世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) サンチャゴ大学の日本語教育

サンチャゴ大学
今枝亜紀

日本からの訪問団を迎えて:盆踊りの写真
日本からの訪問団を迎えて:盆踊り

南米大陸の太平洋側にある南北に細長い国チリ、その首都サンチャゴはアンデスの山々を遠景に近代的な高層ビルが立ち並ぶ、ちょっと不思議な風景の街です。中南米というと日系社会の存在が思い起こされますが、ブラジル、ペルーなどとは違い、チリに住む日系人はそれほど多くはありません。しかし東洋系の顔の人に会うことは滅多にない地球の反対側のこの国でも、生活のいろいろなところで「日本」を目にする機会があります。最も人気の高い車は日本車、テレビではスペイン語に吹き替えられた日本のアニメが放映され、大きなショッピングモールなどのフードコートにはハンバーガーやピザのファーストフード店と並んで巻き物や握り寿司を売り物とする寿司のチェーン店が店を出すといった様子です。特に昨年サンチャゴで開催されたAPEC前後には日本文化関係の大きなイベントが開催され、日本に対する関心が一層高まったようです。

日本からの訪問団を迎えて:チリのフォルクローレの写真
日本からの訪問団を迎えて:チリのフォルクローレ

そんなサンチャゴにある国立大学の一つ、その名もサンチャゴ大学には、中南米スペイン語圏で唯一、日本語を主専攻とするコースがあります。もともとサンチャゴ大学は技術系が強い大学です。そのため日本語のコースも人文学部の言語学科に所属してはいますが、日本文学や日本語そのものの研究を主な目的とするのではなく、翻訳課程の中の1コースとして位置づけられています。このコースが開設されたのは1995年、当初は英語と日本語の2か国語を学ぶコースとして始められ、5年後の2000年度入学生からは1、2年生で英語、日本語、ポルトガル語の3か国語を学び、3年生になるときに英語・日本語コースか英語・ポルトガル語コースかに分かれるというカリキュラムに変わりました。2005年度の入学生は定員50名のところに約400名もの補欠入学待ちが集まるほどの人気でした。

このコースに国際交流基金からの日本語教育専門家が派遣されるようになったのは2002年からのことです。現地の先生方と一緒に授業を担当し、授業以外の行事や事務の仕事のお手伝いをするとともに、先生方の日本語の教え方や日本語そのものについての相談にのったりしています。

2005年度前期に担当している科目は1年生の「日本語1」と4年生の「日本語5」です。大学入学以前の中等教育段階で日本語教育を行なっている機関は数えるほどしかなく、学生のほぼ全員がこのコースに入ってはじめてゼロから日本語の勉強を始めます。学年が進むにしたがって「日西対照文法」「翻訳」「通訳」などの専門的な科目が増えますが、その基礎となる総合的な「日本語」の授業は1年生から5年生まで続きます。担当以外の授業も参観し、学生達や授業について先生方と話し合ったり、ほかの先生方の試験問題の検討に協力したりすることなども前任者の頃から続けています。学生からこんな質問を受けたのだけれどどう答えたらよいだろうか等という相談にのることもあります。

開設から10年、ポルトガル語が加わってから5年を経たコースのカリキュラムの見直しも業務の大きな柱の一つです。前任者の代に検討を重ね練り上げた案をもとに、各科目の具体的な内容について日本語担当講師間で意見交換を続けています。このカリキュラム改訂の大きな目的の一つは入学直後の1年生から英語・日本語コースと英語・ポルトガル語コースを分離することにあります。それによって日本語もポルトガル語も授業時間数が増え、学習意欲の高い学生だけを集めることでより教育の効率を上げていこうというのが狙いです。翻訳課程全体に関わることですので、日本語講師陣だけで決められることばかりではありません。学部や学科の会議にもできるだけ出席して、全体の中での日本語コースの位置付けを把握し、スペイン語、英語、ポルトガル語を担当している先生方とも共通理解をはかっていく必要があります。

所属機関のサンチャゴ大学以外でも日本語教育を行なうところがここ数年の間に増えてきました。選択科目として日本語を開講している大学は地方にもあります。高校で日本語の授業を行なっているところもあります。学校教育以外にも日本語や日本文化のコースを持つ機関もあります。機関の枠を越えての情報交換と相互研鑽のためにチリ日本語教師会が作られ、メーリングリストを利用して連絡を取り合っています。これからこの教師会でどんなことができるかを考えるのが、当面の課題です。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チリにおいて日本語教育機関を常設している2機関のうちのひとつであり、唯一の高等教育機関である。中南米スペイン語圏で唯一の日本語専攻課程であることから、チリ国内のみならず中南米における日本研究者、知日家を育成する重要な拠点として在チリ日本大使館をはじめ各方面から注目され、重要視されている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム、教材作成に対する助言、現地教師の育成等を行うと同時に、その他の教育機関の日本語教師への協力、ネットワーク作りも行なう。
ロ.派遣先機関名称 チリ、サンティアゴ大学
University of Santiago of Chile
ハ.所在地 Avenida Libertador Bernardo O'Higgins 3363, Santiago, Chile
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部言語文学学科翻訳課程
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1993年から
専攻:1995年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年から

(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人2名)非常勤3名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年57名、2年50名、3年31名、4年30名、5年22名
(2) 学習の主な動機 大衆文化への興味、留学など
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、英語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3~2級程度
(5) 日本への留学人数 1名、短期研修2名

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