ネットワーク作りも行なう。
ロ.派遣先機関名称 チリ、サンティアゴ大学
University of Santiago of Chile
ハ.所在地 Avenida Libertador Bernardo O'Higgins 3363, Santiago, Chile
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部言語文学学科翻訳課程
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1993年から
専攻:1995年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2002年から

(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人0名)非常勤3名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年59名、2年47名、3年35名、4年24名、5年14名
(2) 学習の主な動機 大衆文化への興味、留学など
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、英語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定3~2級程度
(5) 日本への留学人数 1名、短期研修2名

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